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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第八部 カズハ・アックスプラントと竜人族の姫(前編)
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001 こんにちは、カズハです。ただ今精霊の丘を耕しています。

 ――アゼルライムス帝国領、最果ての街。

 この街の先に伸びたかつての獣道、通称デビルロードと呼ばれた場所にはモンスターの影は無く。

 ドベルラクトスの魔工技術の提供もあり、人々は自由に、そして安全に精霊の丘へと足を運ぶことが可能となったのがつい数週間前の出来事である。


 第二次精魔戦争が終結し、早三月が経過しようとしていたその頃。

 独国より帰還した元魔王軍の一部のメンバーはここで平和な日々を過ごしていた――。



「あ、ここにいたアルか。なんかカズハ宛に魔法便が届いているアルよー」


 精霊の丘で全身泥だらけになっている俺に後ろから声を掛けてくるチャイナ娘。

 なんか俺の知らん間に実家に戻っていたタオはなんと、おやじさんから道道飯店を継いで立派な店主になっておりましたとさ。

 いやぁ、あのタオが立派になって……俺も嬉しいよ。うん。


「……何を一人でウンウン頷いているアルか。ウンコでも我慢しているアルか?」


「違う。断じて違う。魔王ウンコしない」


 俺は麦わら帽子をタオに向かって投げ渡し、ささやかな抵抗の意思を示して見せます。

 てか最近さぁ、俺がめっちゃ弱くなったのを良いことに、みんなからの俺へのディスリ具合とか半端ない気がするんですけど……。気のせいかな。


「ルルは? そろそろ昼飯の時間だろ?」


「そうアルけど、ルルちゃんは店の看板娘だからなかなか休憩に入れなくて忙しいアルよ。最果ての街も昔に比べて住人が増えたアルし、ドベルラクトスの技術のおかげで道も舗装されて観光客も増えたアルからねぇ。昼御飯を食べる時間だって惜しいくらいアルよ」


 そう言って俺に作りたてのおにぎりを投げ渡すタオ。

 それを受け取った俺はその場に胡坐を掻いて昼食をとることにします。


「でもよぅ、あのルルがよく店で働く気になったよなぁ。いちおうアレでも精霊様なんだけどな……」


 皿洗いをして生計を立ててる精霊とか、この世の中は本当に平和になったのかと疑ってしまうくらいなんですけど……。


「ルルちゃんは立派アルよ。『やはり平和な世の中とはいえ、働かざる者食うべからずですよね。これからは私もきちんと働きます。皆さんに守ってばかりでは精霊の名が廃ってしまいますから』って言ってたアルし」


「マジか……。ルルの言葉とは思えん……。ていうかそんなことわざとか知ってたのか……」


 おにぎりを頬張りながら、俺はつい関心してしまいました。

 人ってやっぱ変われるもんなんだね。……あいつは『人』じゃないけど。


「そういえばライムちゃんはどこアルか? 彼女の分のお弁当も作ってきたアルのに……」


「あー、ライムは今日はセレンと一緒に魔王城のほうに行ってもらってる。ほら、以前街の測量士さん達に魔女の森の測量をお願いしてたじゃんか。でもそのあとに戦争が始まっちまって途中で止まってたんだけど、昨日、大体の測量が終わったって連絡が来たから、ライムを連れて農業をやるのに適した土壌がないか見てきてもらおうと思ってさ」


 かなり時間は掛かったけど、この広大な魔族の領土デモンズテリトリアもあらかたエリアが判明したってことですね。

 なんと全貌は魔王城を含めて周囲およそ4900UL(ウムラウト)

 小さな国家一つ分くらいの土地があるってわけですね。恐ろしく広い。無駄に。


「いや、あんな広大な土地をどうやって見て回るアルか……」


「うん。だからセレンに頼んだんだ。ドラビン一家を呼べるのあいつしかいねぇし」


「あー……なるほどアル」


 ドラビン。つまりドラゴンゾンビの群れを捜索班に任命したってわけです。

 まあ臭いがキツイのが玉に瑕なんだけど、これもドベルラクトスの魔工技術で作ってもらったガスマスクみたいなのを被れば万事OK。

 まだまだ有害なガスが発生しているエリアもあるらしいから、万全を期すために防護服も着用して調査に行ってもらっています。

 あ、ちなみに俺がライムに命令したわけじゃないからね。

 あの子、ああ見えて好奇心旺盛だから、どうしても自分の目で広大な魔女の森を見て調べたいって言ってきたからです。

 優秀な子なんですよ、ライムちゃんは。


「……よし、っと。腹もいっぱいになったところで、残りの仕事も終わらせちゃいますか!」


 パンと膝を叩いて立ち上がった俺は鍬を片手に野良作業を再開します。

 あ、そうそう。魔法便も誰かから届いてたんだっけ。

 まあそれは後で見れば良いや。どうせ緊急の内容じゃないだろうし。

 今、俺の頭の中は野菜を育てることだけでいっぱいなんです。


 ああ、なんて幸せな日々なんだろう。

 作物と接して、誠心誠意育てて、収穫して、美味しく食べさせてもらう。


 最高の余生を過ごしているぜ、俺……!



 ――そう思っていたのも束の間。

 

 またしても俺は過去・・に戻ることになりまして。


 ……ええ、その話は次回に。


 ………………はぁ。




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