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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第九部 カズハ・アックスプラントと竜人族の姫(中編)
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003 うん。どうしよう。さっそく詰みました。

 ――アゼルライムス帝国より東の領海、およそ400ULウムラウト

 ここらの海は帝国近海とは違い様々な水中生物が棲息することで有名だ。

 そこにぽつんと佇むようにこの無人島は存在している。

 全長はおよそ70ULウムラウトほど。

 ぐるりと島を一周するのに半日もかからない小さな島だ。


『グオッ、グオグオッ』


「お、やっぱこいつここで少し休憩するってよ」


 島に上陸した俺達は亀の背中から飛び降り、とりあえず島の様子を伺います。

 今のところ敵の気配とか感じないけど用心に越したことはないからね。


「……どうして亀の言葉が分かるのよ、貴女は」


「え? だってグオグオ言ってるし、ほら、頭も手足も引っ込めて甲羅を干し始めてるじゃん」


 俺が巨亀を指さすと、すでに休憩モードに入ってるのが確認できます。

 別に言葉が理解できるとかじゃなくて、なんとなく雰囲気で分かるじゃん。そういうの。


「日が落ちるにはまだ時間が早いが、我々も身を休ませる場所を確保しておくとするか」


「そうね。それと明るいうちに周囲の散策も済ませておきたいわ。できれば二手に分かれてちゃちゃっと済ませておきたいところだけど」


 グラハムとリリィの提案に異を唱える者がいるわけもなく。

 その後は俺の提案で四人でグーパージャンケンをして寝床確保組と散策組に分かれることになりましたー。

 寝床確保組はリリィとエリーヌ。散策組は俺とグラハムって感じで。


「水と食料は十分にあるから、とりあえず危険が無いかどうかの確認だけお願いね。じゃあ行きましょうか、姫様」


「あ……はい」


「?」


 なんか言いたげなエリーヌだったけど、さっさと海岸から森の方へと向かったリリィの後を慌てて追いかけていきます。

 うーん……。そういえばエリーヌって昔から『悪い予感』とかがよく的中してたから、気になるっていえば気になるんだけど……。


「どうかされましたか、カズハ殿? 我々も行きましょうぞ」


「あ、うん。まあ考えてても仕方が無いしな」


「はい?」


 首を傾げるグラハムを無視して俺は海岸線をまっすぐに歩き始めます。





 海岸線を歩き始めて一時間。

 見事に、びっくりするぐらいに、なーんにも無い島です。


「グラハム。暇だからしりとりでもしねぇ?」


「……カズハ殿。我々は遊びにきているわけではないのですぞ」


 即答。つまらん奴め。

 でもマジで今この瞬間だけを切り取ると平和そのものにしか見えないから不思議です。

 夕暮れ前の海岸線。穏やかなさざ波の音しか聞こえない。

 前を歩く俺。後ろを歩くグラハム。

 そして俺は後ろに手を組み、にこやかな笑顔で彼を振り返る――。


「……おえっ」


「……カズハ殿。何か聞こえませんか?」


「いや、それは俺の嗚咽……」


「そうではなく……海の向こうから何か……」


「海の向こう?」


 グラハムが指差す先には延々と続くエメラルドグリーンの海が見えるだけだ。

 ……いや、今ちょっと水飛沫が見えた気が……。イルカ?


「! 来ますぞ!」


「ほえ?」


 次の瞬間、ザバンと水音を立てて何かが急に空を飛びました。

 え? トビウオ? あんなデカいのいんの?

 ――とか言っている場合でもなく。


「動かないで。少しでも動いたらこの子の首を落とすわ」


 俺のすぐ首の後ろ。そこから静かに女の声が聞こえてきた。

 背後を振り向こうにも俺の腕はいつの間にか彼女に拘束されている。

 で、目の前にはとんでもなくデカい槍の刃が俺の首筋に当てられてるし……うん?


「待て。抵抗はしない。……いや、もしかして君は・・・・・・・、まさか――」


「あー、ちょっとこれ良くないなぁ。なあ、俺の後ろの姉ちゃん。この槍どけてくれない?」


「……貴女、今の状況が分かって――えっ」


 俺を拘束している女が言い終わる前に俺は槍を掴み、彼女ごと後ろに大きく飛び退きました。

 その直後、ズドンという音と共に砂浜に大きな穴が開き、砂埃が舞います。


「!? カズハ殿……! これは……?」


「くっ! まさか……魔王軍の魔導矢?」


 俺を拘束していた姉ちゃんはすぐに状況を察して海の方角に視線を向けます。

 あー、なんかいっぺんに来たなぁ……。

 これだな、たぶん。エリーヌが言っていた『嫌な予感』っていうのは……。


「お前ずっと後をつけられてただろ。しかも『魔導矢』ってことはあいつの軍団だろ? 四魔将軍の不死身の軍団の気色悪い奴ら」


「つけられていた……? ……やっぱり罠だったのね・・・・・・・・・・あの魔人・・・・……!」


「?」


 なんか姉ちゃんが一人で歯ぎしりしてるけど、こっちはさっぱり意味が分かりません。

 ていうかさ、今まじまじとこの姉ちゃんの姿を見たわけなんだけど、アレですね。

 水も滴る何とやらとは、この姉ちゃんのことを言うんでしょうね。

 長い銀髪に銀色の瞳。スカイブルーの全身鎧に藍色のピアス。

 さっき後ろから拘束されてたけど良い匂いしたもん。

 これは世の男性陣はイチコロだわ。眼福眼福、感無量。


 で、問題はこのフェロモン姉ちゃんが構えている、超巨大な槍――。


「今は非常事態ゆえ、詳しいことはこの戦況を潜り抜けた後ということで宜しいですな? ――イーリシュ・オルドラド皇女殿下」


「!! ……貴方達は一体……?」


 グラハムの言葉に動揺を隠せないでいる彼女――イーリシュ。

 まあ何ていうか、思ったより早く会えたのは良いんだけれど――。


『ケッケッケ……! 遂に……遂に見つけたぞ……! イーリシュ姫えぇぇぇ……!! ケーッケッケッケ……!!』


 海の一部が盛り上がり、魔屍軍の軍勢が怒涛の如く海岸に押し寄せてきます。

 奴らの上空に浮遊する形で俺達……というよりはイーリシュを凝視して気色悪い笑い声を上げている、これまた気色悪いジジイ。

 ――魔屍王ゼロスノート。


「ま、まさか魔屍王自らイーリシュ姫を……? カズハ殿!!」


「あーもう分かってるっつの。おいそこのフェロモン姫。一旦逃げるぞ!」


「あ、ちょ、フェロモン……何? きゃっ!」


 ぎゃーぎゃーうるさい姫の手を取り、俺達は一旦海岸を離れて森の奥へと走ります。

 あの不死身の軍団は耐久力は高いけど敏捷力が極端に低いから逃げるのは結構簡単だからね。

 でもたぶん――。


「恐らく奴らはこの島全域を包囲しているでしょうな……! 早くリリィ達と合流して戦況を立て直さなければなりませんぞ……!」


「だから分かってるっつうの! 今どうしようか一生懸命考えてるから!」


 ちょっと苛立った感じでそう答えるも、ぶっちゃけ少しだけ焦っています。

 これってもしかしてアレかな。未来の世界で起きた竜姫殺害の時と同じ状況ってこと?

 あの時は無人島に竜姫と生き残りの竜人族の戦士が魔王軍から逃げてきて、そこにグラハム率いる帝国軍が鉢合わせて。

 で、最後まで生き残ったのはグラハム一人だったんだよな……。


 もしもその時と同じ状況が、この『竜王ルート』でも発生したと考えると――。


「……アカン。魔屍王は最低でもレベル45は無いとキツい……。装備もそこまで強く無いし、ていうか聖者の罪裁剣エンジェルスブレイマー(注.勇者の剣ね)も無いからほぼほぼ無理……つまり……」


「貴方達、もしかして帝国軍? だったら力を貸して! 今私たちの国は――」


「だああああ! もう分かってるよ! でもね! はっきり言うね! 現状、詰んでるの!!」


 はい、ハッキリと言っちゃいました。

 そうなんです、これもう詰みなんです。

 竜王ルート突入したら、初っ端からこれです。無理ゲーです。


 だって急に来るんだもん。竜姫に会えたと思ったら、魔屍王て。無いわ。順番おかしい。

 さっき勇者候補の最終試験受けたばかりの人間がラスボス直前の中ボスに勝てるわけないやろ。アホか。



 ――というわけで。

 

 この局面はどうやって抜け出したら良いのでしょうか……。




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[良い点] 絶体絶命のピンチやん!
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