012 レベル上げって地味で孤独な作業ですよね。
街の入り口に立っている警備兵に挨拶をしてアゼルライムスの街を出ます。
そして周囲の草原をぐるりと見まわしてから深呼吸。
あー、この感じ。
これから大冒険が始まりそうな高揚感……は無いけれども。
見慣れた風景を懐かしがっている暇も無い。
とにかく最短で目標のレベル3まではちゃっちゃと上げる。
で、北西にちらっと見えている始まりの洞窟に向かって、そこのボスを倒すまでにレベル5くらいに上がっていればOK。
「でもこの古刀、10Gで買えたにしては攻撃力が15もあるし……。やっぱお得だったな」
背中に差した鞘から刀を抜き、それをお天道様の光に当ててみます。
刀身の真ん中から左右が白黒で分けてある珍しい剣。たぶん奇剣の部類じゃないかしら。
『碁剣』ていうくらいだから、語源は碁石か何かだろうね。
だとすると素材は黒陽石か黒陰石。
まあ初期の武器にしたら中の上くらいだから悪くない。
それに『算木』っつうくらいだから陰陽師からも銘を付けたんだろうし。
で、この『陰属性強化』、と。
俺はステータスを表示させます。
魔力値:5
スキル:使用可能
魔法:使用可能
得意属性:『火属性』『陰属性』
弱点属性:『光属性』『闇属性』
性別:女
体力:8
総合結果:『正常』
……はい。まだ陰魔法はおろかスキルも何も覚えていません。
スキル取得は戦いの最中に自分で覚えていくものと、他者から教わるもので、大きく分けて二つの方法があります。
『二刀流』みたいな隠しスキルは二周目以降の要素だから、ここが一周目の世界だとしたら習得できないんだろうね。
で、魔法はいくらモンスターを狩りまくっても自分では覚えられません。
まずは魔法職の人に『属性基礎魔法』を教えてもらって、その基礎魔法の中から同じカテゴリーに属する上位魔法を戦闘の中で習得していく感じですかね。
例えば『火魔法』をリリィ先生に教えてもらうとすると――。
①火属性の基礎魔法である『ファイアーボール』をリリィ先生から伝授してもらう
②戦闘でファイアーボールを使い続け、上位魔法である『ファイアーバースト』を取得する
みたいな感じです。
同じように『ファイアランス』を伝授できたら上位火魔法の『ファイアサーヴァント』の取得。
『フレイムガン』を伝授できたら上位火魔法の『フレイムガトリング』の取得、みたいな流れですね。
各属性にはだいたい五個くらいの基礎魔法があって、上位魔法は一つだけだったり三つくらいあったりまばらです。
通常、得意属性は一人に二つしか付いてないので、その属性に合った魔法を覚えていくのが基本的な流れになります。
同時魔法や特殊魔法、魔術禁書による禁断魔法などはチートの類だから一周目の世界にはあまり関係ない話かな……。リリィ以外は。
リリィは一周目の世界でも魔王戦の前に『大魔道士』という魔法職の最上位職に就くので、全ての属性魔法も使えるようになるし同時魔法も使いこなせるようになるから、ある意味この世界におけるチートキャラと言えるかもしれぬ……。
彼女の最強装備である『聖杖フォースレインビュート』も魔屍王を討伐したときに得られるドロップアイテムだから、物語の終盤、ほぼほぼ魔王軍との最終戦あたりでようやく手に入る武器だし……。
「……まあそんな先のことは考えないでもいいや。どこかで竜王ルートに分岐したら知識チートがあまり使えなくなるんだし」
刀を鞘に仕舞い、両頬を目一杯叩いて気合を入れます。
今は目の前のことに集中しよう。
とにかくこの草原で戦いまくって、片手剣の初期スキルである『ファスト・ブレード』を早めに習得したい。
で、レベル5までには『スライドカッター』を習得して――。
俺はぶつぶつと独り言をつぶやきながら、街の周辺をグルグルと回っていきます。
◇
『ピギ! ピギィ!』
「おっと、残念。お前の動きは目を瞑ってても分かるっつの!」
宙に翻した身体を反転させ、背中の刀を抜き一閃。
真っ二つに割かれたイエロースライムは消滅し、俺はドロップアイテムである『ぷにぷに玉』を拾います。
刀を仕舞い、獲得素材を確認。
ぷにぷに玉(イエロースライム/normal)×36
ぶにぶに玉(イエロースライム/rare)×4
黄土色の皮(アゼルフロッグ/normal)×23
黄土色の毒皮(アゼルフロッグ/rare)×2
折れた針(スモーキン・ビー/normal)×28
折れた鋭針(スモーキン・ビー/rare)×1
「ひー、ふー、みー……うん。まあ四時間街の周囲を回ってこれなら、及第点かな」
これらは全て雑貨屋で換金します。たぶん300Gにもならないと思うけど……。
エーテルクランに行けるくらいにストーリーが進めばゼギウスに出会って、これら獲得した素材をもとに武具を強化してもらえるんだけど、恐らくそっちのルートには進まないだろうから……。
次にレベルとスキルを確認。
LV.2 カズハ・アックスプラント
武器:算木の碁刀(攻撃力15)
防具:麻の服(防御力1)
装飾品:なし
特殊効果:陰属性強化(中)
状態:正常
魔力値:8
スキル:『ファスト・ブレード LV.1』
魔法:使用可能
得意属性:『火属性』『陰属性』
弱点属性:『光属性』『闇属性』
性別:女
体力:10
総合結果:『正常』
三時間くらい周回しててレベルが2に上がり、魔力値が5から8に、体力が8から10に上がりました。
片手剣の初期スキルである『ファスト・ブレード』も習得できたから、SPが尽きるまでこれを使い続けてスキルレベルを上げて、回復を待つ間に雑魚処理からの素材集め、SP回復したらまた使用、のエンドレス。
「……地味にしんどい。俺、こんな面倒臭いこと良くやってたよなぁ」
過去の思い出に浸り、一瞬思考が飛んでしまいそうになります。
強くなるって大変だね。大変というか地味。
まあ俺もあの強さになるのに三周かかってるんだから、当然といえば当然なんだけど……。
『ピギィ!』
『ギリギリ、ギリリッ!』
「あーはいはい。働きますよ。貧乏暇なし。文句は言いません」
スライムと蜂に向かい、俺は再び刀を抜きました。




