014 この異世界のモンスターは変なのが多いから気を付けてます。
――始まりの洞窟、入り口前。
「うっげぇ……。すげぇ人いる……」
アゼルライムスの街を出た俺は街の北西約40ULの場所にある勇者候補二次試験の会場、始まりの洞窟前まで到着したんですが……。
すでに洞窟の前は各国の冒険者風情の輩達でごった返しています。
見た感じ戦士や武道家が多い感じがするけど、踊り子風の奴とか大道芸人みたいなのもいるし……。
ハロウィンパーティじゃねぇっつうの! 真面目にやって真面目に!
「はいはいはーい、次の挑戦者のかたー。今なら始まりの洞窟攻略マップ全三階層分プラス最奥ボス情報が記載されたデータをたったの、たったの1000Gでお渡ししちゃうよー。登録は簡単ー。魔法便のデータを一旦こちらに送信して、空メールの再送信を確認したらそれを承認するだけー。これだけで二次試験合格は間違いなしだよー」
「…………」
なんか人ごみに混ざって変な奴がいます……。
これはアレだ。目を合わしたらいけないやつだ。
「はいはい、そこのお姉さんー。珍しい古刀を装備してるみたいだけど、初心者洞窟だと思ってここを甘く見ないほうが良いよー。確かにモンスターはそこらの草原に出現する雑魚とほぼ変わりがないけれどー、最奥のボスは意外と強くて回復魔法無しだと攻略は厳しいよー」
「……知ってるよ。『ドミノタウロス』だろ。あのドミノ倒しみたいな連続攻撃で一気に体力を削られて、そこで終わり。序盤の難関だよなぁ、あれ」
そう小さく呟いた俺は客引きの男の肩を押して洞窟の内部に視線を向けます。
ざっと見た感じだと挑戦者の三割がクリア、残りの七割が挫折って感じかな。
たぶん全員最深部まで楽に進めて、あのボスにやられて戻ってきたんだろうね。
……俺も『一周目』のときは十回くらい挑戦してようやくクリアできたくらいだから。
「へぇー、お姉さん、常連さんー? その割には初めて見る顔だけどー」
「常連で悪うございましたねー」
客引きの男の声を真似て、精一杯皮肉を言った俺はいざ、始まりの洞窟へと挑戦します。
◇
始まりの洞窟は三階層。
ここ一階層に出現するのは街周辺の草原でも頻繁に遭遇した『イエロースライム』、『アゼルフロッグ』、『スモーキン・ビー』がメインだ。
稀に希少種である『グラムタイトスライム』が出没するけど、これは低レベルの冒険者ではまず倒せません。
ドロップアイテムは世界で二番目に硬いとされるグラムタイト鉱石だから武具素材として欲しいのは山々なんだけど、今回はパス。
で、二階層は上記のモンスターに加えて『クラッシュベア』、『ムカムカムカデ』が出没。
三階層にはさらに『ツンデレオーク』、『キメキメキメラ』、『コボルトスネーク』が出没します。
……別にネーミングで自棄になってるわけじゃないからね。本当に出るモンスターだから。マジで。
今の俺の装備だったら問題なく倒せる雑魚だけど、気を付けるとしたら『ムカムカムカデ』の攻撃で受ける状態異常の『激高』と、『ツンデレオーク』の急にデレてきてから相手を状態異常の『懐柔』にさせて、その直後にいきなりくる鋭槍の強撃くらいかなぁ。
ほら、俺ってなぜか状態異常に弱いじゃん。
遺伝的なものなのか何なのか知らんけど、マジで困るのよアレは。
特にソロだとどうしようもなくなるから、早く仲間が欲しいのですけれども――。
『キキィ!』
「はいはい、来ました。戦います。戦いますよーっと」
碁刀を抜き、戦闘態勢に入ります。
スキルレベルも上げたいけれど、攻略が第一目標だから今回は温存。
状態異常攻撃をしてくる奴に絞って使って、一撃必殺する戦法に切り替えます。
『キイイィ!!』
イエロースライムが跳躍し、押しつぶし攻撃を仕掛けてきます。
俺は一歩後ろに下がりそれを避け、そのまま突きの構えで刀を一閃。
『!? ピギッ!!』
ぐにゅるという不快な感触が腕に広がるけれど、俺はお構いなしに手首を捻りスライムに刀を捻じ込んでいきます。
黄色い液体が全身に降り注がれるけど、お構いなし。
どうせ倒せば液体もろとも消滅するから、いちいち汚れを気にしていても意味がない。
『ギュ、グギュグ、ギギ……!!』
身を貫いた刀の刀身を上に向けたまま柄を両手で支え、重力に逆らうように天に向け刀を滑らせます。
上半分が斬り裂かれたスライムは絶命する瞬間まで俺の全身を体内に取り込もうと必死に向かってきます。
今度はそのまま両手で刀をしっかりと上段の構えで支え、歪な形のスライムに力いっぱい振り下ろします。
再び不快な感触が腕を伝って全身に広がるけれど、これで相手は真っ二つ。
『ピギャァァァ!!!』
断末魔の叫びと共にスライムは消滅。
ドロップアイテムが地面に出現し、俺はそれを無意識のまま拾い上げます。
もう幾千、幾万、幾十万と繰り返してきたルーチン。
たぶん感情なんかどこにも無いんだろうね。本気で戦っている時って。
――敵を、倒す。
ただそれだけのために。
「……やべぇ。うんこしたくなってきた」
俺はケツを押さえながら先へと進みます。
◇
『キメキメ! キメェェェ!!』
キメキメキメラがキメポーズをすると二体同時に出没してきたモンスターの防御力が大幅に減少。
代わりに攻撃力が大幅上昇をするという『ドーピング』効果が発動します。
奥にいる一匹は俺の苦手なツンデレオークだから、あいつから先に速攻で倒そう。
『アンタナンカ、キライナンダカラ!!』
ツンデレオークが詠唱を始めた瞬間を狙って、俺は前方二体のモンスターの間をすり抜けスキルを発動。
左肩の後ろから出ている納刀したままの碁刀の柄を右手で掴み、左手の拳は握ったまま右肘に添えます。
そのまま力を蓄えつつ身体を捩じり跳躍。
回転の力を刀身に伝え、スキルを発動――。
「『ファスト・ブレード』!」
『!!?』
急に突進してきた俺を完全に油断していたのか。
詠唱を中断されたツンデレオークの右肩に攻撃がヒットし、そのまま刀は左腰から抜けていきます。
斜めに真っ二つになったツンデレオークはそれでも詠唱を続けようと、瀕死の状態で口を動かしています。
俺は刀を逆手に持ち、オークの眼球に向けて振り下ろしました。
『ア……ガ……、デモ……ス、キ……』
詠唱が中断しツンデレオークは消滅します。
俺はそのまま振り返り、残りの二体のモンスターに刃を向けます。
『キ、キキィ……』
『グルゥ……』
明らかにモンスターが俺に対して怯えているのが分かります。
でも逃走しないところをみると、隙を見せるのを待っている感じかな。
奴らに知恵があれば、どうして俺が一番奥にいるオークを最初に狙ったのかバレちゃうところなんだけど。
知恵系のモンスターが出現するのはストーリーの後半だからこんな序盤で心理戦なんてありません。
『ピロロン♪』
急に効果音が洞窟内に鳴り響き、俺はステータスを表示して確認します。
どうやら今の戦闘で『ファスト・ブレード』のいわば上位版スキル、『スライドカッター』を習得できたみたいです。
これで始まりの洞窟攻略は確実。
薬慈草も10個以上持ってきたしボスも難なく倒せるでしょう。
「……じゃ、そういうわけで」
地面を蹴った俺は再び前方のモンスターに斬り込んでいきました。
LV.4 カズハ・アックスプラント
武器:算木の碁刀(攻撃力15)
防具:麻の服(防御力1)
装飾品:火撃の指輪(魔力3)
特殊効果:斬撃強化(小)、火属性強化(小)、陰属性強化(中)
状態:正常
魔力値:19
スキル:『ファスト・ブレード LV.3』『スライドカッター LV.1』
魔法:使用可能
得意属性:『火属性』『陰属性』
弱点属性:『光属性』『闇属性』
性別:女
体力:16
総合結果:『正常』