034 思いっきり突っ込む準備をしていたのに意外な返答に驚きです。
「――『未来』ではなく……『過去』?」
一通り説明を終えたところなんだけど、予想通り全員の頭の上で『?』が舞っております。
まあ無理もないよね。
実は俺が未来を予言できる予言者とかじゃなくて、『未来の世界から来た人間なんです』って言われたら。
「貴女はすでにこの世界を魔族から救い、そしてその先に再び起きた世界戦争からも救った本物の英雄……?」
「うん」
「世界ギルド連合こそが巨悪の根源であり、『四皇』として世界を牛耳ろうと画策していた各国首脳を打倒し、世界を平和に導いた、と?」
「うん。まあ倒したのはその四皇のジェイドって奴だけだけどな。勝手に内ゲバしててあいつしか最後に残ってなかったから。他にも強敵はぞろぞろいたけど、あいつの強さに比べたら雑魚みたいなもんだったし」
色々と記憶を遡ってみると、よくもまあこれだけ大暴れして未だに生きていられるよなぁとか自分でも感心してしまいます。
異世界人生を二周した後に女として転生し三周目を開始し。
勇者から戦乙女にクラスチェンジをしたかと思えばすぐに魔王にクラスチェンジ。
精霊王に喧嘩を売るわ、自分で国を作るわ、共和国、連邦国、公国、エルフィンランドと戦争するわで大騒ぎ。
神獣との契約で残りの寿命を捧げたり、不死になったりもしたっけ。
……うん。
何だろう、このドタバタ人生……。
「わ、わたしは本当に、カズハ様のお嫁さんだったのですね……! そんなことって……あぁ」
「あ、また気絶した」
そのまま脱力してしまうエリーヌ。
ていうかこの話を聞いてすぐに信じる君がすごい……。さすがは嫁。
「……」
「……」
顎に手を置いたまま思考を凝らす二人。
いやいやいや。さすがに信じないでしょう。特にリリィは。
こっちは突っ込みの準備をしているんだから早く楽にしてください。
『頭を……打ったのよね?』『ちげぇし!』の流れやんか。どうみても。
「魔王セレニュースト・グランザイム八世が……」
「お、グラハムからきたか。そうそう、あの魔王を俺が倒したなんてどうせ信じないだろ? さすがに――」
「女性だったとは!!!」
「そっち!?!?」
半分ズッコケかけたけど、どうにか突っ込むことに成功。
……いや、これは成功とは言わない。
「いやいや! そうじゃなくて! 疑問に思う事とかめっちゃあるだろ!!」
「元魔王であったセレンという名の可憐な女性の命を救うために立ち上がった、未来から来た美少女冒険者――。この背徳的ともいえる高揚感に俺は……俺はっ!!」
「…………」
うん。
……いや、うん。もういいや。
まだリリィがおるから。
「……貴女は聖杖のことを知っているのよね」
「え? あ、うん。もちろん。何でも聞いて」
またもや意外な反応。
え、早く突っ込みたいんだけど……なにこれ。焦らしプレイか何か?
「私の帝国の兵士としての最終目的は魔王の討伐よ。私だけじゃない、全世界の人類がそれを夢見てずっと頑張ってきたの」
「……はあ」
「でもそれとは別に私個人の最終目標もあるの。それが《大魔道士》」
「うん。知ってる」
「……」
うーむ……。なんか思ってたのと違う反応すぎて、こっちの調子が狂ってしまう……。
どうしよう。俺が未来人っていうトンデモ設定が霞んでしまうかも……。
いや設定じゃなくて本当なんだけど。
「『聖杖フォースレインビュート』は存在そのものが国家機密扱いをされていて、一般人は文献を調べることすら禁止されているわ」
「うん。だからお前は聖杖の捜索権を与えてもらえる帝国の要職に就くために帝国軍人になることを決め、そして世界最強の大魔道士になることをガロン王に誓う代わりに聖杖の所持を認めてもらおうとしているわけだろう? まあ魔王を倒すってのが建前じゃなくて本気なのも王も宰相も分かってるからお前の条件を飲んだんだと思うけど」
「! ……はぁ。貴女には全部筒抜けなのね。本当に」
諦めたように大きく肩を落としたリリィ先生。
確かにこの話は俺が勇者になった後にリリィと王に呼び出されて知らされた事実だもんな。
現時点で知っている者はほんのごく一部しかいない極秘事項だから。
「貴女は知っているのね? 聖杖がどこにあるのか――いや、誰が所持しているのか」
真剣な面持ちで俺を見上げるリリィ。
きっと彼女は俺の返答を聞いて、俺を本気で信じようか決断するつもりだろう。
まあ最初から隠すつもりもないし、これからどうせ分かることだから教えてあげちゃいましょう。
「お前もとっくに検討はついているんだろう? 例えば――四魔将軍の誰か、とか」
「……ふふ、アハハ! あー、もう降参。これ以上この話をしていると貴女のことを勘違いで好きになっちゃいそうよ」
「勘違いでって……。お前だけじゃなくて俺の仲間は全員俺のことが大好きなはずなんですけど……」
なんかちょっと腑に落ちないんだけど、今は我慢の時。
そのうちこの世界でもきっと全員俺のことが大好きになるはずだから。いや絶対。……たぶん。
「四魔将軍の一人、『魔屍王ゼロスノート』。こいつがコレクションをしている世界三大魔法杖の中の一本が聖杖フォースレインビュートだ。あとの二本は魔杖と妖杖とか? たぶんそんな名前のやつだったっか」
「……やはり魔屍王ね。これで私のターゲットは確定したわ」
俺の答えを聞いて目が輝き始めたリリィ。
そして未だ大人しくしている巨亀に向かい歩き始めました。
「え? あ、おい! 質問は終わり? まさか今の俺のトンデモ話を信じるのかよ!」
意外な展開に俺の方があたふたし始めます。
ていうか気絶しているエリーヌも抱き起さないといけないし、恍惚の笑みを浮かべているグラハムも……こいつは別に置いて行ってもいいか。
「信じるわ、貴女のこと」
「マジかい!!」
「確かに全てを信じるには時期尚早だとは思うけれど……それでも今は行くしかないんでしょう?」
そう言ったリリィは大きく欠伸をしている巨亀に人差し指を向けました。
確かに彼女の言う通りです。
そしてもう、ここからは未知の世界。
後戻りも出来ない片道列車です。
「う、ん……。あれ、もうお話は終わったんですかぁ?」
「女体化魔王のセレン……。ボンッ、キュッ、ボンッの魔性が俺の煩悩を支配するっ……!」
「…………」
うん。
まあ何というか……。
一言だけ申し上げますと、こいつらが馬鹿で本当に良かったってことくらいかな……。
「よーし! おいそこの馬鹿二人! リリィに続くぞ!!」
俺は二人の背中を押し、巨亀に向かってこう叫びました。
「ここからが本当の本番――『竜王ルート』に突入だ!!!」
第八部 カズハ・アックスプラントと竜人族の姫(前編)
fin.




