013 ポイント三倍とかどうでもいいから早くお会計を済ませてください。
「はーい、毎度。全部で426Gね。これ、おまけの薬慈草」
雑貨屋に戻った俺はモンスターから獲得した素材を全て売ってGに換金します。
結局五時間ほど周回してレベルはようやく3。
スライドカッターはまだ習得できていません。
「ありがとう、おばちゃん。また来るねー」
雑貨屋のおばちゃんに挨拶をした俺はおまけで貰った薬慈草をアイテム袋に仕舞い、今度は大通りの東にある洋裁店へと向かいます。
こういったおまけも馬鹿にできないからね。
薬慈草は序盤ではめちゃくちゃ重宝する回復薬だから、始まりの洞窟をクリアするには必需品といっても過言ではない代物です。
だって回復魔法とか覚えてないし。普通に死ぬもん、回復薬持ってないと。
「いらっしゃいませー。本日は何をお探しでしょうか?」
洋裁店に到着した俺は声を掛けてくる店員のお姉ちゃんをそれなりにスルーして、目的の装飾品を探します。
確かちょうど400Gで買える結構性能が良いやつがあったはずなんだけど……。
「お客様。実は本日ポイント三倍デーでして、本日のお買い物から使える当店専用のポイントカードをお作り頂けると、即日ポイントが三倍になるのみならず……なんと! 今ならこの期間限定品『アゼルライムス君人形』が貰える超お得なポイントカードが――」
パンフレットを片手にお姉ちゃんが俺の視界を遮ります。
ええい、邪魔だな……!
俺はさっさと目的の装飾品を買って、またレベリングに戻らないといけないっつうのに!
「ご予算はいかほどでしょうか? うちの店はお洋服以外にも様々な効果を持つ装飾品やご当地特有の名産品なども扱っている、アゼルライムスの街一番の人気店ですよ! お客様がお召しになっているその『麻の服』も凄くお似合いですけれども、今うちが最もおすすめしておりますのはこちら! 大胆に胸元を開いた『シルクのワンピース』でございます! お色も赤、黒、白の三色からお選びいただけますし、世の男性陣の目をお客様が独り占めしてしまうこと間違いなしの代物です!」
「…………」
頼んでもいないのに次々と洋服を持ってきては、装飾品のショーウインドウの前に並べていくお姉ちゃん。
おかげで陳列されている装飾品が全く見えないんだけど……。
ていうかどうして俺が胸元が開いたエロいワンピースを着て古刀を振り回してレベリングしなきゃいけないんだよ。アホか。
「あのー……この『火撃の指輪』をください」
視界を邪魔する洋服どもをその場からどかして、俺は400Gの値札が付けられている指輪を手に取りお会計に向かいます。
あまり長居してると次から次へと商品やらカードやらを勧められそうだし、さっさと買って帰るに限る。
「お会計ですね? でしたらご一緒にこちらのポイントカードの入会書へサインと、今後ご不用になったお洋服や装飾品の下取りサービスを受けられるゴールド会員様専用クレジットカードへの入会書を――」
「間に合ってます!!!」
お姉ちゃんの両手に強引にお金を渡し、指輪を受け取った俺は逃げるように店を後にします。
あー、もう行かないあの店。しつこい。
前はあんな感じの店じゃなかったはずなのに……。
やっぱ若干変わってるのかなぁ。この世界。
ていうか冒険者にクレジット契約させて大丈夫なんでしょうか……。
いつモンスターやら魔物に殺されちゃうか分からない世界なんだから不払い未回収とか多そう……。
大通りを抜け、その先にある小さな公園のベンチに座り装備を整えます。
俺、この公園大好きなんだよね。いつも誰もいないから気楽に休めてグッド。
さっき購入した『火撃の指輪』はちょっと値段が高いんだけど序盤で必ず購入しておきたい代物なんです。
魔力はそこまで高くはないんだけど、特殊効果が二つも付いているんですよ。
一つは『斬撃強化(小)』と、もう一つが『火属性強化(小)』です。
俺のメイン武器は片手剣とか細剣、刀などが多いから斬撃強化は少しでも付いたら戦闘が有利に進められるし。
そのうち火属性が付与された斬撃スキルなども覚えていくから相乗効果も期待できます。
……まあそれも早いとこ『火魔法』を覚えないと、自力で習得するのは不可能なんだけどね。
つまり『魔法』と『スキル』が合わさったような特殊スキルなどは、対応する魔法の習得が先になるわけです。
例えば『グレイトブレード』は闇属性の斬撃スキルなんだけど、先に闇属性強化の付与魔法である『グレイトフル』を誰かに教えてもらって習得してから『ファスト・ブレード』を使い続けていくと、いずれ覚えられるスキルというわけですね。面倒臭いのよ。ホント。
LV.3 カズハ・アックスプラント
武器:算木の碁刀(攻撃力15)
防具:麻の服(防御力1)
装飾品:火撃の指輪(魔力3)
特殊効果:斬撃強化(小)、火属性強化(小)、陰属性強化(中)
状態:正常
魔力値:15
スキル:『ファスト・ブレード LV.2』
魔法:使用可能
得意属性:『火属性』『陰属性』
弱点属性:『光属性』『闇属性』
性別:女
体力:13
総合結果:『正常』
「うーん……よし! まあこのくらいなら『始まりの洞窟』に行けるかな」
若干防御力に不安があるけれど、薬慈草を持っていればどうにかなるでしょう。
敵の攻撃パターンは当然頭の中に入っているし、奇襲と大群さえ気を付ければ大丈夫。
始まりの洞窟は初心者用とあって、罠もほとんど無いしね。
目標はノーダメージクリア。
それぐらい達成できないと、世界を変えるなんて夢のまた夢だろうから。
勢い良くベンチから立ち上がった俺はいざ、始まりの洞窟へと向かうことにしました。




