002 玉手箱って貰ったらどうしても開けたくなるよね。
「…………」
「…………」
あ、はい。どうもカズハです。
皆さんもご存じのとおり俺達は巨亀を助けてこれから竜宮城へと向かう途中なんですけど――。
「あの……カズハ様。ものすごく言い辛いのですけれど……」
「はいエリーヌさん。どうぞ、言いたいことがあれば何でも遠慮せずにおっしゃってください」
おずおずと下から俺の顔を覗き込むように話しかけてくるエリーヌ。
どうした、そんな不安そうな顔をして。
ていうか可愛いからチューしてもいいかな。
「その、何ていうか……大丈夫かなって……」
「え? 何が?」
「いや、その……」
何故か言葉を濁すエリーヌさん。
そして彼女はしきりに周囲を見回しています。
いやー快晴だし良い景色だよねー。
見渡す限りの海。航海には打ってつけやん。
「……カズハ殿。確かにこのアゼル巨雷亀は様々な状況証拠と推察から、竜宮城へと向かうための『船』だということは理解できたのだが」
「できたのだが?」
今度はグラハムが俺達の後ろから文句を言ってきます。
どうしたの、さっきから皆。
これから大きな戦いが待ってるっつうのに。
気合が足らないな、気合が!
「はぁ……。いい? 貴女は『未来から過去に戻ってきた』からこれまでのことは色々と知っていたけれど、ここから先は『竜王ルート』? だっけ? そこのことは何も知らないんでしょう?」
「うん」
「……。コホン。じゃあ亀の背中に乗って、どうやって海底深くにある竜宮城に向かうのかも分からない、と」
「うん。分かるわけないじゃん」
「……」
「……」
「……」
あら、全員黙っちゃった。
いやだってさ。昔話であるじゃん。浦島太郎っていうお話。
ちょうど今暇だから、その昔話と今の俺達の状況をまとめてみようか。
〇浦島太郎 → 俺(カズハちゃん)
〇乙姫 → 竜姫(イーリシュ・オルドラド)
〇いじめられてた亀 → アゼル巨雷亀
〇龍宮 → 竜宮城(オルドラド皇国、首都レーゼンにある城)
「浦島太郎はいじめられてた亀を助けて、そのお礼に龍宮に連れて行ってもらうんよ。で、そこにボインの絶世美女の乙姫がいて、接待してもらって、玉手箱を貰って帰るっていう御伽噺?」
「……それで?」
……うん。
なんか知らんがリリィ先生がジト目で睨んできます……。
「いや、だから、巨雷亀の討伐イベントがあったから、それって亀からしたらいじめられてるようなモンじゃん? その亀を助けたから、今こうやって俺達はこいつの背中に乗って竜宮城を目指してるじゃん?」
「……。それで?」
「いやいやいや。だからー、えーと、このまま竜宮城に向かって? ボインの絶世美女の竜姫に接待してもらって? で、玉手箱みたいなのを貰って? それを開けたらモクモクモク~ってなって、俺は未来に戻る? うん。めでたし、めでたし」
「どこがよ!!!」
「うわびっくりした!」
急にリリィ先生に怒鳴られて俺は亀の背中を滑り落ちそうになりました……。
あぶねぇな! 何すんの!
「確かにカズハ殿が知っている御伽噺と今回の件は全く無関係だとは言い難いが、その情報だけではあまりにもリスクが高すぎる、と言いたいのだろう?」
「そうよ。これまでカズハが無双できたのは『過去の記憶』のおかげだって知っちゃったんだし、このまま亀の背中に乗って海底まで向かうなんて、普通に考えたら正気の沙汰じゃないわ。それにカズハの目的はその玉手箱じゃなくて竜姫と竜人族を助けることでしょう? 魔王とは戦わないって言っても、四魔将軍との戦いだけは避けられないだろうから、その戦力差をどうするのか、とか。考えるだけで頭が痛いわよ……」
「私もお二人の意見と同感です……。それに、すごく嫌な予感もしますし……」
そう言ってから三人はまた黙ってしまいました。
なんだよー、亀に乗るまではみんな意気揚々としてたのに……。
まあ確かに何の不安も無いかと言われると、そうじゃないからね。
俺のレベルもまだ30に届いていないし、四魔将軍と互角に渡り合うつもりだったらレベル50は無いとキツいだろうし……。
『グオ……グオグオ』
「ん? なんか亀がグオグオ言ってるぞ」
巨亀は俺達に何かを知らせようと、長い首を更に長くして海原の先を指し示します。
あー、なんか見えてきた。島?
「あれが帝都東の無人島ね。たぶんこの亀もそこで休みたいでしょうから、このまま一旦上陸しましょう」
「そうだな。そこで今後の作戦を練ることにしよう。それで宜しいでしょうか、姫様」
「……え? あ、はい……。そうしましょう……」
「?」
なんかエリーヌの様子がおかしいけど、どうしたんだろう……。
俺的にはすごく順調に進んでいってる気がしてるんだけどなぁ。
――というわけで。
俺達は無人島に上陸することにしましたー。