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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第九部 カズハ・アックスプラントと竜人族の姫(中編)
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012 色々悩んだって仕方がないから、今やるべきことを最速最短で一つずつクリアしていきます。

 ――カズハ・アックスプラントが目を覚ましてから更に二日が経過した。


 帝国医師団の診断ではグラハム・エドリードは全治三ヶ月の重傷と診断。

 カズハに至っては全治六ヶ月の重傷と診断された。

 二人とも絶対安静のまま、帝国と議会、そして世界は竜人族の去就に注目を集めることとなる。


 そんなある日の朝――。



「か、カズハ様とグラハムさんが病室から姿を消した……!?」


 もぬけの殻となった病室の前でエリーヌ・アゼルライムスの悲鳴にも似た声が響き渡る。


「は、はい……。今朝の治療を始めようと病室に向かったのですが、どうやらあの窓から抜け出したようでして……」


 慌てた様子で医師はそう説明する。

 まだ魔屍軍との戦いを終えてから五日ほどしか経過していないこの状況で、病室を抜け出せるほどの体力が戻ったとは考えにくい。

 医師は必死にそう釈明するが、エリーヌは一度呼吸を整えた後に彼にこう告げる。


「……すぐにザイギウスに報告をして。そして帝都周辺とアゼルライムスの街にも警備兵を向かわせてちょうだい」


「ひ、姫様はどこへ……?」


「私はひとつ、確認しなくてはいけない場所があるの」


「……?」


 それだけ言い残したエリーヌは足早に病室を後にし、目的の場所へと向かって行った。





 ――帝都内、大聖堂。勇者『炎のオルガン像』前にて。


「!! やっぱり……」


 大聖堂の前に悠々とした姿で勇者の剣を構える帝国に伝わる初代の勇者、オルガン。

 世界遺産にも登録されている神聖なる銅像の足元に掘り返されたような穴を発見し、エリーヌは膝を突いた。


「カズハ様の仰っていた『火の魔術禁書』の隠し場所……。これを持ち去ったということは、カズハ様は今一度あの魔屍王と戦うおつもりで……」


 まるで心臓を鷲掴みにするかのように胸に手を当て一人呟くエリーヌ。

 彼女はもう、これ以上愛する者の傷付く姿を見るのが耐えられずにいた。

 そしてカズハらが自身に相談をせず、隠れるように城を抜け出したことにも鉛の重しのように心に強く圧し掛かってくる。


「……私は……足手まといなのでしょうか、カズハ様……」


 帝国の姫という立場を忘れ、憧れの冒険者になった気でいた彼女はカズハが手の届かない場所へと行ってしまうことが何よりも恐怖だった。

 命を守られていてばかりで、守ることができない――。

 未来の夫のために、自身はただ帰りを待つだけの存在となる――。


「……? これは……?」


 掘り返された穴の中に何かの切れ端を発見したエリーヌは恐る恐るそれに手を伸ばす。

 そこには見覚えのある字でこう書かれていた。



--------------------

エリーヌへ


この手紙を読んでいるということは、俺が何をしようとしているのか、お前は理解しているんだと思う。

何も言わずに火の魔術禁書を持ち出して、城を抜け出してごめんな。

俺は絶対にリリィとイーリシュを救い出し、魔屍王に勝ってみせる。


お前は、お前にしかできないことをしてくれ。

この国のこと。国民のこと。そして親父さんやお袋さんのこと。

それらを守るのがお前の本来の役目だろう?

必ずまた戻って来るから、それまでこの国のことを頼む。


それと今から約一か月後に、帝都に魔獣王の軍勢が攻めてくるはずだ。

このことを親父さんに進言し、帝国周辺の設備をできるだけ強化しておいて欲しい。

その時までに『強力な助っ人』も何人か寄こすから、そいつらの面倒も見てやってくれ。

よろしく頼む。


カズハより

--------------------



「……カズハ様……貴女は……」


 その手紙を何度も読み返したエリーヌは、顔を伏せ唇を強く噛んだ。

 この文面から察するに、彼女はまだ私に伝えていない『何か』の情報を隠し持っている。

 思い返せば、彼女の私に対する愛情が常識をやや超えるようなものが多かったことも気になっていた。

 そして時折見せる悲しそうな顔。そして焦り・・のようなもの。

 帝国が誇る屈強な兵士団をよそに、わざわざ助っ人・・・を用意することなどから察するに――。


 ――私は恐らく・・・・・魔獣王に・・・・殺されるのだ・・・・・・、と。


 魔屍王を倒せば、その未来も回避できるということなのか。

 それとも魔獣王を倒せるほどの力を、残りの一ヶ月で身に着けるということなのか。

 それらはきっと彼女にしか分からないことなのだろうけれど――。


「……分かりました、カズハ様。私も貴女と一緒に、『自身の未来』と対峙いたします」


 手紙を懐に仕舞い、顔を上げ立ち上がるエリーヌ。


 もう彼女の瞳には一切の迷いも感じ取られなかった。





 ――同刻。

 始まりの街アゼルライムスより北に250ULウムラウトほどにある湿地帯にて。


「……よろしかったのですか? エリーヌ姫様に別れの挨拶を済ませずとも?」


 俺の横を歩くグラハムが全身の包帯を解きながら俺に話しかけてくる。

 城を抜け出してここまで歩いて来たけれど、流石に日も高くなってきたし、全身包帯まみれじゃ歩きづらいしね。俺も解いちゃおう。邪魔だし。


「ああ。彼女だったらオルガン像の下に埋めておいた手紙にすぐ気が付くだろうし。それに今度こそ帝王もザイギウスのおっさんも、彼女を連れ出すのには猛反対するだろう?」


「それはそうでしょうが……。その『火の魔術禁書』とやらをカズハ殿が持ち出したと知れたら、また帝国でも騒ぎになるのでは?」


「それも大丈夫。偽物とすり替えておいたから。雑に穴を戻したのはエリーヌに手紙のことを気付かせるためだし、その辺も彼女だったらよく分かってるだろ。すぐに綺麗に埋め戻してくれると思うよ」


 黒服の隙間からスルスルと包帯を解く俺。

 本当は全裸になって一気に解きたいんだけど、アホグラハムが鼻血出して歓喜しちゃうからやりません。

 ……てか今のこの状況で鼻血噴き出したら失血死しそうだし。俺らには血が足らんねん、血が。

 あ、ちなみにエリーヌとお揃いの魔道服は大きな穴が開いちゃったので、街を抜け出す前にあのウザイ店員のいる洋裁店で一番安い黒装束を100Gで買って着替えました。

 さすがに入院服のまま街を出るのは気が引けるからね。


「これから向かう先は『エーテルクラン』だと仰っておりましたが……。最短で精霊の丘に向かわれたほうがよろしいのでは? あの丘に住まうという精霊と契約し、勇者の剣を手に入れるのが二つ目の目的・・・・・・なのでしょう?」


「うん。そうだけど、その前にエーテルクランに寄って、やんなきゃ・・・・・いけないこと・・・・・・も結構あるんだよね。助っ人の件もあるし」


 包帯を全部取り終えた俺はお腹に手を当てて様子を確認してみます。

 うん。まあこれぐらい傷が塞がってればどうにかなるでしょう。

 グラハムもそうだけど、俺達の生命力はゴキブリ並みだからね!


「三つの目的以外にもやること……。ふむ、それに『助っ人』とやらも気になりますな。手紙では『何人か』と書いていたようですが、あの街にその者達が現れると?」


 大きく肩を回したグラハムは、一部だけは包帯を残したみたいです。

 まあじんわりと血が染み出しているし、まだ全然傷が塞がっていないんだろうね。

 俺よりも広範囲に傷がある分、グラハムのほうが戦いづらいかもしれません。

 ……まあどっちもどっちだろうけど。


「ここが『一周目の世界』のやり直しだとすると、アルゼインはたぶんまだエルフィンランドで妖竜兵団にいるんだろうから、あの街には居ないだろうな。情報屋に金を渡して貰った『リスト』にも名前が載ってなかったし」


「リスト?」


 グラハムが首を傾げたので俺は懐から分厚い用紙を取り出して奴に手渡します。

 もう必要な個所は頭に入ってるから用紙はグラハムに持たせておこう。重いし。かさばるし。


「これは……今現在エーテルクランで開催されている闘技大会の参加者リストですか?」


「うん。そこのエントリーNo.3201とNo,3202に載っている男女。そいつらを『助っ人』として仲間に入れてエリーヌの護衛をさせようと思って」


 この世界に飛ばされる前にメビウス婆さんから情報を聞いておいて本当に良かったです。

 あの(変態)兄妹が闘技大会に参加しているんだったら、話は早い。


 拳で語り合って、強制的に仲間にしちゃいます。通常どおり。



「――『ゲイル・アルガルド』。そして『レインハーレイン・アルガルド』。俺と同じく勇者の特性を持つ、アホみたいに強い兄妹さ」




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