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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第七部 カズハ・アックスプラントの隠居生活
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021 幼女(少女)を黙らせるにはこれが一番簡単です。

「うっへぇ……。やっぱ広いなぁ、この田園……」


 見渡す限りの畑、畑、畑……。

 長方形に綺麗に区切られた段々畑には色々な作物が植えられています。

 空は広いし空気も旨い。

 あっちのほうには水田も見えるし、大きな森もあるからキャンプとかもできそう。

 一体どこまでがあのエロ爺さんの土地なのかさっぱり分かんないけど、相当広いことだけは確かだね。

 さすがは世界で一番(無駄に)領土が広い国、ドベルラクトス。


「どうにか栽培技術とかでも盗んでこれないかなぁ。あの城で家庭菜園をやるったって、土とか肥料とかどうすれば良いのか全然分からんし……」


 俺はその場で胡坐を掻いて顎に手を乗せ考えます。

 そもそも帝国は食料自給率が世界で二番目に低い国だから、畑とかほとんど無いんだよね。

 魔王城の近くの最果ての街とかは結構山菜とか生えてたけど、国全体としては輸入に頼らざるを得ない国なんです。

 エアリーの国のエルフィンランドの支援が無かったら魔物の肉ばっかりの食生活になるんじゃなかろうか。あの国は。

 酪農もほとんどやってないから酒場でミルクとか頼むとめちゃ高いし……。俺、酒飲めねぇのに……。


「くっそ、あの爺さんキモいから国に連れて帰るのも嫌だし……。やっぱ宮殿に戻ってラドッカのおっさんかクルルにでも――」


「い、嫌……! やめて、それだけは……!!」


「……ん? 女の子の悲鳴?」


 広大な土地に突如響き渡る女の子の悲鳴を聞き立ち上がります。

 まさか、あのエロ爺……。近所巡りをしてくるとか言っておいて幼気な少女を襲いに行ったとかじゃねぇだろうな……。

 俺は急いで立ち上がり、声のする方角へと走り向かいます。


「そんな太いモノをわたしに向けないで……! そんなことをされたら、わたし、わたし……どうにかなってしまいそう――」


「おーい! 大丈夫かー! 変質者の爺さんに襲われて――ん?」


「え?」


「…………」


「…………」


 お互いに目が合い、そのまま停止。

 周囲を見回してもあのクソエロ爺さんはおりませぬ。

 目の前には頬に泥がついたショートカットの少女が大きめの芋と戯れています。……戯れている?


「……あの、どうかされました、でしょうか?」


 目が点状態の俺に恐る恐る声を掛けてくる少女。

 背が小さいから一目でドワーフ族の少女だと分かります。

 ……うーん、どないしよ。見てはいけないものを見てしまったのだろうか。声を掛けたらまずかったとか?


 俺がどう反応しようか迷っているのを察知したのか。

 ドワーフ族の少女は泥の付いたままの太い芋を俺に向けてニコリと笑いました。


「大きいでしょう? あまりにも太くて硬い『夢魔イモ』だったので、つい興奮してしまって……」


「『夢魔イモ』?」


 ……なんだかやけにイカガワシイ名前の芋ですね。


「はい。あまりの甘さに古のサキュバス族がこぞってこの芋を栽培し始めたのが名前の由来みたいですね。他種族を惑わすサキュバスが芋に惑わされるという御伽噺ですが」


「へー、初めて聞いたなぁ、その話」


 俺がそう答えると少女は嬉しそうに笑いました。

 すると彼女は慌てた様子で服に付いた泥を払い、俺に向き直ります。

   

「す、すいません、初対面の方にこんな話を……。わたしはデボン農園東区、『ルガルガ組』に所属しております『ライム・ダダルゴル』と申します。貴女は――」


「俺はカズハ・アックスプラント。よろしくな」


 即答する俺。

 そして固まる少女。

 首を傾げた彼女は俺の頭の先から足の先までゆっくりと見下ろしていく。

 当然、数秒後には顔面蒼白になっちゃったけど……。


「け、けけけ、けけけけ…………!」


「……け?」


「ケホっ、けほけほっ! け、今朝……! 組長が言っていたニュースで……ケホケホっ!!」


 むせ過ぎて何を言っているのか全然分からん。

 でもきっとこの様子だとこんな田舎の田園にも俺の噂は広がっているらしいね。

 やっぱもう身元を隠しても無意味だな、こりゃ。


「ままま魔王……様!! あああアックスプラント様が……どうしてこんな田舎に……!! おえっ」


 ついに倒れこむ少女。

 どうしよう。泡吹いて気絶されても困るし……。


「なあ、お前のその『ルガルガ組』って、オゴエっていう名前のエロ爺が所属している組か?」


「へ……? オゴエ? オゴエって、あの近隣住民から気持ち悪がられていて、かつ、組にも所属せずにたった一人で田畑を営んでいる変わり者として、そして、変質者として有名なあの『オゴエ・ドドラコス』のことですか?」


「…………うん、たぶん、そう」


 やっぱあのエロ爺、そうとう変わり者だったか……。

 ていうか『変質者』ってはっきり言われとる……。


「ば、馬鹿にしないでください! 我々『ルガルガ組』は組長の『ゼックス・ガガルーガ』を始め、品行方正、誠心誠意、農業を営む集団としてこのデボン農園区の全体の秩序と治政をですね……!!!」


「あーはいはい。悪い悪い。俺が悪い。あの爺みたいなのがいっぱいいたらどうしようとか思ってたけど、あの爺だけ変人変態だっていうのが分かって安心した。はいはい、ぎゅーするから黙って」


「……むぎゅぅ」


 とりあえずドワーフ少女をぎゅっと抱きしめて黙らせます。

 小さい子だから俺の胸にちょうど顔がうずくまって、なんか子供を抱っこしているみたいな感じ。

 ……うーん、ちょっとだけルルを思い出してしまいました。

 あいつ、今頃どうしてっかなぁ……。


「……ぷはっ! あ、あの、貴女は本当に、その、魔王様なのですか?」


「はい魔王です」


「あ……そう、ですか」


 俺にぎゅーをされたからか、少女は徐々に落ち着きを取り戻してきました。

 そして俺を見上げて質問してきます。


「今、この農園区でも貴女様の噂で持ちきりです。王宮から通達が来ていて、情報提供者には10万Gの報奨金を出すとドドラコス王が仰っているそうですが……」


「うん。まあ、そうなるわな」


「…………」


 一瞬、沈黙する少女。

 その間ずっと俺を見上げて凝視しているし。


「……あの、もしかして、ですが、農業に興味があるのですか?」


 少女の予想がずばり的中。

 どうせこのまま逃げ続けてても魔力ゼロの俺が捕まるのは時間の問題だからなぁ。

 とりあえずこの少女にこれまでの経緯を簡単に説明しておこうかな。

 

 

 ――というわけで、宮殿から逃げ出してエロ爺さんに乳を揉まれて拉致られたあたりを簡単に説明させていただきました。




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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱりジジイは例外で安心した。
[良い点] 久々の更新だぁぁぁぁぁぁ!
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