三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず国を作ることでした。
酒場を出た俺はリリィと別れ、とりあえず街の外でも散歩しようと思い付きました。
ていうか結局酒は飲まずにミルクにしておいたんだけどね。
「ミルクを飲めばおっぱいが大きくなるって、本当なのかなぁ……」
控えめな乳をまさぐりつつ街の入口の門へと向かう。
さっき自分の部屋で全裸になったときにも感じたけど――。
「……これって、貧乳ってやつだよなぁ」
どうせならボインに転生させてくれれば良かったのに。
あ、ちなみに皇女のエリーヌはボインでした。
これまで何度まさぐってやったことか。
俺、勝ち組。でへへ。
そんなことを考えつつ入口の門まで到着した俺は、街の警備兵に呼び止められました。
「おい、そこの女。街の外は凶悪な魔物がウヨウヨと――」
「うるさい死ね」
「なっ!?」
口を開けたまま硬直してしまった兵士を素通りし、門の外へ出る。
後ろを振り向くとなんか兵士が大声で騒いでいるけど無視。
俺を止めたければマッチョな兵士を百人くらい連れて来いっつうの。
……本当に連れて来られても暑苦しくて困るけど。
アゼルライムスの街を出て北東に見える湖。
あそこで釣れる魚は結構旨くてよく焼いて食いました。
北西に見える例の洞窟の前には草原が広がっています。
レベル1の駆け出し冒険者がレベル上げに勤しむ場所ですね。
まあ良くあるマップ構成じゃないかな。
「あー、どうするかなぁ。洞窟のボスなんて楽勝だろうしなぁ」
頭の後ろに手を組みつつ草原をゆっくりと歩いてみます。
他の冒険者の姿が見えないっていうことは、もうとっくにレベルが上がって他の場所で頑張っているんだろうね。
門兵は凶悪な魔物がウジャウジャいるとか言っていたけど、始まりの街の周辺にそんなん出てきたらストーリーが進まないだろうが。
……とか言いつつ、俺は序盤かなり苦労したけどね。
「あーあ。あの頃が懐かしいなぁ……」
洞窟のボスを倒したって、女の俺じゃ勇者になれないみたいだし。
ということは他の勇者候補の奴らの内の誰かが『勇者をやる』ってことなのだろうか。
「ん? てことはそいつがエリーヌと結婚して、あんなことやこんなことを……?」
それはアカン!
あのボインを独り占めするなど、言語道断!
せっかく二周目で彼女を助け出して俺は勝ち組になったっつうのに!
三周目で寝取られ展開なんぞになったらシャレにならんわ!
「くっそ……! どうする……? 先に勇者になりそうな奴をピックアップして潰しとくか……? あ、いやそれ以前に今回の魔王軍襲撃からエリーヌをどうやって守ったらいいかを考えないと……」
あのイベントはマジで無理ゲー仕様だからな。
二周目の最強レベル&最強装備だからクリア可能だったけど、一周目じゃまず無理だろう。
つまり『エリーヌを絶対に救えない設定』になっているというわけだ。
あの襲撃で城の兵士の半数近くは命を落としたし、集められた勇者候補らもほとんどやられてしまった。
「やっぱ俺が守ってやらんと駄目だろうなぁ……」
イベントが発生する時期を見計らって彼女を襲撃から守る。
正体を明かさずに彼女の幸せだけを願い、その場からクールに立ち去る俺。
そしてエリーヌは別の男と結婚し、別の勇者が誕生し、ボインは独り占めされ、俺は寂しくひとり荒野を彷徨う――。
「…………だあああぁぁぁ!! 何だよこの『俺だけ不幸』な設定は!!」
頭を抱えて大声で叫んだら周囲に気配を感じました。
視線を向けると、この辺りに生息している雑魚モンスターが十匹ほど見えました。
俺はそいつらをギョロリと睨みつけ、軽く首の骨を鳴らします。
ちょうど良い所に来たね。君達。
今すごーく機嫌が悪いから、俺のストレス発散の相手になってよ。
ふふ。ふふふふふ……。
◇
「あー、腹減ったぁ」
無事にストレス発散を終えた俺は地べたに寝転がる。
俺の周囲には山積みになったモンスターの死骸が溢れている。
これから始まりの街近辺でレベル上げをしようとする冒険者がいたらごめんね。
あらかた倒しちゃったから奴らが繁殖するまで待ってください。
「でも、これだけ倒しても500Gだもんなぁ。まあ、一匹1Gじゃ仕方ないか」
俺のレベルはすでにMAXの99に達している。
経験値も最大の99999999だから、これ以上モンスターを倒したところで何も意味は無い。
所持金だって2億近くあるし、500Gなんて雀の涙以下の金額だ。
「素材も大した物は手に入んねぇしなぁ……」
ゴロゴロしながら腰に差した二本の剣を抜き、光に翳してみる。
左手には世界最強と言われる勇者の剣、聖者の罪裁剣。
右手には魔族最強の武器とされる魔王の剣、咎人の断首剣。
一周目で俺は辛くも魔王を打ち倒したのだが、そのときはまだ勇者の剣しか持っていなかった。
魔王を倒した直後、超激レアドロップアイテムとして魔王の剣を手に入れたのだ。
世界はこれから平和になるのだから使い道なんて無いと思っていた矢先、俺は宝玉の力により二周目の世界に飛ばされた。
いやー、世の中何が起こるか分からないものですね。マジで。
それから俺は二周目の世界で二刀流スキルを習得。
まあ隠しスキルなんだけど、色々あって習得できたんですよ。
で、最強の剣を同時に二本使いこなせるようになって、俺という化物が誕生。
この世界で俺に敵う奴など誰もいなくなっちゃったわけです。
「さてと、そろそろ家に戻るか」
いい運動になったし、あと少しでご飯の時間だし。
お母さんに怒られる前に帰宅しよう。
俺は起き上がりアゼルライムスの街に戻ることにしました。
家に戻り夕食を終え、ベッドでゴロゴロする時間です。
このときのために人生生きていると言っても過言ではないのですよ。
それくらい俺はベッドが大好きです。
「やっぱり普通にストーリーを進めても面白くないよなぁ。内容を全部知っちゃってるし、何かこう、新しい刺激みたいなのが欲しいよなぁ」
寝ながらヨガのポーズをとりつつ独り言を呟く。
さすがに三周目ともなると正直飽きてきちゃうもんね。
隠しアイテムのある場所や敵モンスターの攻撃パターンも頭の中に入ってるし。
イベントが起こる時期や場所、登場人物の性格までだいたい知ってるし。
裏ボス倒したって、どうせ四周目とか始まるだけなんでしょ?
レベル上げも無意味。
装備集めも無意味。
勇者にはなれない。
……これなんて名前のクソゲーですか?
「後は……金の使い道くらいかなぁ」
ウインドウを開き所持金を確認する。
この2億Gを使って何かできないだろうか。
もうだいぶ前からお金を使った記憶がない。
だって俺、強すぎてモンスターからダメージをまったく受けないし、宿で回復する必要がゼロだし。
それ以前に自宅大好きだから無料で寝泊まりする派だし。
お母さんがご飯を作ってくれるからメシ代もかからないし。
……金あるのにニートみたいな生活してるな俺。
「国でも作っちまおうかなぁ……」
どうせこの街にいてもやることが無い。
女というだけで馬鹿にされるし、魔王軍の襲撃まではかなり時間があるし。
神様も俺を解放する気ゼロみたいだし、自由にやらせてもらいましょうかね。
というわけで、国を作ってみることにしました。