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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第八部 カズハ・アックスプラントと竜人族の姫(前編)
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003 運命とか定めとか俺が嫌いな言葉を並べるのはやめてください。

 ――アゼルライムス帝国領の最北端に位置する魔族の聖地、魔族の領土デモンズテリトリア

 周囲およそ4900ULウムラウト

 正方形に近い形のこの島で何千年もの間、魔族達は世界を手中に収めることを夢見てきた。

 一度は手にしたはずの覇権も、五百年という長い歳月により徐々に風化の一途を辿っていくことになる。


 台頭してきた人間族は精霊族の生き残りを『神』と崇め宗派を起こし。

 また神と崇められた精霊族の末裔は人間族に『勇者』という特別な力を与えた。


 神と勇者は結託し、魔族を根絶するために魔王に戦いを挑む。


 そして魔王は倒され、世界は平和に向かうはずだった――。





 魔王の領土デモンズテリトリア、北緯1480ULウムラウト。通称『魔女の森』。

 周囲には魔素を含んだ硝煙で満たされ、未だ視界が閉ざされたエリアも数多く存在する未開の森である。

 突如けたたましい獣の鳴き声が空から聞こえ、周囲の木々はざわめき始める。

 獲物を狙っていた魔物共は危険を感じてか、一目散にその場から逃げおおせて行った。


『ギュワァァァン!!』


「!! カズハ様!! こちらです!!」


 地上から大きく手を振る一人の少女。

 その傍らには黒い衣装を着た女性が横たわっていた。


「おい、見付けたぜ! この下だ!」


 ドラゴンゾンビの背に乗る男が叫ぶ。

 それとほぼ同じくして後方を飛んでいたもう一匹のドラゴンゾンビが急降下を始めた。

 男もそれに続く。


「ライム! 大丈夫だったか!」


 地面に降り立ったのは一人の少女だ。

 魔力を失った彼女はドラゴンゾンビの背に乗るのも一苦労だった。

 疲労と焦りで全身は疲憊し、立っているのもやっとの様子でライムと呼ばれた少女に近づく。


「ったく、無茶するんじゃねぇよカズハ。よう、初めましてだなドワーフの小娘。でもよ、こんな魔物共にまみれた森で、どうやって俺達の到着を待てたのかね」


 カズハと呼ばれた少女に肩を貸した男はライムの近くへと歩み寄る。

 その先には眠ったように横たわる一人の女性の姿が見える。


「あ、はい……! 魔除けの魔工具を持っておりましたので……。それよりも、セレンさんを……!」


「言われなくても分かってるよ。カズハ、一人で立てるか?」


「あ、ああ……」


 足取りがおぼつかないカズハを一人で立たせ、男は眠る女の側へと駆け寄る。

 しばらく様子を観察していた男だが、無言のまま立ち上がり首を横に振った。


「……どういうことだ? 一体ここで何があった?」


 男は鋭い視線でライムを見つめる。

 その凄みに気圧されたのか、ライムの肩は大きく揺れた。


「わ、私にも何が何だか……! 先ほども魔法便で送らせていただいた通り、魔女の森の探索中に急にセレンさんが意識を失ってしまって、それっきり起き上がって来なくて……」


「魔物に襲われたにしちゃあ外傷が見当たらない。そもそもセレンほどの強者がここいらの魔物にやられるはずもない。考えられるとすりゃぁ、この未知の森の魔素を受けた影響か、それとも――」


 ライムから目線をそらさずに淡々と話す男。

 男はライムという少女を疑っていた。

 現時点では彼女が一番怪しいと感じたからだ。


「ちょっと待てよ! それよりも、セレンは――」


 カズハがそこまで言い掛けた途端、周囲の魔素が一瞬で消え去り。

 突如空間の一部が切り裂かれ、そこから一人の幼女が姿を現した。


死んでおるよ・・・・・・それが彼女の・・・・・・運命じゃからな・・・・・・・


 少女のものとは思えないほどの非情で冷淡な言葉が周囲に響き渡る。


 その言葉を聞き、カズハは絶句してしまうのであった。





「……死んでる? セレンが?」


 目の前に突如現れたメビウスは、確かにそう言った。

 でも俺の言葉には反応せず、横たわるセレンの側に寄り跪く。


「そうじゃ。彼女は死んだ――。『世界』がそう望んだ・・・・・のじゃ」


 メビウスはそのまま彼女の腕を取り、胸の前で組ませました。

 セレンのことを憐れんでいるのか、少しだけ目を細めているのが分かる。


「おいおい、婆さん。言っている意味が全然理解できねぇよ。世界が望んだ・・・・・・? 何のために?」


 俺が聞こうとしたことをゲイルが代わりに聞いてくれます。

 それよりも俺は頭がまったく働かず、ただ呆然とその場に立っていることしかできない。


「そ、それよりもこの方は一体……?」


「ああ、自己紹介がまだじゃったか、お嬢さんや。儂はこの森に住む魔女、名をメビウスという。おぬしのことはずっと見ておったから紹介はいらんぞ。この魔女の森を開拓しようとは、神をも恐れぬ暴挙じゃがな」


 そう答えたメビウスは立ち上がり、俺たちのほうをじっと見つめてそう言った。

 その目は震える俺の姿を映し出し、そして俺からの次の言葉を待っているかのようにも見えた。


「……説明してくれよ、婆さん。どうしてセレンは死んだんだ? どうすれば生き返らせることができる?」


 声が震えているのが自分でも分かる。

 現実が受け止めきれないというか、まるで夢の中にでもいる気分だ。

 悪い夢だったらさっさと覚めてほしい。

 そして早く、笑顔のセレンに逢いたい。

 ――だが、メビウスから返ってきたのは非情な言葉だった。


「何度も同じことを言わすでない。こやつは――セレニュースト・グランザイム八世は、世界の望みどおりに死んだ。もちろん生き返らせることなど出来ぬ。これは『定め』――。世界が平和に・・・・・・なるための過程に・・・・・・・・必須である定め・・・・・・・なのじゃからな」


「? 婆さん、一体何を言って――」


「頭の悪いお前さんのことだから、どうせ何度でも質問してくるのじゃろう。じゃから包み隠さずに全てを話そう」


 俺の言葉を遮り、メビウスは先を続ける。


何故・・セレニュースト・・・・・・・グランザイム八世が・・・・・・・・・世界に・・・殺されなければ・・・・・・・ならないのか・・・・・・、をな――」



 森のざわめきがその静寂を打ち破った。




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