010 まともに戦えない俺は指揮官(笑)への道を歩むことにしました。
「カズトさん。その手帳にスーマラ洞窟に関する情報が記載されているのでしょう? 内部構造や出没モンスターのデータを聞かせてもらえますか?」
洞窟の入口を入ったところでシルフィ先生が俺に質問してきました。
まあメイド手帳の内容が全部機密ってわけじゃないし、それくらいは情報共有しておいたほうが無難ですよね。
俺はページを捲って洞窟の地図が記載されたページとモンスター情報を二人に見せます。
「ふむふむ……。やはり『マジックスライム LV.1』が一番弱いモンスターで希少種でもLV.4が最高レベル、種族別で見ても北極ニャンゴロウが攻撃力・防御力・体力すべてにおいて群を抜いて数値が高いな」
「厄介なのはこの『シザーコウモリ LV.3』と『機工ワーム LV.4』ですわね。シザーコウモリは異常に発達した二本の鉤爪で相手に襲い掛かり、傷口を吸血することにより魔力を吸収する性質を持っているとのことですわ。また機工ワームは魔力を動力としている機械種のモンスターで、一度相手に喰らい付くと胴体を切断されても離さないほどの強固な牙を持っているとのこと。この二種のモンスターは相性も良く、シザーコウモリに吸収された魔力を機工ワームに付与魔法という形で受け渡すことで魔力を一気に高める性質もあるそうですわ」
「この二体は同時に出没することが多いらしいからな。情報を持たずに来る冒険者はシザーコウモリに魔力を吸収され、エンチャントされた魔工ワームの攻撃で一気に全滅、なんてこともザラだと聞くぞ」
「へー、初心者用の洞窟にしては厄介なモンスターがいるんだなぁ」
俺は鼻をほじりつつ二人の話を適当に聞きながら洞窟内を歩きます。
でもまあ、ちょっと新鮮な気持ちになったりして、意外に退屈しないで済むかも知れないね。
懐かしいなぁ、こういう初心者用の洞窟って。
俺も勇者候補のときにこういう洞窟に何度も潜って、一生懸命レベル上げをしてたっけ(遠い目)……。
『プギギ!』『ブギー!』
「お、カズト! さっそくマジックスライムが現れたぞ! 戦闘準備だ!」
「カズトさん。しっかりとクルル様の盾となって敵の攻撃を一身に受けてくださいね」
「ういー」
物陰から飛び出してきたのは、二匹のマジックスライムです。
一匹はLv.1で、もう一匹がLV.2かな。
そういえばモンスターと戦うなんて久しぶりだよなぁ。一ヶ月ぶりくらい?
でもまあ俺は戦えないから、クルルのガキの盾くらいにしかなれないけど……。
『ピギー!』
とか考えている間にマジックスライムの片方が前衛にいる俺に向かって飛び掛かってきました。
どうやら普通のスライムと違って魔法を使って戦うタイプのモンスターみたいですね。
あ、なんか色が変わった。さっきまで白かったのに、今は赤くなった。
おお、口みたいなのが開いた。そんでもって、そこから火の玉が――。
「あちぃ!!」
「ちょっとカズトさん! いくら盾役だからってまともに喰らわなくても良いのですよ!」
……モロに攻撃魔法を喰らって前髪が少しだけ燃えちゃいました。
ていうか、結構痛い! え? 魔力ゼロで防御力ゼロだと、こんなに痛く感じるものなの?
やばいどうしよう。さっそく盾役をやるのが嫌になってきた……。
『ピギョギョ!!』
「次が来るぞ! マジックスライムは素早さだけは高いから攻撃頻度が多いが、ダメージは大したことはない! 踏ん張れ、カズト!」
「いや、そんなこと言われてもかなり痛いんだけど……」
もう一方のマジックスライムは色の変化は無いまま地面をジグザグに走行して俺の懐に突っ込んできます。
そして一瞬輝きを増したかと思ったら――
ドンッ!!
「ぶぎゃ! 爆発した!?」
「大丈夫ですか! カズトさん……!」
いきなり腹部で爆発したマジックスライムのせいで俺はクルルを飛び越えてシルフィの前まで吹き飛びました。
痛い! めっちゃ痛い! もう死ぬ!
「やっぱり魔力も防御力もゼロじゃ駄目じゃないか! シルフィ!」
「はい王子! ここは私にお任せを!」
剣と盾を構えたシルフィは地面を蹴りクルルの前へと踊り出します。
そして華麗な剣さばきで赤に変色したほうのマジックスライムを斬り裂きました。
「いいぞ! 次は僕の番だ! 魔工学の威力、見せてやる!」
怯んだマジックスライムに向かって魔工杖を振り上げたクルル。
天に向かい円を描いた直後、力いっぱいに杖を振り下ろします。
「魔工の力にひれ伏せ! 《照海隕石》!」
『プギャァ!』
突如マジックスライムの頭上に大きめの岩のようなものが具現化され、敵を押し潰しました。
おー、あれが魔工杖の攻撃かぁ。
やっぱドベルラクトスの技術って他の国じゃあまり見ないというか、ゼギウスの爺さんが作る武器に似ているというか……。
かなり変わってるよねー。
「あと一撃ですわね……! しかし、先ほど爆発したマジックスライムのほうもそろそろ復活しそうですわ!」
シルフィの視線の先には俺の腹で爆発した白いほうのマジックスライムの断片が一か所に集まろうとしているのが見えます。
うーむ、どうしよう。俺、まったく活躍してない。
というか足手まといになってね……?
「よいしょっと」
起き上がり、とりあえず首の骨を鳴らします。
攻撃力ゼロ。防御力ゼロ。魔力ゼロ。俺に残っているのはこの無限の体力のみ。
盾役になろうとも、敵の攻撃に吹き飛ばされたらそれで終わり。二人を守ることもできない。
「はぁ……。思った以上に役立たずだけど、これくらいなら出来るか……」
ウインドウを操作し、モンスター情報を分析します。
一度戦えば情報が更新されるから、これを元に二人にアドバイスでもできれば少しは違うかも……。
Name マジックスライム Lv.1
Gab 『光』『火』 Wab 『闇』『水』
HP 2/10 SP 15/20
Skill ---
Magic 『ファイアーボールLv.1』『シャインイクスプロウドLv.1』
STR2/VIT2/INT8/RES4/DEX2/AGI10/LUK1
Drop normal/ぷにぷに玉 rare/ぶにぶに石
Name マジックスライム Lv.2
Gab 『光』『火』 Wab 『闇』『水』
HP 13/15 SP 20/30
Skill ---
Magic 『ファイアーボールLv.2』『シャインイクスプロウドLv.2』
STR3/VIT3/INT9/RES6/DEX4/AGI12/LUK2
Drop normal/ぷにぷに玉 rare/ぶにぶに石
「ぷにぷに玉……? ぶにぶに石……? いらんわ、こんなん」
『Gab』は得意属性で『Wab』は苦手属性の表示です。
さっき俺の腹で爆発したのは光魔法のシャインイクスプロウドだったってわけですね。
スキルは持っていないみたいだから、攻撃の直前に色が変わればどういう魔法を使うのかが予想できるってことになります。
『赤』なら口からファイアーボール。『白』なら目の前に突っ込んで来てシャインイクスプロウド、と。
「何をブツブツ言っているのですか! 今度は同時に来ますわよ!」
「あー、シルフィは一旦下がって。クルルはあの赤いのじゃなくて、白いほうにさっきの魔法を使ってくれるか?」
「正気か! あと一撃で倒せるのに……!」
二人とも同時に俺を振り向いたから、俺はピースサインを送っておきました。
シルフィは首を傾げつつも俺の言うことを聞いてくれて、一旦後ろに下がります。
『ピギィ!』『ピギギ!』
「あ……色が……!」
クルルも仕方なしに(?)攻撃対象を白いマジックスライムに向けてくれた途端、お互いのマジックスライムの色が交互に変化します。
「と、とりあえずお前の言うとおりに魔法を撃つぞ! 《照海隕石》!」
『ピギギィ!』
赤く色が変化したほうのマジックスライムは大きく口を開けました。
その瞬間にクルルの放った隕石が落下し、口の中で爆発を起こします。
「で、俺は、と……」
同時に走り出していた俺はクルルの前に立ち、再び盾役になります。
今度は白に色が変化したマジックスライムがジグザグに走行して俺の懐に飛び込んできます。
そして眩く光り輝き――。
「同じ手は食うかっつうの! そおい!」
『ピギ!?』
懐に飛び込んできた瞬間を狙って、俺はそのまま後方に倒れ込みマジックスライムを蹴り上げます。
まあ攻撃力ゼロのキックなんてこれっぽっちもダメージを与えることなんて出来ないんだけど――。
「!! 洞窟の上に……あれは『シザーコウモリ』ですわ!」
「正解、シルフィ」
上空にすっ飛んでいったマジックスライムは、そこに潜んでいたシザーコウモリと接触。
そして直後、爆発――。
『ギャギャン!』
「シルフィ!」
「あ……はい!」
落下してきたシザーコウモリに向かって突進するシルフィ。
不意打ちを喰らって眩暈を起こしているシザーコウモリを難なく打ち倒してしまいました。
「…………」
「…………」
ぽかーんと口を開けて立ち尽くしている二人。
俺はとりあえずドロップアイテムの『ぷにぷに玉』を二つと『茶色い手鋏』を拾い上げて鞄にしまいます。
まあ、今はお金が全然無いからね。
1Gでも換金できれば有難いと思うしかないです……。
「お、おいカズト! そんなクズドロップアイテムを拾っていないで説明しろ!」
「そ、そうですわ……! どうして一瞬でモンスターを三匹も……いえ、それよりも何故シザーコウモリが潜んでいたと分かったのですか!」
「クズでも1Gになれば馬鹿にならないんだぞ! 俺、金無いんだからな!」
「「いいから!」」
「…………はい」
強く言われた俺は、口を尖らしつつ適当に説明します。
以下、面倒臭いので箇条書きで!
1.マジックスライムはシャインイクスプロウドを使うと2のダメージを負う(残りHPより算出)
2.二度目の攻撃で同時に襲い掛かって来ようとした瞬間に属性変更の予兆があった(赤→白、白→赤)
3.元が赤いほうの残りHPが2だったため、シャインイクスプロウドを使えば自滅すると予想
4.俺の素敵気配察知能力により洞窟上部にシザーコウモリが潜んでいたのは最初から知ってた
5.白いマジックスライムを自滅させ、尚且つシザーコウモリを奇襲すれば眩暈を起こすと予想
6.赤く変わったスライムがファイアーボールを放つ瞬間、大きく口を開ける仕草をするのでそこに隕石をぶっ込んだらオーバーダメージと予想
つまり、俺のこれまでの人生経験が最強というわけですね!
「そ、そこまでの予想をあの一瞬の間にしたというのか!」
「うん」
「あ、あり得ませんわ! そんなこと、姉様だって出来るか分からないというのに……!」
「えー、あれくらいできるだろ。セシリ――おっと、機密事項か」
ついクルルの前でセシリアの名前を出しそうになって口を押さえます。
まあ別に教えても良いかもしれないけど、余計なことはなるべく口にしないほうが良いだろ。
これまで散々、この俺の口から災いが生まれてきたからな!
…………うん。
「……コホン。失礼しました。私としたことが、少しだけ動揺してしまいましたわ。しかし、まだまだ洞窟に入ったばかりの序盤。クルル様、前衛は私が代わりますから慎重に探索を進めましょう」
「お、おう。そうしよう。カズトは僕の傍を離れるなよ」
「はーい」
ということで、気を取り直した俺達は洞窟の内部深くへと潜っていくことにしました。




