006 過去戻りというよりリスタートというのではないでしょうか。
――暗闇の中でもがき、苦しんでいるセレン。
俺は必死に手を伸ばすも、彼女に触れることができない。
その後ろにはほくそ笑んでいるジェイドの姿が見える。
奴の呪いは俺の全身を蝕み、肩から背中、足へと腐食は進む。
死にたくても、死ねない。救いたい命も、救えない。
腐敗が進み、肉塊となっても、俺は残された右目をぎょろりと動かしジェイドを睨みつける。
『……?』
突如、右目に光が射し込む。
新たな世界への扉が開かれ――。
――そして、俺は。
「…………」
むくりと起き上がった俺はぼうっとしたままボサボサの頭を掻きました。
まーた嫌な夢を見てしまった……。
ジェイドを倒してから、もう毎日同じ夢ばかり見ています。
でもいつもなら、苦しんでいる人が誰だかモヤが掛かってて見えなかったんだけど……。
なんでセレンが出てきたんだ……?
……。
…………。
「!!! セレン!!!!」
慌ててベッドから飛び起き大声を出します。
……ベッド? え? 俺寝てた?
ていうかどこ!? 今何時何分!? 世界が何周回ったとき!?
「おやまあ、そんなに大きな声を出して……。寝ぼけていないで、さっさと顔を洗ってきなさいな。今日は王様に謁見する大事な日じゃないの」
「……へ?」
急に部屋の扉が開き、そこに現れたのは……お母さん?
……。
…………。
「どうしたのカズハ? 固まっているわよ? もし調子が悪いのだったら、今日の謁見は中止にしてもらったほうが良いんじゃないかしら」
……。
…………。
俺が絶句していると、お母さんは軽く溜息を吐いてそのまま部屋から出ていきました。
ちょっと、ちょっと、待ってね。
えー、どうしよう。何から確認したら良いのやら……。
「うーん、まあ、まずはここからだよね」
とりあえず深呼吸をして気持ちを落ち着かせます。
そして俺は自身のまたぐらを探りました。
……うん。無い。ツルツル。
次に、胸。
……うん。ある。まだ小さいけど。
「とりあえず『三周目』ってのは分かったから、あとは『どの時点か』ってことだけど――」
メビウスが俺を過去に戻してくれたのは覚えています。
そして最後の言葉――『竜王を探せ』。
確かに宝玉が砕けた音も聞こえたし、いつもみたいに適当に進んで後戻りできない状況だけは避けないとジ・エンドってのも十分に、いや十二分に理解しました。今回はホントに。やばいから。
「……いや、まだ『三周目』とは限らないか。三周目だったら前みたいにこの世界に俺がいたら、鉢合わないように慎重に動いていかないとヤバいし、まさかの『四周目』だったら――いや、『過去戻り』……? いやいやでも、四周目でも過去戻りみたいなものだし、宝玉で飛ばされるってそもそもそういうこと、だし……?」
なんか頭がこんがらがってきました……。
とにかく情報が足らなすぎる。
『俺が女だった』だけじゃ、何処に飛ばされたのか確定できないです……。
「はい、じゃあ次。ウインドウタップ」
空間を二度タップしてまずはステータスを表示させます。
LV.1 カズハ・アックスプラント
武器:なし(攻撃力0)
防具:麻の服(防御力1)
装飾品:なし
特殊効果なし
状態:正常
「…………うん?」
俺は表示されたステータスを見て瞬きしました。
あれ? レベル1? なぜに?
特殊効果も全部消失しとる……。状態も『正常』?
どゆこと?
『破理』も『能力剥奪』も『制限解除』すらも無いって意味わからん……。
首を傾げたまま、俺はとりあえず『状態:正常』をタップしてみます。
魔力値:5
スキル:使用可能
魔法:使用可能
得意属性:『火属性』『陰属性』
弱点属性:『光属性』『闇属性』
性別:女
体力:8
総合結果:『正常』
※状態は『正常』です。特に異常は見られません。
「…………」
えー……はい。余計に分からなくなりました。
まずね、一番引っかかるのは『性別』なんだよね。
俺って元々男やんか。三周目になって女に性転換したんだよね。
だとすると、性別が『女』の横にエラー表示が出ないとおかしいんだけど……。
これだと俺の性別は元々女で正しいってことになってしまうんだが……。意味不。
「レベルが1ってことは『一周目』に戻ったってことか……? いや一周目は当然男のままだったから……ああ、もう! 分からん!!」
はい次! 考えても分からないことは考えても分からん!
別の項目調べるしかないでしょう!(半分ヤケクソ)
所持金:10G
アイテム:薬慈草×1
武具:なし
貴重品:なし
習得スキル:なし
習得魔法:なし
「これ! 完全に初期状態やんか! ぜーんぶ無いやん!!」
その場で地団太を踏み叫びます。
いやそりゃ叫ぶでしょう! これまで集めたアイテムやら武具やら全部無いんだもん!
これ過去戻りじゃなくて、リセットっていうんだよ、リセット!
ここからどうやって『世界』を相手に戦っていけっていうの!? 馬鹿なの!? 死ぬの!?
「……いや、『死ぬ』?」
頭を振った俺は、もう一度深呼吸をしてベッドに座ります。
そして眼前に並びまくっている表示と睨めっこを始めました。
確かにこれまでの俺の歩みがすべて台無しになって、最初からリスタートになってるんだけど……。
つまり、それは『不死』の呪いからも解放されたってことじゃね?
俺が死ねば、セレンは死なない。世界は俺を殺そうとしてるから。
でも、今このまま俺が死んだらジェイドを倒せる奴がいないわけで……。
「……アカン。やっぱ分からん。死ぬことはできるけど、世界が救えなければ、どちらにせよセレンだけじゃなくて俺の仲間はみんな死ぬ……。ここから強くなって、ジェイドを倒すときに奴の呪いを受けずに倒せる方法を探す……? どうやって? あの時だってギリギリ倒せたってのに……」
……詰んだ。もう考えるのやだ。知恵熱が出る。
ヒントが少なすぎるんだよ! あのババア……!
これじゃあセレンを助けられる確率が低いどころか、ゼロじゃんかよ!!
「……はぁ。やっぱ婆さんの最後の言葉を信じて『竜王』とやらを探すしかないかぁ」
よっこらしょと立ち上がった俺は鏡の前に立ち、とりあえずボサボサの髪に櫛を通しました。




