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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第九部 カズハ・アックスプラントと竜人族の姫(中編)
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004 フェロモンって出てるのかどうか本人は分からないよね。

『グオオオォォォ……!』

『コロセ……クエ……! ニク……ニグゥゥゥゥ!!』


 海岸に降り立った不死身の軍勢は全身ドロドロのアメーバ状のまま僅かに形を残して侵攻してきます。

 奴らの弱点は火属性。

 ここで振り向きざまに一発、デカい魔法でもぶっ放せばもうちょい時間が稼げるかもしれないんだけど……。


「なあ、フェロモン姉ちゃん! お前火魔法とか使えないのかよ!」


「! さ、さっきからフェロモンフェロモンと……! 貴女失礼にも程があるわよ!!」


「痛い痛い痛い! ちょっとだけ刺さってるケツに!! 槍、槍!!」


 俺のすぐ後方を走るフェロモン、否、イーリシュは竜槍の尖端を俺のケツに向けてついてきています。

 ちょっとそういうのは上に向けるか後ろに向けてくれませんかね!

 もし俺が急に止まったりしたら穴が開くだろ! ケツに!


「カズハ殿の得意属性は『火』だと聞いておりましたが、もしやまだどの火魔法も習得されておらぬのですか?」


「うん!」


「なんと……」


 グラハムの質問に元気良く答えると何故か頭を抱えてしまう二人。

 あー……この様子だと誰も火魔法を使え無さそうですね。

 グラハムは『土』と『陽』が得意属性だから使えないのは知ってたけどね……。


「この子は戦力にカウントできないってわけね……。ねえ、そこの貴方は強そうに見えるけど、この島に他に仲間はいないの?」


「あ、いまさらっと俺のこと馬鹿にしただろお前!」


「今我らが向かっている先に二人、帝国魔道士と我らが姫がいらしております。ですが、このままですと――」


 話の途中で急に黙り込むグラハム。

 確かにこのままエリーヌ達と合流すると、あの魔屍王に彼女の存在を知られてしまう。

 オルドラド皇国の皇女とアゼルライムス帝国の王女――。

 この二つの駒を魔王軍が手にしたら、恐らくこの戦争に人間族は負けてしまうだろう。


「姫……? まさかエリーヌ様がおいでに? ……これは竜神様のお導きなのかしら」


「おいおいおい! お前もしかしてエリーヌを餌に、この状況から一人だけ逃げ出そうとか考えてないだろうな!!」


「ギロリ」


「痛い痛い痛い! 痛いっつの!! 槍! 先!! ケツ!!!」


 再三に渡り俺のケツを槍先が襲います。

 いやいやいや、もうやめようよ! そういうの!

 今本当にピンチなんだから!


「しかしあの軍勢を足止めするには、集団戦に長けているリリィの超範囲魔法が必須……。彼女であれば得意属性に関わらず全ての属性の魔法を使うことが可能です。ここはやはり姫様らと合流するしか方法はありますまい」


「うーん……まあいちおうエリーヌも変装はしてるからなぁ。すぐにはバレないかもしれないけど……。合流して、リリィに足止めをしてもらって、それからどうすんの? あの亀だってまだ出発できないだろうし……」


「亀……? そうか、貴女達、アゼル巨雷亀に乗って……。だったらまだチャンスはあるわ」


「ほえ?」


 ようやく槍を上に向けてくれたフェロモン、こほん、もうやめよう。

 イーリシュは懐から何やらアイテムを取り出して俺達に見せます。

 あ、ごめんね。いま取り出すときにちょっとおっぱいの谷間が見えちゃった。まあいいよね。


「それは……?」


「『養壮白子玉』よ。巨雷亀の体力を急速回復させるアイテム。これを与えればすぐにでも出発できる」


「マジで!?」


 俺がそう言うと満面の笑みを返したイーリシュ。

 へー、できるじゃん。そういう可愛い笑顔とか。

 なんか取っ付きにくい奴のかなぁとか思ってたけど、そうでも無さそうですね。


「決まりですな。このまま森の反対側を迂回しつつ、姫様らと合流。そのままカズハ殿は姫様とイーリシュ殿を巨雷亀まで援護をお願いいたします」


「あ、貴方はどうするの?」


「当然、魔屍軍の足止めをいたします。さすがにリリィだけでは骨が折れるでしょうからな」


「無茶よ! あの軍勢だけじゃないのよ? 魔屍王だっているのに、たった二人で足止めするなんて……そんなの自殺行為よ!!」


 そう叫んだイーリシュは俺を抜いて前方を走るグラハムに並びました。

 あら。なんか文句を言い始めたけど、こうやって後ろから見てみると意外にお似合いな感じに見えなくもないね。

 めちゃ身体がデカいグラハムに劣らないほどのスレンダーな高身長のイーリシュ。

 ……うーん。なんかちょっとイラっとしてきた。おもにグラハムに対して。


「そんな簡単に死ぬつもりなどありません。我らは帝国軍人として我が国の姫と、同盟国の姫をお守りするだけ。当然の義務です」


「義務とか、今はそういうことを言っている場合じゃ――」


「はいはい。喧嘩は後にして、ホレ、上」


「……上?」


 俺が上空に指を指すと二人とも走りながらそれを確認します。

 ……まあ確認するまでもなく『魔導矢』の雨あられなんですけどね。

 数は……100本くらいか。


「……やはり簡単には逃がしてくれませんか。カズハ殿、ここは拙者が――」


「いや、俺が行く。グラハムはこのままイーリシュと森を突っ走ってくれ」


 そのまま後ろを向いて急ブレーキ。

 俺は背中から無秒の細剣を抜きます。


「貴女……! 火魔法も使えないくらいだったんじゃ……!」


「だまらっしゃい! 出来るわこれくらい!! ホント腹立つなお前!!!」


「行きますぞ! イーリシュ殿! カズハ殿のことなら心配はいりませぬ!」


「でも……」


 なんかまだ遠くでゴニョゴニョ言っているのが聞こえるけど、これが最適解です。

 大丈夫。俺だって相手との戦力差くらい頭に入ってるから。

 そっちは頼んだよーん、グラハム。


「《迅速》」


 陰魔法を詠唱。

 俺の敏捷力が大幅に強化される。

 そしてそのまま大きく跳躍。

 放たれた100本の矢に向かって突進します。


「《スライドカッター》! 《ファスト・ブレード》! 《スピンスラッシュ》!!」


 舞う剣閃。

 次々と繰り出す片手剣スキルにより魔導矢は弾かれていく。

 やっぱ軽さを追求した刀って使えるよね。

 7980G以上の価値があるわ、無秒の細剣。

 エリーヌ、ホントにありがとう。お金くれて(ヒモ)。


『……ほう? あやつは……?』


 遠くで俺を凝視している二つの目。

 あー、忘れもしないあの顔。相変わらずゲスっぽい酷い顔をしていますね。


「うーん……? あー、今日はハズレか・・・・・・・


 全ての魔導矢を弾き返し、俺はそのまま同じ場所に落下します。

 遠目で確認しただけだけど、今日の魔屍王の持っている杖は『ハズレ』です。

 たぶん魔杖のほうじゃないかな。

 ……まあハズレっていうのは弱いっていう意味じゃなくて、ドロップアイテムの話なんですけどね。


 魔屍王ゼロスノートが所持している世界三大魔法杖。

 聖杖フォースレインビュート。魔杖ダグラスローベルト。妖杖フェルスグリアモール。

 この三つのうち、奴が今現在装備しているものが討伐後のドロップアイテムとして確定で手に入る仕様になっています。

 で、リリィの目的は聖杖なわけだから、奴がそれを装備している時を狙って倒さないと絶対に手に入らないっていうルールなのかな?

 面倒くせぇ仕様だよな、ホンマ……。


「……よっ、と。さあて、空から確認できた感じ、ざっと見、魔屍軍のザコが300匹と中ボスの魔屍王が一匹……。ザコのほうは覚醒リリィ先生がいるからどうにかなりそうだけど、あの中ボスがなぁ……」


 とりあえずグラハム達の後を追うために再び走り始めます。

 魔屍王とグラハムの一対一は、今の段階だと確実に分が悪い……というか、あのフェロモン姉ちゃんの言ってたとおり自殺行為だと思います。

 運良く時間稼ぎができたとして、二人を亀に乗せて、なんちゃら玉を亀に食わせて逃げる準備が整ったとしても、たぶん魔屍軍の伏兵がすでに島全体を取り囲んでいる気がするよね。

 で、無事に全員亀に乗り込めたとしても、今度は海上戦ならぬ亀上戦になる気がする……。


「……海の上で亀の上で不死身の軍勢がうじゃうじゃと這い上がってきて……。そのカオス状態で逃げ場もなくて、上空から魔杖を構えた魔屍王が俺達を集中射撃……。うーーん……厳しい……」


 もう一度陰魔法の『迅速』を唱えます。

 これでSPが完全に尽きたので、後は走り続けてグラハム達に追い付くだけですね。

 ……うん。何度考えても詰む未来しか見えぬ。



 あとはイーリシュがどれくらい強いのかってことぐらいかなぁ……。




LV.27 カズハ・アックスプラント

武器:無秒の細剣(攻撃力100)

防具:魔道服【煉陰の繍】(防御力12)

装飾品:火撃の指輪(魔力3)

特殊効果:斬撃強化(小)、居合強化(大) 、居合速度(大) 、火属性強化(小)、陰属性強化(小)

状態:正常

魔力値:475

スキル:『ファスト・ブレード LV.7』『スライドカッター LV.15』『アクセルブレード LV.12』『スピンスラッシュ LV.7』

魔法:『力士(陰)』『蛇目(陰)』『塩撒(陰)』『隠密(陰)』『悪夢(陰)』『迅速(陰)』

得意属性:『火属性』『陰属性』

弱点属性:『光属性』『闇属性』

性別:女

体力:451

総合結果:『正常』

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