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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第一部 カズハ・アックスプラントの三度目の冒険
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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえずぶん殴ることでした。

「おいカズハ。そんなところで突っ立っていないで、お前も我らに混ざったらどうだ?」


「お? もしかしてお友達がいらしておりましたか。これは失礼。どうぞ、こちらの席に」


 ようやく俺の存在に気付いたグラハムはニコリと笑い、席を空けてくれた。

 俺は何も答えず、立ったまま冷たい視線で二人を見つめる。


「……ああ、そういうことか。すまぬな、戦士殿。こやつは酒が飲めなくてな」


「おお、なるほど。了解致しました。それにしても、こちらのお嬢さんもお綺麗な方ですなぁ。俺も帝国暮らしは長いですが、お二人のような美人さんにお目に掛かったことなど一度もありませんぞ。いやぁ、本当に今日は良い日だ。我らの出会いに、乾杯!」


「……」


 上機嫌でそう言ったグラハムは再びセレンと乾杯をした。

 お前……ほんっと昔から変わらないな。

 女を目の前にすると急に紳士ぶったり、お世辞を言ったりする所とか……。

 ああ、どうしよう。すごく殴りたい。こいつの顔、殴りたい。


「おっと、そうでした。ご挨拶がまだでしたな。俺としたことが、レディを前に舞い上がってしまいました。いやいや、これは失敬」


「……」


 急に立ち上がり、一つ咳払いをしたグラハム。

 俺の冷たい視線など微塵も気にしていないみたいです。

 というか、こいつ馬鹿だから気付いていないだけかも知れないけど……。


「俺の名はグラハム・エドリード。このアゼルライムスでフリーの傭兵をやっております。もしも困ったことがありましたら、すぐに俺に連絡を」


 そう言ったグラハムは手際良く俺とセレンにメモを手渡した。

 そこには『百戦錬磨! 《竜槍のグラハム》をぜひ貴女の護衛に如何でしょう! 今なら割引サービス実施中です! ※女性限定』と記載されている。

 ……うん。

 もう突っ込まないです。


「ほう……? フリーの傭兵か。おいカズハ。ちょうど良いではないか。我らはこれからギルドで傭兵の登録を――」


「いいの! もう余計なことを言わないの!」


「むぐっ……」


 ペラペラとお喋りな魔王様の口におつまみのサンドイッチを詰め込みます。

 確かにグラハムは頼りになるけど、まだ今は仲間にするとか考えていないから!

 もうちょっと俺のチームがまとまってから考えさせてください!

 ていうか勝手に仲間に引き入れないでください!

 お前、飲み友達が欲しいだけだろうが!

 このぼっち魔王が!


「まったく……。全然帰って来ないと思ったら、朝までグラハムと飲み明かしてるとか……。どうなってんだよ、この世界は……」


「おや、お嬢さん。いきなり呼び捨てをして頂けるとは、以前どこかでお会いしておりましたかな? むむ……! 俺としたことが、こんなにお綺麗なお嬢さんを覚えていないとは一生の不覚……! どうでしょう、お嬢さん。お詫びに今夜、綺麗な夜景が見える店で俺と二人っきりでお食事――ぶはっ!!」


 ……つい拳が飛んじゃいました。

 だって気持ち悪いんだもん。

 でもこいつ頑丈だから大丈夫だろ。たぶん。


「マスター! こいつらのお勘定をお願いしまーす!」


 鼻血を流して気絶しているグラハムをそのままにして、俺はセレンを強制的に立ち上がらせました。

 キョトンとした顔をしてまだ口をもぐもぐさせているセレン。

 もう魔王だった面影など微塵もないなこいつ……。

 

「お客さん。このお連れさんはどういたしますか?」


「あー、たぶんもう一人、連れの・・・魔道士・・・がいると思うからそいつに迎えに来させて。名前はリリィ・ゼアルロッド」


 俺はグラハムから貰ったメモの後ろにリリィの名前を書いて店主に渡した。

 きっとあいつもこの街に来ているだろう。

 この馬鹿はあいつに任して、俺は知らなかったフリをします。


「なんだ、カズハの知り合いか?」


 サンドイッチを食べ終わったセレンがお会計中の俺に質問してくる。


「うん。まあ、昔の知り合い、みたいなものかな」


「?」





 酒場を出た俺達はそのまま宿に歩を向けます。

 そろそろギルドで傭兵の登録をして本格的に金を貯めないと、いつまで経っても国が作れないよ!

 そんな状況だというのに、この魔王様は――。


「飲み代が10万Gって、一体どんだけ飲んだんだよ! この店、そんなに高い店じゃないっつうのに……!」


 事前にセレンに渡しておいた1万Gを引いても、9万も追加で出費がかさんだし……!

 お前ら馬鹿だろ!

 くっそ……! あとでグラハムに請求に行くか……!


「人間共の酒もなかなか旨かったぞ。だがもう少し度が強くなければ気持ち良く酔えんな」


「あんだけ飲んどいてよく言うなお前……! この酒代分はきちんと働いて返してもらうからな!」


 ウインドウを開き残りの所持金を確認します。

 早く2億Gくらいは稼いで、それを株で倍に増やして――。


「そういえば、例の魔剣を受け渡す剣士には会えたのか?」


「うん? あー、いや、会えなかった。たぶん近くの洞窟とかでレベル上げでもしているんだと思うけど」


 アルゼインに会うまではむやみにエーテルクランを離れるわけにもいかないし……。

 さっさと魔剣を手渡して取引を終わらせたいんだけど……。


「ならば我々もしばらくはこの街を拠点とするわけか」


「うーん、まあそうなるかな。金も稼がないといけないし、エーテルクランだったらギルドの仕事も豊富にあるだろうし……」


 ……あ、そうだ。

 あのシステム・・・・・・を使おう。

 そうすればセレン達にもちゃんと働いてもらえる。

 だって今、はっきり言って俺の仲間達はみんなニートだからね。

 俺が過去に稼いだ金で暮らしていっているようなモンだし。

 働かざる者は食うべからず。

 お前らにもしっかりと稼いでもらうからな。


「とりあえず、ちゃちゃっと宿に戻ろうぜ」


 俺はセレンを連れ足早に宿に向かいました。








「はあ!? 私達まで傭兵の登録をするアルか!?」


 宿に戻った俺は全員を集めて緊急作戦会議を開きました。

 俺が発言した途端、タオは席を立ちあがって声を荒げちゃうし……。

 お前ら働く気ゼロだったのかよ……。 


「確か傭兵に登録できるのは、闘技大会である程度勝ち上がった者だけだと記憶していますが」


 さっそく疑義を呈する幼女。

 うん。ルルにしては良い質問だ。

 でもお前、働きたくないだけだろう。

 どうせ『私は精霊ですから労働の義務はありません』とか堂々と言うんだろう。

 そうはいきません。


「ルルの言うとおり、本来は闘技大会で1000位以内に入賞しないとギルドで傭兵の登録ができない。……でもな、『仲間登録』という仕組みがあるのだよ」


 俺はニヤリと笑いそう言った。

 でも誰も反応してくれなくて、ぼーっと俺の顔を見ているだけですけど……。


「だから! 『仲間登録』だっつうの! ギルドにはランキング確定者として俺が『リーダー登録』をして、俺の仲間としてお前らを登録するの! そうすれば全員傭兵として働けるの!」


 仲間登録としての枠は10枠ほど用意されている。

 クエストを達成した際の報酬はリーダーにのみ配布されるが、傭兵でなければ行けない場所などでレベル上げなどが出来るので利用する者はかなり多い。

 

「いやー、俺もさぁ。最初はこんなに俺を慕って仲間が集まってくれるなんて考えてもいなかったからさぁ。今まですっかり忘れてたんだけど、今こそ俺達の仲間としての絆を証明する時じゃね? みたいな?」


「……」


 ……あれ?

 どうして誰も何も言わないの?

 それどころか、どうして冷たい目線を俺に向けるの……?


「……カズハを慕って集まった仲間とは、一体誰のことでしょう」


「……さすがの私も今のはフォローできないアルよ」


「やはりカズハは魔王としての素質が十分だな。今からでも遅くはないぞ。我と共に魔王城に戻ろうではないか」


「ちょっとお前ら! どうしてそんな否定的な意見ばっかり言うんだよ!」


 何だよ! どうしてそんなに冷たいんだよ!

 俺が今までに一体何をしたって言うんだよ……!


「……あっ」


 精霊ルリュセイム・オリンビア。緊縛を掛けられる。重罪。

 料理人タオ。重罪を知らずに仲間になった。同罪

 魔王セレニュースト・グランザイム八世。お持ち帰り。魔王を仲間にする。重罪。


「………………うん」


 俺はそっと三人から目を逸らします。

 はは、嫌だなぁ。

 これは偶然。そう、偶然の出来事だと思うよ。

 俺が悪いとか、そういう話じゃないと思う。

 だからお願い。俺をそんなに睨まないで。


 ――その後、俺は散々三人に罵られたことは言うまでもなく。




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