012 予想外の出来事っていつでも起こるものなのですね。
はい、どうも。カズハです。
クルルとシルフィを連れてスーマラ洞窟の奥を突き進み。
ついに俺達は北極ニャンゴロウのいる最奥のB5Fまで辿り着きましたー。パチパチー。
いやー、思ったよりも二人の戦いぶりに感心しました。センスあるよね、若いのに。
クルルは魔工学を履修しているだけあって、正確に狙った場所に遠距離攻撃できるし。
シルフィは『絶盾』と呼ばれた姉に劣らないほどの盾使いの才能を秘めてるし。
二人ともまだまだ荒っぽいところはあるけれど、将来が楽しみで仕方ありません。
俺はというと、結局まったく戦うことができずに、二人に適当に指示を出しては素材集めに没頭しておりました。
以下、俺が一生懸命に集めた素材の一覧です。
ぷにぷに玉(マジックスライム/normal)×11
ぶにぶに玉(マジックスライム/rare)×1
白灰の牙(レッドウルフ/normal)×7
脆弱な皮(レッドウルフ/normal)×5
白灰の狂牙(レッドウルフ/rare)×1
尖った毛耳(ノースコボルト/normal)×15
折れた長剣(ノースコボルト/normal)×9
マジックリング(ノースコボルト/rare)×1
茶色い手鋏(シザーコウモリ/normal)×20
茶色い手鋼鋏(シザーコウモリ/rare)×2
曲がった釘(鉄うさぎ/normal)×9
錆びれたゼンマイ(機工ワーム/normal)×14
エナジーレール(機工ワーム/rare)×1
…………うん。
ほとんどカス素材だから、たぶん全部売っても1000Gにもならない気がします……。
はぁ……。10億Gも持っていた頃が懐かしい……(遠い目)。
「カズト! 『北極ニャンゴロウ』だ……! 早く僕に指示を出せ!」
クルルの言葉で現実に戻った俺は、洞窟の奥に目を凝らします。
そこには何か口をもぐもぐと動かし、食事中のご様子の猫が……狸? いや、熊か?
「あれが北極ニャンゴロウか? ていうか、でかくね? ニャンゴロウっていうか、クマゴロウじゃん」
「当然ですわ。スーマラ洞窟における最強モンスターなのですから。……でも様子がおかしいですわ。普段ならば外敵を確認した瞬間に逃げ出す習性を持っているはずですのに……」
「いや逃げたらアカンやろ。この洞窟のボスなのに」
ていうかそれ以前に、あんなにデカい熊みたいなモンスターが公国で人気のペットというのが意味分からん……。
「とにかく、早く討伐して僕のしもべにするんだ! そうすれば僕も次期族長として皆に認められることになる!」
「そうですわ。クルル様のためにも、あの北極ニャンゴロウを打ち倒して…………え?」
急にシルフィは口を噤み、魔導測定器を見たまま固まってしまいました。
うーん、どうしたんだろう。
確か討伐して手懐けるためにはクルルよりもレベルが低くないと駄目とか言ってた気がするけど……。
もしかしてちょっとだけオーバーしてたとかかしら。
「どうした、シルフィ! まさか奴は過去最高のレベル7ほどの魔力を秘めている大物なのか?」
「…………そんな…………嘘…………」
シルフィは足を振るわせて、その場にへたり込んでしまいました。
俺は彼女の手から転がり落ちた魔導測定器を手に取って確認します。
「ええと、あいつの魔力値は…………いち、じゅう、ひゃく、せん…………3万?」
「3万!? 嘘を吐け! 過去最高レベルが7ということは、魔力値に換算してもせいぜい1500くらいのはずだぞ!」
「いやそんなこと言ったって……ほれ」
俺はクルルに魔導測定器を渡しました。
そしたらシルフィと同じように顔を真っ青にして固まっちゃったし……。
どういうこと? 測定器がバグってるとか?
『グルル…………』
「おい、どうする? どちらにしても戦ったって勝ち目はないし、奇跡的に倒せても手懐けられないんじゃ意味無くね?」
「た、倒す……? 何を馬鹿なことを言っているのですか……! 早く逃げないと私達、全員あの北極ニャンゴロウに食べられ――」
『ガルルゥ!!』
シルフィが言い終わる前に北極ニャンゴロウはその巨体からは想像もできないほどのスピードで俺達に襲い掛かってきました。
俺はとっさに二人の襟を引っ張って、入口付近まで跳躍して難を逃れます。
「お、おい……! あの『目』……! あれは、まさか……!?」
クルルは北極ニャンゴロウを指さして、震える声でそう叫びました。
その指の先にいるモンスターの目は怪しい赤黒い光を放っています。
「ああ。『新生物化』してるな。恐らくレベルは80くらいだろ」
「「レベル80…………!?」」
二人はもう完全に戦意喪失状態です。
うーん、困った……。
ここまで来るのに調子が良かったせいか、最後の最後で予想外の出来事が起きちゃいました。
「とりあえず、お前らは逃げろ。俺が時間稼ぎをしておくから」
「む、無理だ……! カズトもあいつのスピードを見ただろう! 逃げたってすぐに追い付かれてしまう……!」
「そ、それに洞窟内の構造も入り組んでいますし、何より魔力ゼロの貴女があの化物の攻撃を受けたら――」
「大丈夫だって。俺、『不死』だし。いいか。ここから逃げたらすぐにローラさんに知らせるんだ。もしも彼女が見付からなかったらアルかエアリーでも良い。それと守護騎士団にも連絡を入れてもらって『ハ-レイン』っていう名前の騎士にも事情を伝えてくれるか?」
俺はメイド手帳の余白にレイさんの名前を書いてシルフィに託します。
こいつらだけでも逃がすことができれば、どうにか最悪の事態だけは防げるだろう。
「で、でも……」
「いいから早く行け!」
「っ――! わ、分かった! すぐに助けを呼んでくるから、だから、だから……」
何か言いたげな表情で俺を見上げるクルル。
まったく……。男のくせに涙を浮かべるんじゃねぇ、だらしない。
俺はクルルの頭を優しくポンッと叩いてやりました。
「頼むぞ。後ろは振り向かずに、全力で外まで走れ。…………今だ!」
俺の合図と共に二人は走り出します。
でも北極ニャンゴロウは後を追う素振りは見せません。
ていうか、それよりも――。
『グルルルゥ……』
『ガゥ……。ガウゥゥ……』
洞窟の奥の陰から現れた数匹の巨体モンスター。
気配を隠していたつもりだろうが、殺気が駄々漏れだっつうの。
「ひー、ふー、みー…………六体か。全て新生物化した北極ニャンゴロウの群れ。ったく、誰だよ。『密猟が横行して北極ニャンゴロウが絶滅しかけたから、最近狩られなくなった』ってシルフィに嘘を吐いた奴は……」
狩られなくなった理由は絶滅危惧種だからじゃない。
第二次精魔戦争のときの影響で新生物化し、狂暴化したために誰も狩れなくなっただけだ。
「狙いは俺の身体の中に眠る『無の媒体』とか、そんなオチだろどうせ。はぁ……」
もう溜息しか出ねぇ……。
神様はどんだけ俺を不幸にしたら満足なのでしょうか。
『俺の平和』なんて永遠に訪れないじゃん……。
『ガアアァァァ!』
「おっと。そんな愚痴は後回しにして、今はアルゼイン達が来てくれるまで持ちこたえないと」
――というわけで、魔力ゼロの俺は北極ニャンゴロウとの死闘を繰り広げることになりました。
…………いやでも、どうやって戦えって言うねん!




