三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず盾を使うことでした。
その後、エーテルクランの闘技場に向かった俺達四人。
受付の順番待ちのため、一度ソファに座り雑談をしています。
「なるほどアルね。こうやって闘技大会が終わったらギルドに場所を解放しているから、依頼も沢山舞い込んで来るわけアルか」
大会終了時には人々がまばらだった会場も、今は傭兵登録に訪れた冒険者達で混雑し始めている。
これだけ広い会場だから、ここでパーティを集めている入賞者などもいっぱいいるんだろうね。
世界中のありとあらゆるクエストがエーテルクランのギルドに集中するのも頷けますなぁ。
「ただでさえアゼルライムス帝国は勇者を輩出する世界で唯一の国ですからね。自然と世界中から猛者が集まって来ますし、ギルドが活発化するのも当たり前の話です」
お。何か知らんけど幼女が雄弁に語り始めた。
鼻の穴とか広がってねぇか……?
「あー、そういう理由もあるアルか。あわよくば勇者のパーティに誘ってもらって、王様から報奨金をたんまり貰ったりもできるかも知れないアルしねぇ。もしそこにあぶれても、闘技大会で好成績を残しているリーダーに『仲間登録』をしてもらえれば、十分に稼げるアルし」
急にタオが金勘定を始めました。
これだから元盗賊は信用ならん。
お前、もし現役だったらその金を盗むつもりだろ……。
「ふん。つまりは、そういった輩が我が魔王城に何度も攻め入ってきたということだ。無論、一匹残らず蹴散らしてやったがな」
魔王様が物騒なことを仰いました。
もう良いじゃん。昔の話なんだから。
これからのことを考えようよ。
おもに未来の『俺の平和』のことを。
「それにしてもカズハ? 私までその『仲間登録』というものに登録するのですか?」
ソファに座りながら足をばたつかせていた幼女が俺に声を掛けてくる。
「え? うん。だってお前だけ登録しなかったら、どうせ後で文句言うだろ」
「……カズハは私を何だと思っているのでしょうか」
「幼女?」
「精霊ですっ!! どうして精霊の私が傭兵などに登録しないといけないのですか!」
ソファから飛び降りた幼女は下から俺を睨み上げてきます。
こいつ……! やっぱ最初から働く気ゼロか……!
「ルルちゃんを傭兵に登録するんだったら、さすがに『緊縛』を解除したら良いと思うアルけど……」
「おお、今良いことを言いましたねタオ! そうです! この拘束具を今すぐ解くのです! そうしてくれれば、傭兵の話を聞いてあげなくもないです!」
急に表情が明るくなった幼女。
うーん、まあタオの言い分も一理あるな。
今のままだとルルはただのマスコットみたいな感じで足手まといだし……。
「『緊縛』を解いても竜になって俺を喰ったりしない?」
「だから、何度も言っていますけど、私はヒトを食べたりしません! 草食ですから!」
……幼女に怒鳴られました。
うーん、こいつ気性が荒いから解くのは怖い気がする……。
どうやって説得しよう。
……とりあえず適当な理由を付けておくか。
「あれだ。ルルは俺達の秘密兵器だから、最後の最後で『緊縛』を解いたほうが良いと思うんだよね」
「……秘密兵器?」
お。今、ルルの眉毛がぴくって動いた。
これで攻めるか。
「ああ、そうそう。秘密兵器。これから傭兵としてクエストを受けるだろう? それが高難易度クエストで、俺らが皆ピンチになるとするじゃん? そしたら、俺らを救えるのはルルしかいないわけだ。精霊としての力を解放して、こうズバーンって敵を薙ぎ払って、一発逆転の勝利? みたいな?」
「一発逆転の勝利……。まさしく勝利の女神である精霊に相応しい勝ち方ですね……」
あ。気持ちが動いてるみたい。
あー、良かった。ルルが単純で助かった。
今度から駄々をこねたらこれを使おう。
「はぁ……。結局、このメンバーで最弱なのは私アルねぇ。精霊と魔王と化物に、付いていける自信が無いアルよ……」
「おい。今、俺のこと化物と言ったか」
「カズハ以外に誰がいるアルか……」
ちょっと! 俺だって人間ですから!
そういうこと言われたら傷付くんだから!
乙女心をもっと考えて!
「おい。順番が回ってきたようだぞ。さっさと傭兵登録とやらを済ませたほうが良いのではないか?」
セレンの言葉で皆が受付のほうを振り向きました。
あ、本当だ。俺らの順番が回ってきたみたい。
じゃあさっさと済ませちゃいましょうかね。
「ええと、まずは俺をリーダー登録するからランキング証を――」
「か、カズハ様ぁ!!」
「へ……?」
急に後ろから名前を呼ばれて慌てて振り向きます。
そこには大きく手を振って俺の元に駆けつけて来る、一人の女剣士の姿が――。
「げっ! レイさん!?」
ヤバい! こんなに早く再会するとは思っていなかった……!
どうしよう! 隠れないと!
……いや、もう見付かってるか!
「カズハ……様?」
「知り合いアルか? あの女剣士さんと」
訝しげな表情で俺を見上げる幼女と首を傾げるチャイナ娘。
その間にも猛ダッシュで俺に接近してくる百合少女。
ああ、もう! 仕方ない! これしか方法が無い!!
「お前ら! 俺の盾になってくれ!」
「は?」「うん?」
俺の左に立っていたタオと右に立っていたセレンを同時に掴む。
そして突進してくるレイさんの前で盾として構えた。
「あ、ちょ、貴女方っ! そこをどいてくれませんか! 私の……私のカズハ様が見えないじゃないですか!」
無理に二人の間をこじ開けようとするレイさん。
何だこの凄まじい力は……!
ふ、防ぎ切れない……!
「何するアルか! 服が伸びるアルよ! あ、ちょっと! どこを触っているアルかぁ!」
「カズハよ。我はお前の眷属ではあるが、操り人形ではないぞ。離してもらえんか」
もう組んず解れつになっちゃって、訳が分かりません……。
あ、ごめん。誰かのおっぱい触っちゃった。
でも今はラッキースケベで喜んでいる場合じゃないの!
「はぁ……。また一体何をしでかしたのか……。相変わらずカズハは面倒ごとを増やさないと気が済まないのでしょうか」
「お前もじっと見ていないで助けろよ!」
「嫌です」
「おいこらっ!!」
冷たい視線を向けたままそう言ったルル。
ヤバい……! だんだん野次馬が集まってきた……!
傭兵登録する前に出入り禁止とかになったら、目も当てられない……!
「おい……。あそこでキャーキャー騒いでいる女剣士さんって……」
「ああ、そうだ! 間違いない! レインハーレインさんだっ!!」
「へ……?」
野次馬が何かに気付いてざわつき始めた。
もしかしてレイさんって有名な剣士なのか……?
「本当だ! 今大会の優勝者、レインハーレイン・アルガルドさんだ!!」
「うおおぉぉ! 本物じゃんか! マジ可愛い! おい、サイン貰おうぜサイン!」
「あ……ちょっと! 皆さん、今は大事な時ですのでサインとかは後で……!」
徐々にレイさんの周りを野次馬が取り囲んでいく。
……うん。
…………え? いや、え?
優勝者? この百合少女が?
あのアルゼインを倒した、今大会のナンバーワン?
「うっそおおぉぉ!?」
「カズハ様ぁ! 私の、カズハ様ぁ!!」
「……カズハ。後でがっつり理由を聞かせてもらうアルからね」
「あ、はい……」
――その後しばらくして警備兵が登場。
俺達は連行され、職務質問を受ける羽目になりました。




