025 主要メンバーが全員出揃ったところで、さあ出発しますか。
「はい、まいど! カズハちゃん、今回は随分と羽振りがいいねぇ。7980Gなんて大金、どうやって手に入れたんだい?」
いつもの武具屋のおっさんに金を渡し、俺はこの店で最も高い武器である『無秒の細刀』を購入しました。
いやー、まさか勇者候補生にもなってない無名の冒険者の段階でこの刀を手にできるとは思いもしませんでしたよ。
およそ8000Gなんて大金、街周辺のモンスターを狩り続けたって一ヶ月近くは掛かるだろうし……。
やっぱ俺ってヒモなのかな……。ちょっとだけ心が痛くなってきた……。
「……まさか、カズハちゃん。この武器欲しさに金持ちの伯爵様に身体を売ったりなんか――」
「してねぇよ! 俺がそんなアバズレ女に見える!?」
「……」
「……見え、ますよね。すいません……」
姿勢を正し、斜め四十五度の角度で武具屋のおっちゃんに頭を下げます。
おっぱいとか太ももとかチラ見せで無理矢理古刀を10Gにまけさせたのは、俺でした……。
金輪際いたしません。駄目、絶対。
「ハハ……まあいいよ、カズハちゃんにも色々と事情があるんだろうから。それよりも最近、カズハちゃんのとこに見たこともない子が居候してるってもっぱらの噂だけど。あの子は誰なんだい? ええと、確か名前は……エリスちゃんとか言ったか」
「恋人です」
「…………ふぁっ!?」
驚きのあまり変な格好のまま硬直する武具屋のおっさん。
周囲にいる常連客も開いた口が塞がらず。
奥にいる爺さんなんか入れ歯が地面に落ちたまま拾わねぇし。
「冗談だよ冗談。遠い親戚の友人の従妹をたまたま預かっただけ。これからしばらく家を留守にするけど、うちのお母さんのこと頼むぜ、おっさん」
「……あ、ああ……友人の、親戚の、従妹? なんだかよく分からねぇが、カズハちゃんのお母さんにはいつも世話になってるからな。こっちのことは任せておけ! いっちょう、勇者候補最終試験、ぶちかましてきな!」
「おうよ」
武具屋のおっさんと拳を突き合わせ、俺はその場を後にします。
◇
「武器は現時点で最高級のものを手に入れたし……。あとはエリーヌとおそろいの魔道服を買って、と……。ん?」
その足で洋裁店を目指していた俺は、店の前で見慣れた後姿を発見しました。
どうやらガラス張りのショーウインドウでも眺めているみたいですね。
「おつー、リリィ。何してんの、こんなところで」
「え……? あ、貴女は……」
振り向いた瞬間、怪訝な表情を浮かべたリリィ。
……あ、そうか。
俺が兵舎で暴れてたのもとっくに彼女の耳に入っているはず。
それに現時点ではほぼ初対面と変わらないから、いきなり呼び捨てはキモがられて当然ですね……。
「……コホン、失礼いたしました。帝国魔道兵団のリリィ・ゼアルロッド準級魔道兵士長とお見受けいたします。以前、お目にかかったことが――」
「知っているわ。『カズハ・アックスプラント』。勇者候補生受験者No.1299875。受験者の中で最も短い期間で二次試験を合格したにも関わらず、それから最終試験まで一週間近くも音沙汰が無い異端の女冒険者――。今帝都で貴女のことを知らない兵士はいないでしょうね」
「うっ……」
いきなり出鼻を挫かれました……。
相変わらずリリィ先生は情報が早い……。
「悪いけど、今貴女に関わっている暇はないわ。……聞きたいことは山ほどあるのだけれど、ね」
「??」
今なんかボソッと言った気がしたけど、何を言ったか聞こえねぇし……。
まあいいや。ちょうど良いじゃん。
自己紹介する手間も省けたし、ちょこっと買い物も付き合ってもらおう。
「この店に入るつもりだったんだろ? 俺もここに用があってさ。ちょっと魔道服を探してるんだけど、この店の店員のお姉ちゃんがちょっと苦手でさぁ」
「……だから、何?」
相変わらず警戒心Max……。
もういいや面倒臭い。
「あ、ちょっと……! 手を離しなさい……!」
強引にリリィの手を掴み、俺は洋裁店に入ります。
「いらっしゃいませー。本日は何をお探しでしょうか?」
店内に入るといつもの姉ちゃんが営業スマイル全開で声を掛けてきます。
よし……。彼女のペースに巻き込まれる前にここは先手を――。
「魔道服売り場を教えてください。リリィは?」
「ちょっといい加減に――」
「(早く言わねぇとアゼルライムス君人形を押し付けられるぞ!)」
「はぁ? アゼルライムス君……何?」
せっかく小声で注意してやったのに、うっかり声に出すリリィ。
あー……店員の目が光ったー……。
「アゼルライムス君人形の特典をお求めということは! つまり当店専用の超お得なポイントカード会員に入会されるおつもりですね! それではこちらのカウンター席にお座り頂いて、まずはこの用紙にお名前、住所、魔法便アドレスをお書きいただき、次にこちらにお勤め先の名称、住所……あ、お客様は帝国兵の方ですね。それではここは空欄にしたままで結構ですので、所属と階級の記入をお願いいたします」
「ひゃっ? え? え……?」
脇をがっちりと掴まれカウンター席に拉致されるリリィ。
……うん。まあ、いいや。
撒き餌に魚が飛びついたから、俺はゆっくり魔道服を探そう……。
◇
「ありがとうございましたー」
無事に買い物を終え、洋裁店を後にします。
ちょうどサイズがぴったりの藍色のフード付き魔道服を手に入れましたー。
エリーヌみたいにスカートはそんなに短くしてはいないけど、さすがに長すぎても動きづらいのでパンツが見えないくらいには短くカットしてもらいました。
「な……何なのよ、あの店……。こんなにカードを作ったって、使い道あるわけないじゃない……」
リリィの手には巨大なアゼルライムス君人形と数枚のカード、大量の服、それと控えめに輝くイヤリングが握られています。
当初の目的はショーウインドウに飾られていたこのイヤリングだけだったんだろうけど……ご愁傷様です、リリィ先生。
ていうか断れない性格なんですね。知ってたけど。
「遅いぞリリィ! 少し買い物をするだけだというから、そこのベンチで待っていたという、の、に?」
「おおー、グラハム。おひさー」
「……ど、どういうことだリリィ?」
俺の顔を見て首を傾げるグラハム。
まあそうなるよね。
「こっちが聞きたいわよ……。そんなことよりもそろそろ面会の時間だし、急いで帝都に戻らないと――」
「いや、必要なくね?」
「「はい?」」
俺はニコリと笑って西の方角を指さします。
そこには手を振って走ってくる藍色の魔道服を着た少女の姿が。
「お待たせしましたー。お買い物はもう終わったみたいですね、カズハ様。……あら?」
「え?」
「え?」
固まる二人。
二人とはもちろんグラハムとリリィ先生です。
ていうかなんで固まってるのか知らんけど。
「もう顔合わせは済んでるようですね。では、もうザイギウスには魔法便での連絡で済ませてしまいましょうか」
「そうだな。別に宰相のおっさんに会わなくたって、エリーヌやリリィから報告すれば済む話だからな。じゃ、そういうわけで、よろしくー。リリィ、グラハム」
「……」
「……」
固まったままの二人。
リリィ先生に至ってはアゼルライムス君人形を地面に落とす始末。
せっかく特典で貰ったんだから大切にしなさいな。
「……? どうしたのですか、お二人とも?」
瞬きすらしないグラハムとリリィの前で手を振って見せるエリーヌ。
あー……そういうことか。今理解した。
つまり二人とも、俺のことはガロン帝王から何も知らされていなかったというわけか。
……いや、でも別に不思議じゃなくね?
姫はお忍びで城を出てるんだし、ちょっとばかり有名になった俺とはいえ、グラハムもリリィも俺と直接面識があるなんてガロン帝王も宰相のおっさんも知らないだろうし。
むしろ二人ともそんなに驚く意味が分からん。
「は……はは……。何者なの……この子は……」
「可憐な花との運命的な再会……。嗚呼、これは新しき恋の予感……」
――そこには呆けたままのリリィ先生と馬鹿グラハムが突っ立っていただけでした。
LV.15 カズハ・アックスプラント
武器:無秒の細剣(攻撃力100) ←NEW
防具:魔道服【煉陰の繍】(防御力12) ←NEW
装飾品:火撃の指輪(魔力3)
特殊効果:斬撃強化(小)、居合強化(大) ←NEW 、居合速度(大)←NEW 、火属性強化(小)、陰属性強化(小) ←NEW
状態:正常
魔力値:208
スキル:『ファスト・ブレード LV.5』『スライドカッター LV.12』『アクセルブレード LV.8』『スピンスラッシュ LV.3』
魔法:『力士(陰)』『蛇目(陰)』『塩撒(陰)』『隠密(陰)』『悪夢(陰)』『迅速(陰)』
得意属性:『火属性』『陰属性』
弱点属性:『光属性』『闇属性』
性別:女
体力:154
総合結果:『正常』
※
無秒の細剣/アゼルライムスの街で購入できる最も高価な刀。特殊効果:居合強化(大)、居合速度(大)
魔道服【煉陰の繍】/陰属性強化が付与された魔道服。魔力も上がる。特殊効果:陰属性強化(小)




