016 久しぶりに皆さんドベルラクトスに遊びに来るみたいです。
――ドベルラクトス国。首都ルシュタール、王宮にて。
「宮廷警護兵第一部隊は第二部隊と共にスーマラ洞窟の一階層まで進行。二階層、および三階層は我がドワーフ国家守護騎士団と公国の聖堂騎士団との合同部隊で制圧させる。四階層より奥は帝国、およびエルフィンランドの妖竜兵団の精鋭により鎮圧させることが全会一致で議会で採択された。異存のある者は……おるはずもないか」
深く息を吐いたこの国の王、ドドラコスはゆっくりと腰を王座に降ろします。
あの後、アルゼインの鬼の無双で五階層にいる新生物化した北極ニャンゴロウを殲滅したのは良かったんですけど……。
少し後に到着したレイさんとローラが、俺とかアルゼインの状況を確認し――いや、これ以上は説明する必要もないか……。
「……アル殿。貴公の噂はすでに首都中に広がっておる。後のことは我らに任せて、貴公は帝国にお戻りくだされ」
「ああ、分かっているよ。あの馬鹿も、あと数日もすれば全快するだろうし、あたいも別にこの国に未練はないからねぇ」
アルゼインはニヤリと笑い、そのまま王に背を向けて宮廷を後にしようとします。
もちろん『あの馬鹿』とは、誰のことを言っているか分かりますよね、みなさん……。
「アル様……」
「ティアラ。短い間だったけど、楽しかったよ。またいつかあんたに会いに来る。それまでは良い子にしているんだよ」
「……はい。ずっと、ずっと……お待ちしております」
アルゼインは優しく手を伸ばし、ドワーフ族のメイドの頬を撫でています。
うーん、まあ二人の世界は二人だけのものだから、そっとしておくのが優しさだよね。
「どうだカズハ? ちゃんと会議の様子が映っているだろう?」
急に頭の上から声が聞こえ、そちらに視線を向けてみます。
そこには例のクソガキ、クルルが得意気な表情をしているのが見えました。
俺はそのまま半身を起こし、痛む首を擦ります。
「おい、まだ寝ていないと駄目だってローラが言っていたぞ。お前が受けた傷は、常人だったらまず生きていられないほどの深い傷だったらしいからな。いくら不死の呪いが掛けられていても、防御力ゼロのお前には何の恩恵も無いばかりか、通常よりも受ける痛みが倍増して――」
「はいはい、そんなことは俺が一番良く知ってますよーだ。ていうかそれよりも、お前こそこんな病室で勉強をサボっていないで、さっさと自室に戻って魔工学を学べっつの。また爺さんに怒られるぞ」
俺はそう言い、クルルから託された魔工具をテーブルに置きます。
この魔法の道具はいわゆる『モニター』ですね。
やっぱこの国の技術は他の国よりも進歩してて、こういう機械を作るのもそんなに難しくないみたいです。
前にジェイドが空間に表示させた映像も、この辺の技術と同じようなものだったのかもね……。
「……カズト。僕はお前に言っておかなきゃいけないことがあるんだ。あの時、お前が僕を逃がしてくれなかったら、今頃僕は――」
「だーかーらー、もう良いっつうの。そろそろ公国の来賓との会談が始まるんだろう? 俺のことは大丈夫だし、新生物の件も議会が動いてるんだからすぐに解決するだろ。お前はスケジュール通り午前中は魔工学の勉強。午後に来賓が到着したら、そのまま昼食会。その後の流れはローラさんから聞いて、しっかり会談を成功させろよ。それが王子の務めだろ?」
「う……。そ、そうだな……。分かった。カズトの言うとおりにしよう」
小さくそう呟いたクルルは、そのまま後ろ髪を引かれるような表情をしながら病室を後にしました。
ふーむ、子供も変われば変わるものですねぇ……。
あのクソ生意気なガキが、あの一件以来ずっとこんな感じだし……。
「まあ、とりあえず俺は傷が癒えるまでは大人しくしているしかないし………………暇」
再び魔工具のモニターを手に取り、ベッドに寝転がります。
王宮会議はもう二時間くらいやってるみたいだけど、この調子だと公国からの来賓が到着する直前くらいまで続くんでしょうかね……。
やることもないし、この超つまらん会議のモニターを朝から延々と眺めているだけなんですが……。
で、一応、まとめると――。
新生物化した魔物が出没したスーマラ洞窟を徹底的に調べたら――最悪の状況だったのが判明したんだって。
あの場にいた北極ニャンゴロウはアルゼインが殲滅させたけど、いずれまた生まれてくる? とか何とか……。うげぇ……。
その他の魔物も新生物化が発見された以上、スーマラ洞窟は完全に『除染』されることが議会で決定。
『除染』とはすなわち、『完全に殲滅』っていう意味みたいです。頭痛が痛い、みたいな感じの表現だけど……そこは気にせずにね。
一匹残らず、新生物化した魔物も、まだ新生物化していない魔物も、全部ぶっ倒すらしいし……。。
新生物因子は魔物からヒトへの感染はまだ報告されていないから良かったものの、もし種族を越えて感染とかするんだったら、俺も殲滅対象になっていたのでしょうか……。怖すぎる……。
「――オルダイン博士とその助手であるルーメリア助教授のご意見も議会で公表されております。世界中に未だ広がりつつある新生物因子を抑えるための抗新生物質の開発も、国を問わず世界中で研究され、我が国の優秀な研究者も数多く関わっている重要な『種族存続計画』の実現のため、ありとあらゆる財閥・企業・国家が一丸となって世界平和の第一歩を――」
……うん。なんだかまた眠くなってきました……。
ローラさんの声も聞きやすいんだけど、なんかこう、学校の先生風の声というか、俺からしたら子守唄みたいにしか聞こえなくてですね……。
まあ、それでもたぶんスーマラ洞窟の件は解決するでしょう。
久しぶりに俺の仲間も何人かドベルラクトスに来るみたいだし、あいつらがいればどんな難題だって解決してくれると信じてます。
あー……まだちょっと全身ダルイし、痛みもあるから、もう少し大人しく寝ていますか。
じゃあ、おやすみなさいー。
 




