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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第七部 カズハ・アックスプラントの隠居生活
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011 誰が元奴隷娼婦で頭おかしくなっちゃった人ですか。

 【スーマラ洞窟:B3F】


「シルフィ、三歩後退して右後ろに盾で攻撃。クルルはそのまま前方と、ついでに向こう側にある岩の出っ張りに照海隕石プチ・メテオを発動」


「右後ろ……? あ……」


『キャキャン……!』


 俺の指示に身体が先に反応したシルフィは、そのまま右後方に盾を振りかぶりました。

 それと同時に飛び掛かってきたレッドウルフが盾に吹き飛ばされ撃沈します。


「カズト! 言われた通りに照海隕石プチ・メテオを撃ったが、あんな場所にモンスターなんて――」


 ゴゴゴゴゴ…………!


「……へ?」

「何、この音は……?」


 俺はクルル達が倒したモンスターのドロップアイテムを拾いつつ、金勘定をしています。

 さっきのレッドウルフのドロップアイテムは『白灰の牙』と『脆弱な皮』かぁ。

 牙のほうは5Gくらいかな。皮は……金にならなそうだから捨てちゃお。


『ギシャアァ!』

『ピー、ピー……ガー……!』


「き、来たぞ! シザーコウモリと機工ワームだ!」


「あれは、隠し扉のスイッチボタン……? まさか、罠を見抜いて先に王子に魔工の発動を――――!?」


 シルフィの発言はここで止まり、ついでに俺達に襲い掛かろうとしていた厄介な二体のモンスターは視界から消えました。

 何が起きたのか分からず二人は口を開けたまま呆然と立ち尽くしています。


「あ、そこ足元が崩れ落ちそうだから気を付けて通れよー。右の端から行けば安全に進めると思うけど」


「…………」

「…………」


 沈黙する二人を素通りし、俺は穴の開いた地面の先に目を凝らします。

 今の落下でシザーコウモリと機工ワームは撃沈してますね。

 ドロップアイテムは地下四階に降りたらちゃんと回収しておきましょう。

 ……お? あれレアアイテムの『茶色い手鋼鋏』じゃね?

 売ったら100Gくらいにはなりそうだし、ラッキー。


「……一発目の照海隕石プチ・メテオは地面に穴を空けて落とし穴を作らせるため。そして二発目は罠を作動させるためのスイッチとして僕に撃たせたというのか?」


「……まるでこの洞窟内の構造も、モンスターの行動も、全てを見通し手玉に取っているようですわ。その証拠に地下三階まで降りてきたというのに、まだ私達はたったの・・・・一度も・・・モンスターからダメージを受けていない」


 何やら二人がヒソヒソ話をしているみたいだけど、どうせ俺の悪口とか言ってるんだろ……。

 もう知ってるもん。この世の全ての人間が、俺のことが嫌いだってこと。

 気にしないもん。強く生きていくもん。


「おい、二人ともー。置いていくぞー」


「あ、待て! 僕を差し置いて勝手に先に進むな!」


「……行きましょう、王子。あの元奴隷娼婦が一体何者なのか――。両国の国交正常化に向けた交流会の前に見極めておく必要がある気が致します」


「……? それはカズトが『怪しい』という意味か?」


「考えてもみてください王子。第二次精魔戦争が終結してから、まだ一月余り。徐々に平和へと向かいつつありますが、問題は山積みです。その最たるものが……『新生物キメラ』です」


 ……うん。

 まーだヒソヒソ話をしてる……。

 ていうかシルフィ先生の目が鋭くこちらを睨んでいるんですが、今度はどんな飛躍的思考で俺を疑う気なのでしょうか……。


「まさか……! お前はカズトが新生物キメラ化した魔物だとでも言いたいのか?」


「……新生物キメラ因子は体内で活性化され脳に到達するまでには分解されると言われておりますが、摂取濃度によっては稀に分解が追いつかず、そのまま脳内に浸透し細胞変異を引き起こす危険性があるとも言われております」


「……つまりシルフィはカズトが奴隷時代に新生物キメラ因子を注入された被験者であり、その他の者のように新生物キメラ化の特徴的身体変異を起こさないまま脳内だけが変異を起こし、それが理由に驚異的な洞察力や『不死』の原因になっていると考察するわけだな」


「はい。第二次精魔戦争の主導者とも言われ、今も生死が不明とされているジェイド・ユーフェリウス卿も『不死』であったという噂が我が聖メリサム学院でも密かに話題になっていたほどです。元指導者であったエルザイム主教までもがその毒牙に掛けられたと言う者もいるくらいですから」


「……なるほど、興味深い話だな。お爺様もローラも、僕には一切そういう情報を教えてくれないんだ。僕も表向きは次期族長などともてはやされていはいるが、世界情勢や戦争のこととなると皆一様に口を噤んでしまう。シルフィ。お前は僕の初めての友人で、そして僕の良い相談相手になってくれ」


「身に余るお言葉、光栄に御座います。今後はカズトを注視し、新生物キメラ化による暴走を起こすようであれば、貴国最強の騎士団『ドワーフ国家守護騎士団』の手を借りなければならないかもしれませんわ」


「そうだな……。今回の試練が無事に終わったら、僕が直々にお爺様に進言してみよう。きっと宰相達も驚くぞ」


「ええ、王子。私達次世代の子供達が国の希望となるために、一緒に力を合わせていきましょう……!」


 …………うん。

 なんか、ちょっとだけ聞こえちゃった気がするけど、魔王だとバレるよりはマシかも知れないから聞こえなかったフリをしていよう……。

 ていうか『元奴隷娼婦で新生物キメラ因子を注入されて頭おかしくなっちゃって奴隷商人に売られてドワーフの国で匿われてメイドになった』っていう設定にされた俺って一体……。


 なんかもう、マジでシルフィの想像力を尊敬します……。




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