002 やっぱさ、悪い事をしたら逃げるのが一番だよね。
俺はゲイルを睨みつけつつ、レイさんから借りた下着の位置を微調整します。
そして空間を二回タップしステータス画面を呼び出しました。
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LV.61 カズハ・アックスプラント
武器 右手:闘技大会用片手剣(攻撃力25)【二刀流】
左手:闘技大会用片手剣(攻撃力25)【二刀流】
防具:レインハーレインのブラジャー(防御力0)
装飾品:火撃の指輪(魔力3)
特殊効果:斬撃強化(小)、火属性強化(小)
状態:正常
魔力値:2790
スキル:『ファスト・ブレード(片) LV.17』『スライドカッター(片) LV.45』『アクセルブレード(片) LV.30』『スピンスラッシュ(片) LV.31』『ツインブレイド(二) LV.19』『ブルファイト・アタック(二) LV.18』『センティピード・テイル(二) LV.13』『ダブルインサート(二) LV.8』『エクセル・スラッシュ(二) LV.7』『ツーエッジソード(二) LV.1』
魔法:『力士(陰)』『蛇目(陰)』『塩撒(陰)』『隠密(陰)』『悪夢(陰)』『迅速(陰)』
得意属性:『火属性』『陰属性』
弱点属性:『光属性』『闇属性』
性別:女
体力:3192
総合結果:『正常』
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……うーん……。
今目の前で相変わらず俺を睨みつけているこのゲイルの力は本物だし……。
奴の言う通りこの世界を本気で救うんだったら、出し惜しみしてないで最初から全力で行くしかない、か。
ていうかレベルが61だったら本当は魔王を倒せるくらいの強さなんですけど……。
俺の記憶だと一周目の時はレベル55でクリアできたのに、どうやら色々と(俺が)やらかしているせいで全体的に攻略に必要なレベルが大幅上昇しちゃっている気がします。ていうか、してます。
だって現時点でゲイルの動きが見えないんだもん。
この流れでいうと四魔将軍も相当強くなっていると思われ……。
「ビビッてやがるのか? 来ないのだったら、またお前の貧相な胸を観客の前に晒して――」
「誰が貧相な胸だこの元クサれ勇者がーーーっ!!」
ゲイルの言葉にプッツンきた俺はそのまま画面をタップして二刀流スキルの『ツーエッジソード』を発動。
もうマジ怒った。手加減なんて絶対にしない。ボッコボコにする。
「二刀流で攻撃力二倍! ツーエッジソードで更に二倍!! ふんがーーーー!!!」
その場で地面を蹴りゲイルに向かって猪突猛進。
本当に二本の剣を頭に構えて飛び込みます。
「《ブルファイト・アタック》!!!」
そのままさらに二刀流スキルを発動。
しかしゲイルはいとも簡単にそれを避け、身体を反転させ宙に飛び上がります。
「――《氷月刀》」
『刀』抜いたゲイルは上空で半円を描き。
斬り裂かれた空間から氷河のようなうねりが出現する。
「いや冷たっ!? 痛いし足元凍ったし!!!」
身動きが取れなくなった俺は咄嗟に火魔法で氷を溶かそうとします。
……。
…………うん。
まだファイアボールすら習得してなかった!!!
「か、カズハ様……!!」
「結局お前は口だけの奴だったってことだ……! こんな茶番、さっさと終わらせてやる……!!」
そのまま地面に降り立ったゲイルは再び『刀』を構え大技を発動しようとしています。
いや茶番っていうか、お前がチートなんだろうが!!!
どういう仕組みか分からないけど、四宝の『刀』を具現化できるなんて……いや、具現化?
四宝はまだこの世界には誕生していない……。あの『刀』はまがいもの――?
「カズハ殿!! ようやく帝国兵らの闇魔法を解除できましブーーーーーーー!!!!」
まるでタイミングを計ったかのように変態紳士グラハムが登場。
レイさんの時と同じく俺の状況を目視するや否や鼻血を吹き出しながら派手にすっ転びました。
その瞬間、ゲイルの集中が途切れたのを俺は見逃しません。
「その身に繋がれし楔は死の契りよりも堅し! 《鎖錠》!!」
「!」
俺の詠唱の直後、ゲイルの左右にある空間にぽっかりと小さな穴が開く。
そしてそこから勢いよく鎖が飛び出し、大技を仕掛けようとしていたゲイルの右腕と左足首を拘束した。
「ちっ、小賢しい陰魔法を……! だがこんなものじゃ俺の詠唱を中断させることなど――」
「悪しき物の怪を閉じ込めるは女中の寄坐! 《封呪》!!」
「なっ――」
連続で陰魔法を発動した俺はその間にどうにか凍った足元から脱出を試みます。
うーーん……。うーーーーーん…………。
その間にも異界から出現した着物姿の、しかも人の二倍の背丈はあろうかという大女は大きく息を吸い。
それに引っ張られるようにゲイルの魔力がどんどん吸収されていっています。
「俺の魔力が……。 ! ちっ、そういうことかよ!!」
スポンッ!
「あ、抜けた! おっしゃぁ!!」
無理矢理凍結から脱出した俺は再び競技用の剣を両手で構え、上空に跳躍します。
それと同時に着物姿の大女は更に顎が外れんばかりの大口を開け、奴から吸収した魔力を解放しようとします。
「クソが! 《次元刀》!!」
『刀』を構え、再び能力を発動しようとするゲイル。
しかし次元を斬る力が発動するばかりか、次の瞬間、具現化した『刀』は消滅してしまいました。
「その『刀』はお前の魔力で具現化させたまがいもの!! だったら一時的にでもその魔力を封じてしまえば、お前は能力を発動できなくなる!!」
「!!」
上空で回転しつつ急降下する俺と、魔力を解放しようとする大女に挟まれたゲイルは目を大きく見開きました。
そして――。
「《エクセル・スラッシュ》!!」
『阿阿亜亜亜あぁぁぁぁぁぁぁぁ………!!!』
俺の渾身の二刀流スキルと化物女のコンボ攻撃。
それが見事ゲイルにヒットし、場内に爆風が吹き荒れました。
「こ、この威力は……!!」
「カズハ様……!! お兄様……!!!」
確かな手ごたえを感じた俺は剣を下ろし、大女に右腕をかざします。
そのままバキバキと音を立てて奇妙に捻じ曲がった女はそのまま異空間に飲み込まれていきました。
あーキモ。相変わらず。陰魔法で出てくる怪物達。
でもまあこれで『鎖錠』と『封呪』も習得できたから一石二鳥だけど。
「…………ぐっ…………」
「げ! 生きてるし!!」
吹き荒れた会場の靄が晴れ、次第に視界が良好になった所にゲイルの姿を発見。
全身はボロボロだけど、まだまだ全然戦えそうな余力を残しているっぽい……。
「……クソいてぇ……。てめぇ、手加減ていう言葉を……知らねぇのかよ……」
右手と左足を拘束していた鎖を引きちぎったゲイルは、苦虫を噛み潰したような顔を俺に向けてそう言いました。
じゃあ、はっきりと言いましょう。
――お前に手加減する義理なんて、鼻クソほども無い!!!
「カズハ様、お兄様! もうこれ以上は……!!」
慌てて舞台に上がってきたレイさんはゲイルの側により奴の背中に手を差し伸べる。
……俺も両足が凍傷しててめっちゃ痛いんだけどね。
ていうか誰か着るもの貸してください。流石に恥ずかしい。この半裸の格好。
「なあ、まだやるの? 俺、ストリッパーじゃないんだけど」
「…………」
俺の言葉に何も返答しないゲイル。
もう疲れたし、いい加減お風呂入りたい。あったまりたい。
「……ゲイル殿……」
グラハムも会場に上がり、流石に見ていられないのか俺に上着を寄こしてくれました。
寄こしてくれたのはいいけど、鼻を抑えながらガン見するのはやめなさい。みっともない。
「…………はぁ。負けだ、負け。もうこれ以上はやる意味はねぇ」
「お兄様……」
その言葉を聞き、レイさんはほっと胸を撫で下ろします。
「そこのガタイの良い兄ちゃんよ。あんた帝国の兵士なんだろう? このまま俺を連行してくれ」
「へ?」
「これだけの騒ぎを起こしちまったんだ。当然だろ」
「……しかし……」
ゲイルの言葉に動揺するグラハム。
確かに奴の言う通り観客二千人を人質にとり、警備兵や他の参加者を闇魔法で操った罪は重いだろう。
でもね、みんな忘れてない?
――ここに、もっと酷い奴がいることを。
「よし。逃げる準備するぞグラハム、レイさん」
「え?」「はい?」
ポカンとしたまま口が塞がらない二人。
俺は競技用の剣をその辺に投げ捨て、ゲイルの元に向かいます。
「逃げるってお前……。これだけ目撃者が居て、しかも俺はもう満足――ぐはっ!?」
「うるさい黙れ。そして気絶してろ」
なんかごちゃごちゃうるさいゲイルの鳩尾にワンパン入れた俺は、そのまま雑に奴を担ぎます。
会場中の観客がポカーンとしている今がチャンス!
「じゃ、先にこいつ連れて逃げてるから! 落ち合う場所は分かるよな! 《隠密》!!」
「あ、ちょ、カズハ殿!!」
陰魔法を発動しゲイル共々半透明になった俺は二人をその場に残し、全速力で会場から逃げ出します。
「…………」
「…………」
顔を合わせるグラハムとレイさん。
その額には脂汗がたんまりと浮き上がっていたようでした。
「「か、かか、カズハ殿(様)あああああぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」」




