009 俺のステータスはエラーばかりでもうどうにもなりません。
首都ルシュタールを出発し、南西に伸びる街道を歩くこと約二時間。
途中で何度かモンスターと遭遇しかけたけど、どうにか戦闘にならずにスーマラ洞窟まで辿り着くことができました。
「ここがスーマラ洞窟ですね。ここに生息している野生の北極ニャンゴロウは公国でも貴族のペットとして人気を博しているネコ科のモンスターです。全身を覆っている茶色い毛は野生とは思えないほど肌触りも良く、またその毛皮は高価格で取引されているとも聞きます」
「へー、お前色々と詳しいんだなぁ。さすがは聖なんとか学院の主席」
俺はうんうんと頷き、ストーカー少女を(一応)持ち上げておきます。
ていうか、めっちゃ寒い。
首都の中は魔工の技術とかで街中暖房が利いてて過ごしやすかったけど、やっぱ外に出ると寒くて凍え死にそうになります……。
武具屋でコートを買っておいて正解だったね。
「『聖メリサム学院』です。それと私のことはきちんと名前で呼んでください」
「はーい、シルフィ先生」
「……『先生』は必要ありません」
ギロリと鋭い目で俺を睨みつけるシルフィ。
うーん、やりづれぇ……。
「そんなことより、カズト! 早く洞窟に入って北極ニャンゴロウを捕まえるぞ!」
一方、キラキラした目で俺を見上げるやんちゃ王子。
普段からこうやって素直な面を見せておけば、メイドさん達の苦労も報われる気がするんですけどね……。
「『捕まえる』っていうか、『討伐して手懐ける』ってここに書いてあるんだけどさぁ。普通、討伐したら手懐かないんじゃね? これどういう意味なんかな……」
メイド手帳を何ページか捲ってもその件に関しての説明はどこにも載っていません。
やっぱアレか。魔法で眠らせるとか痺れさせて捕獲するとかしないと駄目なのかな。
「何を言っているんだカズトは! モンスターを倒すと一定の確率でそいつが立ち上がって仲間になりたそうな目で見つめてくるだろ! そうすれば心が通じ合ってモンスターは僕の手下になるんだぞ!」
「マジで!?」
何その設定!?
どっかで聞いたことがある気がしないでもないけど、何故か説得力があるよね!
「そのためには討伐した側の力が『上』だとモンスターに示さなければなりません。要は事前に『レベル表示』をしておいて、それから討伐を繰り返し、モンスターが仲間になりたそうにこちらを見つめて立ち上がるのを待つ、という流れですね」
「そういうことだ。このスーマラ洞窟に生息しているモンスターは大体レベルが1から3の奴らがほとんどだからな。ボス級モンスターである北極ニャンゴロウでも個体差はあるが、これまでの記録でも最高レベルは7らしいぞ。今の僕のレベルは4だから――」
「あー、つまりレベル4以下の北極ニャンゴロウを探して、討伐して、運よくそいつが起き上がって、仲間になれば任務終了ってわけか。……結構メンドクセェ」
どれくらいの頻度でボス級モンスターの北極ニャンゴロウが出没するのかは知らんけど、一時期絶滅しかけてたんだよね……。
で、運よく遭遇できてもレベルが4以下じゃないと倒しても手懐かないから、レベル4以上は無視して……あ、いやでも毛皮が高く売れるんだったら倒してドロップアイテムだけでも拾っておいたほうが良いのか。金ねぇし。
「手順は頭に入りましたでしょうか。では、各々のレベル表示を『知らせる』に変更し、装備の最終確認をしておきましょう」
いつの間にか引率の先生みたいになってるシルフィが先にレベルと装備を空間に表示させます。
LV.8 シルフィ・クライシス
武器:ライトソード(攻撃力10+5)
防具:クロムシールド(防御力8+4)
装飾品:聖メリサム学院のバッジ(光属性強化、闇属性半減)
特殊効果①:『イスム・ルティーヤー』(イスム・ルティーヤー製の武器・防具/基本値+1/2)
特殊効果②:『公国の加護』(聖メリサム学院のバッジ/『光』↑↑/『闇』↓)
状態:正常
「じゃあ、次は僕だな」
続いてクルルがレベルと装備を表示させます。
LV.4 クルル・ドドラコス
武器:照海石の魔工杖(攻撃力4+2)
防具:ドワーフ族の冒険服(防御力12)
装飾品:エンゼルの魔工機(呪い解除、無属性強化)
特殊効果①:『イスム・ルティーヤー』(イスム・ルティーヤー製の武器/基本値+1/2)
特殊効果②:『魔工』(魔工杖/遠距離攻撃可)
特殊効果③:『開拓者エンゼルの奇跡』(エンゼルの魔工機/『無』↑↑/『呪い』無効化)
状態:正常
「よーし、じゃあ確認できたし早速出発…………何だよ、その顔は」
意気揚々と洞窟に足を踏み入れようとした俺に向かって、二人はジト目を向けるだけです。
え? 俺? 俺もレベルとか装備の表示をするの?
「……カズトさん。どうして貴女だけレベル表示をしないのですか」
「そうだぞ、カズト。いくら魔力がゼロだからって、恥ずかしがって僕達にレベル表示をしないのは失礼じゃないか。下手したら死んでしまうかもしれないのだし、そうなったら僕がローラに叱られるだろ!」
二人は俺に詰め寄ってきます。
……うーむ、どうしよう。
最近レベルの表示とかしてなかったからあまり覚えていないんだけど……。
ていうか、ジェイドに魔力が奪われてから見てないから、もしかしたらレベル1とかに戻ってるのかな……。
「ちょ、ちょっと待ってもらえますか」
俺は二人に断って、そそくさと洞窟の入口にある岩陰に隠れます。
そして空間をタップして『現在のレベルを相手に知らせる』の設定に切り替えました。
――で、以下がその表示です。
LV.7042 カズハ・アックスプラント
武器:なし(攻撃力0)
防具:ドドラコス家のメイド服(防御力0)
装飾品:戒めのイヤリング【呪】(呪い効果/解除)
特殊効果①:『破理』(妖精剣フェアリュストス/全魔力封印)
特殊効果②:『能力剥奪』(無の魔術禁書/全能力剥奪)
特殊効果③:『制限解除』(陰の魔術禁書/レベル制限解除)
状態:異常(エラー)
「…………うん」
確かに異常以外の何者でもない……。
俺はとりあえず『状態:異常(エラー)』の項目をタップして詳細を調べます。
魔力値:0(エラー)
スキル:使用不可(エラー)
魔法:使用不可(エラー)
得意属性:火属性、喪失(エラー)、復活(エラー)。陰属性、喪失(エラー)、復活(エラー)
性別:女(エラー)
体力:無限(エラー)
総合結果:『不死』(エラー)
エラー、エラー、エラー、エラー…………………………。
「ええい! エラー画面ばっかりでなんなの! 俺にどうしろっていうの!! ていうか『不死』って何!?」
画面がピーピーうるさいので強制終了させました。
でも現実は俺を許してはくれません。
神獣と契約して寿命が縮まったと思ったら、今度は不死?
でもジェイドを倒してレベルが7000越えまで逝っちゃってたから、体力がほぼ無限に近いという意味では不死とも言えるのかもしれぬ……。
「まさか、これが『本当のジェイドの呪い』だったりして…………ハハ…………」
「おいカズト! いつまで勿体ぶるつもりだ! 日が暮れてしまうぞ!」
待ちきれなくなったのか、クルルが岩陰まで駆け寄ってきました。
どうしよう。こんなん見せたら正体がバレるどころか、速攻で通報されてまた犯罪者生活に戻されるやもしれぬ……。
「……随分と青ざめた顔をされておりますね。それほど見せたくないステータスだということでしょうか」
「ぎくり」
クルルの背後には鋭いシルフィ先生が腰に手を当てて立っております。
アカン! もう俺の隠居生活は終わりだ……!
「カズト……。悪かったな。魔力がゼロというのは、お前にとってそれほどショックなことだったのだな」
「へ?」
「良いでしょう。見せられる分だけの表示で構いませんので、私達にも貴女のステータスを見せて下さい」
……神様! いやシルフィ様!
俺の全裸じゃなくて、大事なところを隠してチラ見せで良いなら、どうにか誤魔化せるかもしれない……!
「ええと、ちょっと待ってね。ここと、ここと……それとここを隠して……」
俺は表示可能な部分だけを抜粋して、後は黒塗りにして二人の前にステータスをお見せしました。
LV.●●●● カズ●・●●●●●●●●
武器:なし(攻撃力0)
防具:ドドラコス家のメイド服(防御力0)
装飾品:戒めのイヤリング【呪】(呪い効果/解除)
特殊効果①:『●●』(●●●●●●●●●●/全魔力封印)
特殊効果②:『●●●●』(●●●●●●/全能力剥奪)
特殊効果③:『●●●●』(●●●●●●/●●●●●●●)
状態:異常『不死』
「全魔力封印に、全能力剥奪だと……? それで魔導測定器でも魔力が検出されなかったのか……」
「……はい」
「状態が『不死』ということは、何かの呪いが掛けられているのかもしれませんね。でも私には理解ができます。きっと貴女は奴隷時代に『不死』の呪いを掛けられ、貴族にあんなことやこんなことをされても死ねない身体にされて――」
「まだその設定生きてたの!?」
「そうだったのか……。辛い過去を思い出させてしまって悪かったな。もうこの話は終わりにしよう」
「待てーい!」
「そうですわね。きっとドドラコス様はカズトの過去を知りながら、宮殿にメイドとして住まわせることに同意したのでしょうから、本当に心優しき方だと思います」
「待てっつってんの! 俺の話を聞きなさい!」
俺がどれだけ騒いでも、二人は腕を組んで何やら納得した様子で頷いています。
でも本当のことをいう訳にもいかないし……!
ああもう……仕方ない! このまま奴隷設定でも良しとします!
「ですが貴女の過去は過去として、ドドラコス家で雇われているメイドとしての責務は全うしていただかなければなりません」
「……と言いますと?」
気を取り直した俺は、シルフィの話を真面目に聞きます。
もうさっさとなんたら猫を捕獲してお家に帰って暖かいスープも食べたいです……。
「簡単なことです。貴女は不死なのですから、王子を守る盾に相応しいじゃありませんか」
「お前出発前には『魔力ゼロの貴女は王子の盾にはなれない』とか言ってたじゃんか!」
「あの時と今とでは状況が違います。不死の貴女が最前線に立ち王子の盾としてモンスターの攻撃を一身に受け、私は最後尾で敵の奇襲を警戒し王子を守るほうが理に適っていると言いたいだけです」
「確かにシルフィの言うとおりだな。スーマラ洞窟は内部は広いが入り組んだ構造になっている。盗賊ギルドの連中も背後からモンスターに襲われて北極ニャンゴロウをみすみす取り逃がしたなんていう報告も聞いたことがあるからな」
シルフィの提案に太鼓判を押すクルル。
満足そうに頷いたシルフィは嫌がる俺の背中を押して、洞窟の入口に向かいます。
「まあ、もしもの時は僕に任せておけば大丈夫だ! なにせ第八種魔工学まで履修してるからな!」
「さすがはクルル王子ですね。後衛はぜひ私にお任せ下さい。さあ、気を取り直して北極ニャンゴロウの討伐に――」
「「出発!」」
…………うん。
なんかもう疲れたから、さっさと捕まえて帰ろう…………。




