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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第八部 カズハ・アックスプラントと竜人族の姫(前編)
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015 ドミノ倒しって昔流行ったけど最近あまり見ないよね。

 ――始まりの洞窟、地下三階。最深部。

 

 とくにダメージを負うことなく、今のところはパーフェクト。

 やっぱ知識は武器になるね。ホントありがたいです。

 レベルはさきほど目標の5に達成。

 あとはこの先にいるボス――『ドミノタウロス』を倒すだけとなりました。


 暗がりの中で声を押し殺し、忍び足で慎重に進みます。

 ボス戦は洞窟最深部の周囲が強力な結界で守られているので、他者は戦闘の邪魔をすることができない仕組みになっています。

 勝つか負けるかで結界が解かれ、勝負が決まった瞬間に入口まで強制的に転送されるというわけ。

 瀕死の重傷で転送されることもあれば、ご臨終なさった冒険者が転送されることもしばしば。

 遺体は洞窟を監視している帝国の兵士に引き渡され手厚く埋葬されるから、少しはマシと言えるのかもしれません。


『グルルゥ……』


 低い唸り声が洞窟内に木霊します。

 こいつを倒せば勇者候補二次試験に合格。最終試験に挑戦する切符を手にすることが出来る。

 最後の曲がり角を進む前に、俺は一度深呼吸をします。

 大丈夫。俺ならば目を瞑っていても倒せるはず。

 強さは昔に戻ったけれど、逆にこの緊張感のおかげで一歩ずつ、確実に、前へと進めている。

 焦らなくていい。急がなくてもいい。

 俺のこの手で、必ず世界を変えてみせるから――。


『……? グルルルゥ……。グルオオオオオォォォォン…………!』


 曲がり角を進み、ドミノタウロスの叫びと共に戦闘の合図となりました。

 俺はまず咆哮を上げているドミノタウロスに視線を合わせウインドウを操作。

 モンスター情報を空間に表示させます。


 Name ドミノタウロス Lv.5

 Gab 『●』『●』 Wab 『●』『●』

 HP ●/● SP ●/●

 Skill 『●●●●』『●●●●』

 Magic 『●●●●』

 STR●/VIT●/INT●/RES●/DEX●/AGI●/LUK●

 Drop normal/●●●● rare/●●●●


 ほぼ情報が黒塗りになっていて開示されません。

 ここから分かるのは、ボスのレベルが5なのと、スキルを二つ、魔法を一つ習得している点だけです。

 恐らく入口にいた情報屋に1000Gを渡せば、これらの情報が開示される仕組みなんだろうけれど――。


「俺には必要ねぇっつうの」


 表示を消して古刀を抜きます。

 これだけ解れば十分。

 黒塗りの・・・・解答欄が・・・・俺の知識の中にある・・・・・・・・・解答欄の数と・・・・・・一緒であること・・・・・・・を確認できたから。


『グオオオン!!』


 ドミノタウロスが洞窟の壁を駆け上がり、そのままこちらへと突進してきます。

 見かけによらず身軽なあのボスには、実は先手を取る必要がありません。

 これを知らないと初見ではまず勝てない。


『ガアアァァ!!!』


 洞窟の天井を蹴り、俺を目掛けて急降下してくるドミノタウロス。

 それを目で確認しサイドステップで攻撃を避けます。

 どおんという音と共に地面が抉れ、洞窟内が大きく揺れました。

 態勢を崩したドミノタウロスは一瞬動きを止めます。

 俺はその隙を逃さず、確実に初手を決めます。


「『スライドカッター』!」


 ドミノタウロスの背中に古刀を振り下ろし、返す刀で横に振り抜きます。

 この二連撃のスキルを早めに習得できれば、敵に与えるダメージが単純に二倍になるっていうわけ。

 攻撃ダメージも一撃目がファスト・ブレードの1.15倍、ニ撃目が0.85倍。

 消費SPは1.5倍くらいで済むから、しばらくはこのスキルだけで食っていけます。


『グギ……グギギ!』


 大技後の硬直が解かれたドミノタウロスは起き上がり、再び攻撃態勢に入ります。

 ちなみに今のは『天動激震』というスキルで通常攻撃の2.5倍のダメージがある大技なんだけど、技発動後に数秒の硬直が生まれるので、ちゃんとよく見てから避ければ今みたいに反撃のチャンスが生まれます。


『オ……コオオォォ……』


 今度は大口を開けて力を蓄えています。

 その隙に俺はSP回復を待ちつつ、小まめに攻撃を与えることにします。

 しゃがみ込み、その場で一回転をして右足首に一撃。

 そのまま一度刀を鞘に戻して、今度は下から抜刀で斬り上げてクリティカルヒットを発生させます。

 『クリティカルヒット』が発生する条件は武器によって様々なんだけど、片手剣や刀などは抜刀攻撃がクリティカル扱いになりますかね。

 あとは背後から攻撃とか、状態異常で動けなくしたときに攻撃とか、弱点属性を突いた時とか、色々です。

 ダメージ比率は通常攻撃の1.25倍。

 意外に少なく思うかもしれないけれど、塵も積もればなんとやら。

 一度の戦闘での攻撃回数の多さからすると、余裕があれば常に狙っていきたいところです。


 四撃ほど与えたところでストップ。

 ドミノタウロスの口の中に無数の土塊が集まり、そのままぎょろりと俺を睨みつけました。

 俺は素早く三歩ほどバックステップし、距離を保ちます。


『ガハアアアァァ!!』


 勢いよく土塊のつぶてを吐き出したドミノタウロス。

 俺はそれらを刀ではじき、防御に徹します。

 今のは土魔法の『ストーンクラッシュ』ですね。

 無数のつぶてを相手に向けて発射する初級土魔法のひとつです。

 この魔法はある程度追尾効果も発生しているので、避けるよりは弾くほうが正解。

 全てのつぶてを弾き切ったところで、再びドミノタウロスに硬直時間が発生。

 俺は肩の骨を鳴らし、奴の硬直時間を計算してクリティカルを当てていきます。


『グググ……』


 良い感じにSPも回復したので、スライドカッターをもう一度お見舞い。

 

 しばらくはこれの繰り返しで、奴の体力を削っていきましょうかね。





 戦闘開始からおよそ15分が経過しました。

 ボス戦に制限時間はないけれど、そろそろ終わりが見えてくるころです。

 終盤になれば敵情報も更新されてくるので、ウインドウを出現させて最後に確認しておきましょうかね。


 Name ドミノタウロス Lv.5

 Gab 『土』『陽』 Wab 『●』『●』

 HP ●/250 SP ●/●

 Skill 『天動激震 LV.4』『●●●●』

 Magic 『ストーンクラッシュ LV.5』

 STR24/VIT40/INT●/RES●/DEX●/AGI●/LUK●

 Drop normal/●●●● rare/●●●●


 はい。こんな感じ。

 弱点属性が開示されないのは、弱点属性を突いた攻撃方法を今の俺が持っていないからですね。

 ……まあネタバレするとこいつの弱点属性は『火』と『陰』なんだけど。

 つまり俺とは相性バッチリというわけ! 魔法を覚えていればの話だけど(涙)!

 残りの黒塗りも無事にこいつを倒せば全て開示されます。

 まあ、最後の大技が厄介ではあるんだけど――。


『グ……グググ……! ニンゲンノブンザイデ……! オマエハ、ココデ、死ヌノダ……!! グオオオオォォォン…………!!!』


 両腕を大きく広げたドミノタウロスは雄叫びを上げます。

 そう。あの情報屋も言っていた、回復魔法無しでは生き残るのが難しい『ドミノ倒し』のような攻撃。

 ゴゴゴという地響きが鳴り洞窟全体が揺れています。

 そして――。


『『フハハ……フハハハ!! 恐怖ニ慄キ……我ヲ恐レ……死ネエエエェェェ!!!』』


 ドミノタウロスが二手に分裂し、叫び声が二重に木霊する。

 そして再び分裂。何度も。何度も。奴は一定の間隔を空けて増殖していく。

 八、十六、三十二、六十四――。

 まるでウイルスのように増殖を続けるドミノタウロス。

 それらが俺の周囲をぐるりと囲み、怪しく光る眼だけが俺を見下ろしていた。


『――《ドミノルド・ウェイブル》!!!!』 


 ドミノタウロスが叫ぶと一斉にドミノ倒しが始まり、逃げ場の無い俺に襲い掛かる。

 普通に喰らえば当然、オーバーキル。

 初級冒険者を悩ませる最大にして最悪の波状攻撃。

 過去十回。これのおかげで俺は二次試験に合格できなかった。


 だから、俺は――。





「お? 君ー、合格できたんだねー」


 始まりの洞窟の入り口に戻った俺に声を掛けてくる情報屋。

 俺の手にはレアドロップアイテムの『勇者候補二次試験合格証』が握られています。


「へぇー、見たところ無傷だねぇ。そんなやわな防具でどうやってあのドミノ攻撃を切り抜けられたんだいー? 今後の営業のためにも教えておくれよー」


 しっしと振り払っても俺に付いてこようとする情報屋。

 俺は溜息を吐いて振り返り、奴にこう言いました。


「『ドミノ倒し』ってさ、ルールがあるのを知ってるか?」


「ルール?」


「ああ。綺麗に牌を並べて、最初の牌を倒すと次の牌が倒れて、の繰り返し」


 大きく伸びをして肩の力を抜きます。

 久しぶりの緊張感に解き放たれたからか、結構気持ちがスッキリしてきました。

 この調子で最終試験もサクッといけたらラッキーです。


「でも途中で牌が倒れなくなることもあるだろ? そしたらそこでストップ。残りの牌は・・・・・倒れない・・・・


「? 倒れない? でもそれって――」


 俺はにやりと笑って情報屋に背中を向けました。

 そこには差さっているはずの碁刀の刀身が無くなっています。


 ――そう。

 あの時俺は、分裂するドミノタウロスの一匹の足に碁刀を突き刺し、ドミノ倒しを防いだんです。

 過去十回の挑戦から導き出した答えが、これ。

 物語の序盤、しかも初心者用の洞窟で、オーバーキルをかます冒険者泣かせのボスがいたら勇者候補の合格者が極端に減ってしまう。

 あのラストの攻撃は必ず回避する方法がある――。

 それを信じて色々とトライした結果、見付けたんです。攻略法を。


「あの刀、結構気に入ってたんだけど……まあしゃーないな。『無秒の細刀』の代わりが10Gで買えたと思えばむしろラッキーだったし」


 攻撃力の低い武器では、あの巨漢のボスの分身を支えることなどできません。

 でも無秒の細刀は序盤で買えない高値の刀。

 俺が一周目でボスの攻撃を防げたのは、たまたま十回目の挑戦でボスが勝手にドミノ倒しを失敗したからなんです。

 途中で止まったんですよ。ドミノ倒しが。

 恐らく何回か挑戦すれば、確率で失敗する大技というわけですね。


「あー、疲れたー。一旦家帰って飯食って、風呂入ろーっと」



 俺は情報屋に手を振り、始まりの洞窟を後にしました。




LV.6 カズハ・アックスプラント

武器:なし

防具:麻の服(防御力1)

装飾品:火撃の指輪(魔力3)

特殊効果:斬撃強化(小)、火属性強化(小)

状態:正常

魔力値:28

スキル:『ファスト・ブレード LV.3』『スライドカッター LV.3』

魔法:使用可能

得意属性:『火属性』『陰属性』

弱点属性:『光属性』『闇属性』

性別:女

体力:26

総合結果:『正常』

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― 新着の感想 ―
[一言] 普段アホの子扱いされてるカズハさんが頭使って戦ってると驚くよね( ˘ω˘ )
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