三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず登録することでした。
レイさんの話を聞いた俺達は、とりあえず食堂を出て再びギルドの受付に向かいました。
この『三周目』において今後の展開がどうなるのか気になるところだけど、今すぐどうにかなっちゃうわけでもないだろうし……。
一応、細心の注意を払いつつも、傭兵として金を稼がないことには『俺の平和』には遠く及ばないわけでして。
「じゃ、そういうことで。色々と教えてくれてありがとうな、レイさん」
まだ俺から離れないレイさんに、それとなく別れの言葉を投げかけます。
ていうかもう、お家に帰って下さい。
レイさんがいると気が気でないからすっごい疲れるんです……。
「はい。これからも分からないことが御座いましたら、何でも聞いて下さいね」
「……」
「……?」
……駄目だ。
全然俺の意図が伝わっていない……。
「あー、こほん。レイさん。俺達はこれから傭兵の登録をして、世界各地のクエストを受注して金を稼ぐつもりだ」
「はい」
「……ええと、レイさんも色々とお兄さんのこととかで忙しいだろうから、もう帰ってもいいよ」
「いいえ、私のことはお気になさらず。傭兵の『仲間登録』でしたら枠が10ほどありますので、ルルさん、タオさん、セレンさんを入れてもまだ7つも余っております」
「……」
……アカン。
これは完全に仲間に入れてもらう気満々だ……!
どうしよう……! どうやって断ろう……!
「どうしたアルか? せっかくレイが仲間になってくれるって言っているアルから、快く受けたら良いじゃないアルか」
「た、タオさん……! そんな、私のような者がカズハ様の仲間などと……! 奴隷で十分ですっ!!」
「あ……。そ、そうアルか……」
完全にドン引きしているタオ。
分かる。分かるぞ、お前の気持ち……!
誰がどう見てもこの百合少女は頭がおかしいから……!
「しかし、闘技大会優勝者が私達の仲間になるということは、純粋に戦力がアップするのですから、悪い話ではないと思いますが」
「幼女は黙ってて! これは俺の貞操の問題なの!」
「なにが貞操ですか。夜な夜なこの街でストリップをしているくせに」
「その話は違うと、もう何度も言っているだろうがっ!」
どうしてストリップにこだわるんだ! この幼女は!
……ん?
俺の横に立っているレイさんの全身がぷるぷる震え出した……?
「す……すすす……」
「……す?」
「ストリィィィッッップ……!!」
――バタン。
「おい。急に気絶したぞ、この娘……」
足元から崩れたレイさんを支えてくれたセレン。
……うん。
きっと妄想し過ぎてオーバーヒートしたんだろう。
正真正銘の変態だ、この人……。
やっぱり関わらないほうが今後のために良い気がする。
うーん……。
「どうするのだ、カズハ? 我はどちらでも構わんぞ。しかし、我が主の貞操が奪われるとあらば、我とて黙っているわけにはいかん」
「セレン……! やっぱ最後に頼りになるのはお前か……!」
さすがは俺の眷属! 元魔王様!
どう黙っていないのか、みんなの前で言っちゃってください!
「今夜から我はカズハと同じ布団で寝るぞ。それに風呂も、トイレも一緒に入る」
「……はい?」
「この娘の執念は相当なものだ。これぐらいせねば、カズハの貞操を守れんだろう」
……うん。
期待した俺が馬鹿だった……。
それじゃ俺のプライバシーが一切守られないじゃんかよ!
なんでトイレまで監視されなきゃならんの! アホか!
うーん……。どうしよう。
きっと突き放しても、また俺を執拗に追ってくるだろうし……。
それだったら俺の傍に置いておいて、少しずつ教育してやったほうが、むしろ今後のためには良いのか……?
「う、ううん……。……はっ! いけませんわ、私としたことが気絶してしまうなんて……」
セレンの腕の中で目覚めるレイさん。
もういいや。面倒臭い。
ルルの言うとおり、俺達のパーティの戦力アップを優先させるが吉か。
「よーし、レイさん。今日からレイさんは俺達の仲間だ」
「か、カズハ様……!?」
感激したレイさんは俺を抱き締めようとした。
俺はそれを素敵ステップで華麗に避ける。
「ぶぅ……」
「不貞腐れないで聞いてくれって。ちょうど今から傭兵の登録をするじゃん? そこでリーダーをレイさんに設定してくれない?」
「私が……リーダーに?」
キョトンとしたまま周囲を見回したレイさん。
他のメンバーも俺の意図が良く分からないみたいで首を捻っている。
「まったく、どいつもこいつも……。いいか? レイさんは闘技大会の優勝者だぞ? そのレイさんを傭兵登録でリーダーにして、俺らは『仲間登録』をする。そうすれば俺らパーティは世間的にどう映る?」
「……なるほど。そうすれば最初から高報酬のクエストが我らに回ってくるというわけか。世界中の依頼主がレイにクエストを頼もうとするだろうからな」
セレンの言葉に俺はニヤリと笑みを返した。
しかもこの作戦はレイさん一人が目立つだけだから、ただの『仲間登録』でしかない俺らにはスポットライトがほぼ当たらない。
俺は当然目立ちたくないし、精霊であるルルとか元魔王のセレンとかも世間の注目を浴びるのは得策ではないのだ。
……何故なら! 俺が勝手に捕まえちゃったから!
「凄いアル……! いきなり高報酬のクエストだなんて、意外にあっさりと国を作るための資金が集まりそうアルね……!」
「良い案だろ! 俺が考えたの! 凄いだろ!」
俺がそう言うと、ルル以外のみんなが拍手をしてくれました。
何故かルルは面白くなさそうな顔をしているけど……。
いい加減、お前は協調性というものを学びなさい。
ほら見ろ。元魔王の今の姿を。
めっちゃ笑顔で俺に向かって拍手してるだろ。
世界中の脅威だった頃の面影なんか、これっぽっちも無いだろ。
「あ、そうだ。これもレイさんに渡しておかなきゃ」
俺はウインドウを操作し、装備欄から剣を選択する。
「私に……? ……まさか! 愛のプレゼント!?」
「うん。違う」
俺がはっきりとそう言うとレイさんはガックリと肩を落としました。
まあいいじゃん。愛はこもっていないけど、すげぇ強い剣なんだから。
「まさか……カズハ?」
「ああ。勇者の剣――『聖者の罪裁剣』。これをレイさんにあげる」
「……へ?」
具現化した勇者の剣をレイさんに手渡すと、何が起きているのかさっぱり分からないといった表情をされました。
そのままボーっと突っ立っているだけで微動だにしないし……。
大丈夫? 息してる?
「勇者の剣……。勇者の、剣……。………………勇者の剣っ!?!?」
「あ。やっと気づいたアル」
「ちょちょちょ待って下さい! どどどどうしてカズハ様が勇者の剣をお持ちなのですか!? というかそれを私にくださるとは、一体何がどうしてこうなっているのか……!!」
慌てふためくレイさん。
俺はそれを鼻をほじりながら聞いている。
「まあ、その辺は今度ゆっくりと話してやるから。今は黙って受け取ってくれ」
「!! ……は、はい! 私はこれをカズハ様の婚約指輪だと思って受け取らせていただきます!」
剣を天に掲げクルクルとその場を回って喜んでいるレイさん。
……ああ、もうどうでもいいや。
だんだんこの百合少女の扱いが分かってきた。
本気にしないで適当に流すことにしよう……。
というわけで傭兵の登録が完了。
リーダーをレイさんとし、残りの俺達四人は仲間登録という形で手続きが済んだ。
五人パーティなんて特に珍しくもないのだけれど、俺達のパーティははっきり言ってバランスが悪い。
前衛特化の剣士が三人に元盗賊と幼女がひとり。
回復役もいなければ、中衛も後衛も魔術師もいない。
普通だったら地雷パーティなのだが、俺達であればそうはならない。
「らんらんら~ん♪」
鼻歌を歌いながら俺の腕をロックしている勇者の妹。百合少女。
彼女に渡した勇者の剣はこの世界の物ではないけれど、切れ味はまったく変わらない。
そして何よりも俺がひっぺ剥がせないほどの怪力。きっと十二分に威力を発揮してくれるだろう。
「まったく……。我が主をなんだと思っておるのだ。この娘は……」
俺とレイさんを後ろからじっと見つめている魔剣使い。元魔王のコスプレ女。
勇者の剣に唯一対抗できる魔剣を自在に扱い、様々な魔法を使いこなす諸悪の根源。
俺とレイさん、そしてセレンが加われば目の前の敵は一瞬で葬り去られるだろう。
「ゴクリ……。とうとう本格的に冒険が始まる予感がするアル……」
「タオ。今からそんなに緊張しても仕方がないですよ。今までどおり、マイペースで行きましょう」
……。
チャイナ娘と幼女は省略します。
そんなこんなで、傭兵としての仕事が始まります。
あ、そうだ。傭兵団の名前考えたの、言ってなかったよね。
我らが傭兵団の名は『インフィニティ・コリドル』。
名前の由来は……何だったかな。忘れちゃった。
まあ、また思い出したら教えてやるよ。
というわけで、新たな冒険が幕を開けることになりました。




