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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第九部 カズハ・アックスプラントと竜人族の姫(中編)
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001 思考の海に溺れる幼女は好きですか。

 ――この世界は憎悪に満ち溢れている。


 魔族に対してだけではない。

 私は自らの子とでも呼ぶべき人間族をも憎み、利用している。

 彼らの繁殖力は底が見えない底なし沼のようだ。

 絶滅寸前の精霊族とは違い未来があり、そして彼らには欲がある。


 私はその欲を利用し、魔族を打ち滅ぼし――。


 ――そして新世界の神として君臨するのだ。





 精霊の丘は今日も穏やかだ。

 暖かい光が降り注ぎ、小鳥が静かに囀っている。

 いずれこの丘も戦地となり、人と魔族の血で赤く染まるのだろう。

 その前に私は欲を求める者に力を与えなければならない。


 ――『勇者』。

 それが欲深き者の名前。

 かの者に精霊の力を分け与え、魔族を、魔王を打ち滅ぼす。

 魔の血を宿す者はこの世界から根絶させなければならない。

 それが私の生きる理由であり、残された使命なのだから。


『……あ』


 小鳥達が異変に気付き羽ばたいて行ってしまった。

 私の憎悪が魔力を溢れさせ、彼らを怖がらせてしまったのだろう。

 再び丘に一人となった私は天を仰ぎ見、そして再び思考の海へと潜っていく。


 今から五千年前に起きた戦争により、我ら精霊族は絶滅の危機に晒された。

 わずかに生き残った同志達も魔族から身を隠し生きていくだけで必死だった。

 精霊というだけで、ただそれだけで、家畜以下の扱いを受けていた。

 同胞だと思っていた他の種族も次第に魔族に懐柔され、純血の種族はほぼ絶滅した。


 その証拠がこの『魔力』だ。


 本来、魔力とは魔族にしか備わない代物だ。

 それを媒体とし魔の力――『魔法』を駆使し敵を討つ。

 戦後数千年続いた暗黒時代によりほぼ全ての種族は魔の力を受け継ぐことになってしまった。

 もちろん、私にも――。


 そこに現れたのが人間族だった。

 彼らは瞬く間に繁殖し、魔族にとっても無視できない存在にまで勢力を拡大していった。

 そんな彼らに我らの先祖は目を付け、信仰心を植え付けていった。


 『アムゼリア教』――。

 巧みな言葉で彼らを惑わし、懐柔させ。

 憎き魔族を討つために精霊を神と崇めさせるまでに洗脳していった。

 力で世界を手に入れた魔族に対し、信仰心で世界を手に入れようとしたのが私達、というわけだ。


 しかし欲深き人間族の中にも魔族の力に興味を持つ者が現れた。

 その者の研究により、唯一純血であった人間族の中にも魔の力を持つ者が現れ。

 そして年月が流れていくうちに、ついに彼らまでもが『魔法』を身に着けることとなった。


 精霊族の聖なる力と、魔族の力。


 つまり『勇者』とは、両方の力を兼ね備えたこの世界最強の人種ということになるのだ。





 眠りから覚め、周囲を見回す。

 思考の海に潜ったまま眠りに落ち、そして目覚めを繰り返す日々。

 そんな退屈な毎日でも一つだけ変わったことがあった。

 私は夢の中で勇者と出会う。

 そして見事に魔王を倒し、この世界は平和となる夢だ。


 しかし何度かその夢を見た後に、内容が変化してしまう。

 勇者は勇者となることを拒み、魔王を倒すことまでも拒む。

 そしてあろうことか私を拉致し、魔力を封じて懐柔するというとんでもない内容だ。


『…………』


 私は起き上がり、丘から下界を眺める。

 こんな悪夢といえる夢を見た後だというのに、何故かいつも気持ちが晴れ晴れとしているから不思議だ。

 その勇者からは憎しみや欲など一切感じず、ただ人生を楽しみたいという気持ちだけが溢れていた。


 これまで生きてきた中で私が一度も経験したことのない感情。

 その感情に揺り動かされ、また今日も私は下界を覗き込んでいる。


 胸に手を置き、再び目を閉じる。

 私のこの血に塗れた憎しみを、汚れた使命を、背負ってきた重圧を。

 かの者が知ったら、一体何と答えるのだろうか。



『…………』



 深く息を吸い、ゆっくりと吐く。


 これまでの思考を打ち消すために頭を振り、私は再び丘へと戻っていった。




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― 新着の感想 ―
[一言] つまりカズハさんのアホの子ムーヴは精霊王?すら救う?
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