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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第九部 カズハ・アックスプラントと竜人族の姫(中編)
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008 久々にブチギレたけど仲間の一言で冷静になれました。

『ケケ……ケーッケッケッケ! 思った以上にやるではないか、ニンゲン共も。ケケ、ならばここは儂自ら行くしか無いかのぅ』


 上空で戦況の行く末を見守っていたゼロスノートは不気味に笑い、再び魔杖を高らかと掲げた。

 そして異空間の扉が開き彼の周囲に四つの巨大な黒い球が召喚される。

 それらがゼロスノートを中心としてぐるりと回転を始め、それを合図として彼は魔屍軍と奮闘中のカズハらに向かい急降下をして行った。




「! 来ますぞ!」


「ゼロスノート……!!」


 グラハムとイーリシュが上空を睨み同時に叫びます。

 ここに来て遂に親玉が登場。

 つまり俺達は奴の魔力をある程度減らすことができたという証拠。


「よし……。ここまでは計算通り……だけど!」


『ケケケ、《ダークサーヴァント》!!』


 俺のすぐ上空に八本の黒銀の槍が具現化され、直後、猛烈な勢いで降り注いできます。


「お、た、よっと……! あぶねぇな! いきなり!!」


「カズハ殿! ここは我ら三人で取り囲んで、一斉に奴を――」


『無駄じゃよ、若いの。ぬしらと儂では生きている時間も魔力も、天と地の差があるぞい。《グラビティバースト》!!』


 魔杖をグラハムに向けたゼロスノートは無詠唱で闇魔法を連発。

 一体どれだけの魔力を宿していやがるんだよ、こいつ……!

 もはや俺の記憶にある魔屍王じゃねぇじゃんかよ!!


「ぐっ……! なんの、これしき……!!」


「駄目よ! 後ろに飛んで!!」


「え――」


『遅いわ。《グラビティ・イクスプロウド》!!』


 闇魔法の爆発をどうにか凌いだグラハムに、更に追い打ちを掛けるように連発するゼロスノート。

 あの魔法は……グラビティバーストの上位魔法?


 ドン、という耳を劈くような爆発音と共にグラハムは森の奥まで吹き飛ばされてしまう。


『ついでじゃ。この玉も一緒にあの森に隠れている厄介な魔道士らにくれてやろう。《ダークソウルスフィア》!!』


「!!」


 奴の周囲を取り巻いていたあの巨大な黒い球が四つ、吹き飛ばされたグラハムに追随するように飛んでいく。

 いくらリリィがいるからって、あの数の玉を放たれたらあいつらは――。


「この……!!」


 険しい表情のまま地面を蹴ったイーリシュ。

 竜槍をしっかりと構え、全身全霊、渾身の突きをゼロスノートに放つも――。


『No Damage』


『ケーッケッケッケ! なんじゃその柔な槍は? 見掛け倒しもええところじゃのぅ!』


「あ……」


 易々と槍を奪い取ったゼロスノートはイーリシュの腕を掴み、自身に引き寄せる。

 あまりの力の差に身じろぎすることもできないイーリシュは、ただ恐怖に表情を引き攣らせていた。


「……やめろ」


『ケケケ! この美しい顔……そして身体。長年夢見てきたイーリシュ姫が我が手に……ケーッケッケッケ!!』


 醜い顔を歪め、ゼロスノートは長い舌を出しイーリシュの首筋を舐め上げた。

 そして空いているほうの手で彼女の全身を弄り、感触を楽しんでいる。


「い……嫌……」


『そのうち嫌では無くなるぞい? 儂の奴隷になった女子は皆、何故か感情を失って従順になってしまうからのぅ。まあ姫と言えども、儂が飽きたら四肢を切り刻んで世界中の蒐集家に高く売りつけるだけじゃがの。ケケ、ケケケケケケ!!!』


「――っ!」


 狂気の極み――。

 魔屍王に捕らわれた者は五体満足で生きて帰った者など存在しない。

 俺の背後の森で大きな爆発音が鳴り響く。

 エリーヌ、リリィ、グラハム――。

 俺は、誰も。誰の一人も、救えない……?


「やめろって言ってんだろうが! このクズ野郎が!!」


 プツンと何かが頭の中で切れる音がして、俺は無意識のまま地面を蹴った。

 そして無秒の細剣を構え、がむしゃらに魔屍王に斬りかかる。


『No Damage』、『No Damage』、『No Damage』、『No Damage』――。


 奴の周囲に見えない壁が張られ、捕らわれたイーリシュにすら触れることも叶わない。

 

 ――これが『世界』の答え、ということなのだろうか。

 俺もここで魔屍王に殺され、元の世界ではジェイドが世の中を支配する……?


『No Damage』、『No Damage』、『No Damage』、『No Damage』。

『No Damage』、『No Damage』、『No Damage』、『No Damage』、『No Damage』――。


『しつこいのぅ、おぬしも。なんじゃその貧弱な剣は』


 ため息交じりにそう呟いたゼロスノートは、無秒の細剣の切っ先を二本の指で掴む。

 そして軽く魔力を込め、いとも簡単に粉砕してしまう。


「……もう、いいわ。逃げて。貴女だけでも、ここから……」


『ケケケ! 逃げる? 逃がすわけが無かろう! 姫も、おぬしも、あの森におる女二人も! 儂の物と決まったのじゃからの! ……あの大男くらいは我が手下の餌にしてやるつもりじゃがの』


「……?」


 ――あの森にいる・・・・・・女二人・・・

 つまり奴はまだエリーヌとリリィを生かして――。


「神の炎は魔を貫き人心を掌握せん! 《神聖なる大炎槍シャイン・クリムゾンスピア》!!」


「全ての闇を払う力をここに! 《シャインイクスプロウド》!!」


 直後、ゼロスノートに向かい火を纏った槍の閃光と光の爆発が同時に発動。

 そして上空から急降下してくる男――。


「速! 攻! 迅! 雷! 《サンダリオン・ランス》!!」


『ほう……?』


 一瞬だけ表情を変えたゼロスノートはそれでもイーリシュを離さず魔杖を構え防御の姿勢をとった。

 爆風で視界が遮られた先に現れたのは――。


「リリィ! エリーヌ! グラハム!」


「ごめん、遅くなって。でも、もうここは全員で行くしかないでしょう?」


「カズハ様、すいません……! もう私、居ても立っても居られなくて……!」


 俺の元に駆け付けたエリーヌの目は涙で濡れていた。

 ずっと後方で俺達を支えてくれて疲労しているはずなのに、俺のことを本気で心配してくれている。


「ぐっ……。まずは姫をあの外道から引き離さなければならないのですが……」


 グラハムはボロボロになった鎧を脱ぎ捨て、傷だらけの身体でゼロスノートを睨みつけている。

 爆発の衝撃により皮膚がただれ、血肉が浮き出てしまっている彼は、それでも自身の命を顧みずに敵に立ち向かおうとしている。


「カズハ。私はグラハムに回復魔法を唱え続けないといけないから……」


「ああ。……亀のほうは?」


「……ええ。姫様から貰った『餌』はもう食べさせてあるわ」


「……そうか。じゃあ、やることは一つしかないな」


 イーリシュを魔屍王から引き剥がし、巨雷亀に乗ってこの島から脱出する――。

 たとえその後に魔屍軍との海上戦が控えていようとも、このままここで全滅するよりは生き残れる可能性は高いだろう。


 ――たとえその確率が0%に近かったとしても、俺達はやるしかないのだから。


「……グラハム」


「はい。カズハ殿」


「もし死んだら、ごめんな」


「それはお互い様ですぞ。それに死線など、世界が平和になるまでに何度も潜り抜ける必要がありますから」


 グラハムのその言葉を聞き、何故か俺の心は少しだけ落ち着きました。

 まるで三周目の世界での俺達の戦いを体現してきたかのような言葉。

 その言葉を聞けただけでも、俺はまた一つ強くなれたような気になれます。


 そして俺は胸いっぱいに息を吸って、三人に向かってこう叫んだのでした。



「全力でイーリシュを助けるぞ!!! お前ら!! 命を俺に預けてくれ!!!」




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