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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第八部 カズハ・アックスプラントと竜人族の姫(前編)
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021 怪異魔法にはロマンがあると思うのは俺だけでしょうか。

「ん……。あ……もう朝か」


 口を大きく開けて欠伸をした俺はむくりと起き上がります。

 昨夜はいったい何時までエリーヌと語り合ったのだろうか……。

 まあおかげで今後一週間くらいのスケジュールがびっちりと埋まったから良かったんだけど。


「んん……。カズハ……様……」


 俺のベッドに横たわりながら何やら寝言を言っているエリーヌさん。

 もちろん俺は彼女にベッドを貸してあげてソファで寝ましたよ。紳士やもん。夫の鏡。

 立ち上がった俺はベッドの横に座り、彼女の頭を優しく撫でます。

 少しだけくすぐったそうな顔をしたけど、まだ起きる気配はありませんね。

 もう少しだけ寝かせておいてあげようかな。

 ベッドから降りた俺は彼女を起こさないようにそっと部屋から出ます。


「あらカズハ。珍しく朝が早いのね。エリスさんは?」


「うん。まだ寝てる。昨日、遅くまで最終試験までの訓練を一緒に考えてもらってたから、たぶん昼くらいまで起きてこないんじゃないかな」


 リビングに向かうとすでにお母さんが炊事やら洗濯やらを始めていました。

 俺はテーブルに着き、今日の朝刊のギルド広報に目を通します。


「そうだろうと思って、朝御飯はパンとスープにしておいたわよ。エリスさんが起きてきたら温めなおして二人で食べなさいな」


 そう答えたお母さんはエプロンを脱いで玄関から外へ向かいました。

 今の時間だと外の掃除当番と、お隣に住んでいる老夫婦に朝食を作ってあげに行く時間かな。

 うちのお母さんは近所でも有名なくらいの働き者だから、その影響で俺みたいなニート息子(娘?)がこの世に誕生してきてしまったんやろうな……(遠い目。


 一通りギルド広報を読んだ俺はパンとスープはそのままにしておいて湯を沸かします。

 そして温かい珈琲を淹れ、昨日立てたスケジュールを思い出します。


 勇者候補の最終試験は一週間後に挑戦することに決めました。

 その間に俺はまず、エリーヌから陰魔法の教育を受けることにしました。

 彼女の得意属性は『陰』と『光』。

 魔法教育を受けるためには、まず教官となる人物が目的の得意属性を習得しているかを確認しなければなりません。

 ちなみにリリィの得意属性は『水』と『気』なんだけど、彼女はすでに大魔道士の資質を身に着けているチート魔道士なので、全ての魔法属性を対象者に教育することが可能です。

 うーむ、さすがはリリィ先生。


 最初はリリィに『火』と『陰』の両方をご教授願おうと思ってたんですけど、ほら。俺この前やらかしちゃったから……。

 ちょっとほとぼりが冷めるまではエリーヌから陰魔法を教えてもらって特訓して。

 そのうちグラハムが昇進してリリィも公務がひと段落付くだろうから、そのときに改めてちゃんと魔法を教えてもらおうという方向で……。

 今度は俺だけじゃなくてエリーヌもいるから、きっとどうにかなるだろう(鼻ほじ。


 まあ一週間も特訓すれば、今の俺だったらかなり強くなるだろう。

 そして最終試験を受けて、竜王ルートに辿り着くことができてからが本番です。

 『竜王ルート』とは言いますが、何がどう物語が変化するのかさっぱり分からないのが現状だし……。

 物語に関しての俺の知識チートも使えなくなるから、そこから先は未知の世界でホントにどうなることやら。

 今の『世界のルール』だと『俺が死ぬか』、『セレンが死ぬか』の二択しかありません。

 それを打破するための新たなルート、世界線を作り出さなきゃならんのだから、頭がいたい……。


「……まあ、考えたって分からんことは分からん! そういうときは無心で特訓あるのみ!」


 冷めた珈琲を飲み干した俺は再び寝室へと戻って行きました。





 昼前になり、起きてきたエリーヌと一緒にパンとスープを頂いた俺達はすぐさま家のすぐ裏にある広めの空き地に集合しました。

 宰相のおっさんからは街から外に出るなと言われているので、特訓をするのはしばらくこの空き地になりそうです。


「すいません、カズハ様……。こんな時間まで寝過ごしてしまって……」


 空き地に到着してもエリーヌはずっと謝ったままです。

 どうやらうちのお母さんに朝食を作ってもらって、自分は昼前まで寝ていたことを恥じている模様。

 うーん、そんなこと気にしたことは繰り返しの人生で一度も無いんだけど……。

 ていうかあなた姫様でしょうが。新妻ちゃうやろ。


「お母様にはあとで私のほうから謝っておきます。居候までさせてもらっておいて、お家の手伝いすら出来ないようでは、アゼルライムス家の名が廃ってしまいますから」


「いやだからアゼルライムス家の名を出した時点でお母さんがショック死してしまうからやめなさい」


「でも……」


 何度言っても引かないエリーヌさん。

 こういう変なところで頑固なのは、何周目の彼女でも変わりはありませんね。

 まあうちのお母さんもエリーヌのことを気に入っているみたいだから、俺は何も口を出さないほうが良いのかもしれません。


「そんなことより、訓練だ訓練! 今日も空き地には誰もいないし、思いっきりやったるで!」


「は、はい……!」


 俺の勢いに押されたのか。

 エリーヌも準備してきたアイテムやらノートやらをベンチに並べて訓練の準備を始めました。

 さあ、久しぶりの魔法の訓練。

 それも陰魔法からやるってんだから、ワクワクが止まりません。


「……コホン、ではさっそくですが陰の契約魔法を詠唱させていただきます」


「よっ! 待ってました!」


 俺の合いの手を聞き苦笑いで返したエリーヌ。

 まず初めに彼女は魔導契約書を俺の前に掲示し、その紙に陰魔法の魔力を込めます。

 そして彼女の合図で俺もその紙に右腕をかざし目を閉じます。


 ざわざわとした感覚。指先が少し痺れてきて、それが手首、肘、腕を這い上がっていきます。

 肩から首に向かった痺れは耳から脳内まで達し、そこで一瞬にして消えます。


「――『陰魔法』。陽魔法と表裏一体に位置する属性魔法であり、気魔法や体魔法と同じく『人授』に位置するいわば怪異魔法と呼ばれる魔法。人から授かりし精神は、陰なる魔力を宿し、その身に与え賜ん――」


 陰の魔導契約書が光に包まれ、エリーヌの手から浮かび上がります。

 それが一瞬のうちに上空に飛ばされ、今度は急降下してきて俺の胸に突き刺さりました。


「……はい、これで契約は終わりました。では訓練を始めましょうか」


「はーい! エリーヌせんせーい!」



 俺の元気な声が空き地に響き渡りました。




※魔法属性全十二種について


【全属性魔法】

《火》《水》《風》《氷》《土》《木》《気》《体》《陰》《陽》《光》《闇》

【精神力に起因する魔法】

《火》《風》《土》《気》《陰》《光》

【身体力に起因する魔法】

《水》《氷》《木》《体》《陽》《闇》

【天授の才に起因する魔法】

《火》《水》《風》《氷》《土》《木》

【人授の才に起因する魔法】

《気》《体》《陰》《陽》

【神授の才に起因する魔法】

《光》《闇》

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