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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第七部 カズハ・アックスプラントの隠居生活
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007 独国の七歳の少年は熱血悪戯少年でした。

 ドベルラクトス国の首都ルシュタールの宮殿でメイドとして雇われてから(呪いのアイテムを装備させられて軟禁状態にされてから)早一週間が過ぎました。

 研修初日からやらかした俺だけど、さすがに耳が引き千切られて脳に損傷を負うのは勘弁なので大人しくメイド業務に専念しております。


「カズトさん! 何度言ったら分かるのですか! ラドッカ様の朝食をつまみ食いするなんて、言語道断です!」

「ちょっとカズトさん! このお皿はクルル様のペットの鳥用のお皿だって言ったじゃないですか! どうして毎回同じ間違えをするんですか! 昨日それで宰相に怒られたばかりでしょう!」

「た、大変です……! 執事のリュークが鼻血を出して中庭で倒れています! どうやら掃除をしていたところ、カズトさんが暑いからとメイド服を脱ぎ出して上半身裸になったのが原因みたいで……!」

「「「カズトさん!!!」」」


 …………ええ、はい。

 もうなんか毎日こんな感じで、夕礼になるとメイド長の説教を延々と聞くという流れが定着しておりまして……。

 ていうか、別に良くね? 族長の爺さんの朝食くらいつまみ食いしたってさ。

 もしも毒が入ってたら厄介だし、ペットの皿と皇族の食事皿を間違えたのだって、似たような食器ばかり使ってて全然見分けがつかないからだし。

 首都も温度が一定で過ごしやすいのは良いんだけど、極悪な量の掃除・洗濯・庭いじりで汗かきまくるんだから、誰もいない時間に中庭で上半身裸で雑草抜いてたら、たまたま執事の一人が俺と鉢合わせただけだし……。

 うん。俺は一つも悪いことはしていない。

 だから謝らないもん。


「もうここは良いですから、クルル様のお遊戯のお相手をしてきてください!」


「えー、あいつ生意気で嫌いなんだよねー」


「「「カズトさん!?」」」


 調理場にいたメイドが一斉に俺の口を手で塞ぎます。

 痛いっつうの! 誰か知らんがどさくさに紛れて俺の目を指でぶっ刺したやろ今!

 なにすんの! 俺に何の恨みがあるんだっつの!


「一体何を騒いでいるのですか? 朝食の準備はまだ出来ていないのですか?」


 厨房の扉を開き、中に入ってきたのは鬼のメイド長のローラです。

 みんな神の如き速さで何事も無かったかのように仕事を再開するから凄まじい……。

 俺もこのメイド長にだけは逆らえないから(次は何をされるか分からないし)、大人しくクルルの面倒でも見に行くことにしましょう。


「……カズトさん? どうしてコソコソと私に見付からないように厨房を出ようとしているのですか?」


「め、滅相も御座いません! 決してやましいことなど、これっぽっちもないです!」


 メイド長に呼び止められ、裏返った声でそう返答しちゃいました。

 こいつらが余計なことをチクる前に早くここから逃げ出さないと、朝から説教地獄に落とされかねないし……。


「これからクルル様のお遊戯のお相手をして参りますので、失礼しますー!」


 なるべくメイド長の目を見ないようにして、俺は頭を下げてその場を走り去りました。

 ……よし。追い掛けて来ないところを見ると、どうやら納得してくれたみたいですね。

 どうせあいつらは俺のことをチクるだろうけど、クルルの面倒を見ている間だけは呼び出しを喰らわないのはこれまでも実証済みなんです。

 あのクソガキの面倒を見るのはメイドの間でもかなりの難題みたいで、メイド長ですら手を焼いてるらしいからね。

 まあ気持ちは分かるけど……。


「うぅ……! カズトさぁん……!」


「あれ? どうしたエアリー?」


 廊下を走っていると、向こうから泣きはらした様子のエアリーが俺に気付いて声を掛けてきます。

 ……何か知らんがメイド服がびしょ濡れなんだが。


「えーん! クルル君にやられましたぁ……! あの子、いつも私に悪戯するんですぅ……! 昨日は食事を運んだら扉の前の足元に縄が仕掛けられていて、転んじゃって朝食をばら撒いちゃってメイド長さんに怒られたし、一昨日は背中にノースネズミを入れられたし、その前は――」


「はいはい、泣かないの。エアリーは反応が面白いからクソガキの格好の餌食にされるんだから仕方ないだろ。俺なんてこの前、一人変顔大会をやらされて、最高に面白い顔を見せてた瞬間にメイド長が部屋にやってきて、いきなり平手打ちされたからね。肉体も精神もボロボロになったよマジで」


「そ、それもかなり辛いですねぇ……。もしかして、これからクルル君のお遊戯のお世話ですかぁ? 頑張って下さい! 私はこれから着替えてきますので、失礼しますぅ……!」


 そのまま泣きながら走り去っていったエアリー。

 メイド長ですらあのクソガキに手を焼くのも頷けますね。

 うーん、ぶん殴ったら後で大変なことになるし、どうしたもんか……。


 長い廊下の一番奥、その右側にある扉の前に辿り着き、俺はそっと扉に耳を当てる。

 ……うん。なんか笑い声が聞こえるけど、エアリーに悪戯したのがよほど面白かったんだろうな。


「失礼しまーす。クルルのクソガキ――こほん、クルル様、入っても宜しいでしょうかー」


『ん? その声はカズトだな! よし、入れ!』


 中から返事が聞こえ、俺は扉を開きます。

 するといきなりおもちゃの矢が飛んできて、俺はすかさずそれを右手の二本の指で捕えます。


「ちぇ、カズトはこれだからつまらないんだよなぁ」


 弓を床に放り投げたクルルはソファに寝転がり本を読み始めました。

 部屋の中は玩具やぬいぐるみなどが散乱していて、毎日メイドが掃除してもすぐに汚してしまうらしいね。

 もうそろそろ八歳になる次期族長候補がこれだから、家臣達が皆頭を抱えるのも理解できます。


「クルル様。先ほど、メイドのエアリーにまた悪戯をされましたよね」


「知らないよ。あいつが勝手にバケツの水を頭から被っただけだろ」


 俺のほうを向かず、本を読みながらそう答えるクルル。

 どうしよう。こっそり殴っても良いかな。

 これがアルゼインだったら、髪を鷲掴みにして脅したりとかしそうだけど……。

 よし。あいつだけはクルルに近付けないようにメイド長にも言っておこう。

 というかどう考えてもメイドに向いてないから、レイさんと同じく護衛騎士にでもしたほうが良いんじゃないかしら(鼻ほじ)。


「そうだ、カズト! 今日は確かお爺様は外出される日だったよな!」


「へ? あー……はい。ええと……そうですね。午前中にエルフィンランドの使者と謁見をした後に、公国の大使と共に港町グリッサムに公務で出掛けるって書いてあります」


 俺はメイド長から渡された分厚い手帳に記載されている予定表をそのまま読み上げました。

 港街グリッサムは首都から南に700ULウムラウトほど離れた大きな街です。

 公国からの来賓を出迎えるための港を大使や宰相達と一緒に視察するのが目的だとか言ってたっけ。


「僕もそろそろ八歳になる。ドワーフ族の男は八歳になるまでに『イスム・ルティーヤー』製の武器を使いこなせなければ、一人前とは言えないのだ! カズトも知っているだろう?」


 本を置き、身を乗り出して話し出すクルル。

 確かにドワーフ族の男には昔から一人前と認められるための儀式みたいなのがいくつかあるのは知っていた。

 八歳までに伝統とされる武器を扱えるようになり、十歳までに魔工学を履修する。

 十五歳になると各ギルドに所属し、十七歳になり初めて他国への渡航が許されるといった具合だ。

 ドベルラクトス国は元々鎖国してた国だから、こういう決まりとかには凄いうるさいらしいんだけど……。


「ですが、クルル様。皇族には皇族のしきたりがあります。クルル様には次期族長候補としての教育プログラムがありますし、危険な武器を勝手に扱ったらラドッカ様やメイド長にも叱られてしまいます」


「だからカズトに頼んでいるんだろう! お前は他のメイドとは違って、毎日ローラや執事長に怒られているじゃないか! 僕は早く一人前の男になって、お爺様に認められたいんだ!」


 クルルは真剣な眼差しで俺の目を見つめます。

 うーん、どうしたもんか……。

 ていうか俺が毎日メイド長に怒られているから、俺に頼むってどういう理論なのかさっぱり分からないんだけど……。

 でもクルルの気持ちだけは理解できる気がしないでもない。

 ずっと宮殿に閉じ込められて、勉強の毎日。

 いくら世界が平和になったとはいえ、まだ首都の周辺にも新生物キメラ化したモンスターが繁殖し続けている。

 次期族長になるっていうことは、こういう危険から国民を守らなければいけないってことだし、それには族長自身も戦い方を身に付けないといけないことにも繋がる。

 ……まあこのクソガキがそこまで考えているかどうかは知らんけど。


「うーん、ちょっとお待ちくださいね……」


 俺は分厚い手帳を捲り、クルルの教育に関するページを吟味します。

 確か『非常時における護身術の指南』とかいう項目があったはずだけど……。


「……ああ、これか。ええと『ドワーフ皇族たるものどのような事態に陥っても敵に屈せず、最後まで戦うことを諦めてはならない。そのためにはまず自らの命を守る護身術を身に付ける必要がある。皇族は十歳までにスーマラ洞窟に生息する北極ニャン……ゴロウ? を討伐し手懐けるという儀式を通じ、護身術を身に付ける必要がある』。……北極ニャンゴロウって、何?」


「おお! 北極ニャンゴロウと言えば、世界各地にいる富豪の間で人気のペットだぞ! 確か何処かの国の盗賊ギルドが密入国を繰り返して、一時期は北極ニャンゴロウが絶滅しかけたと聞いたことがある!」


 目を輝かせたクルルは、勝手に俺の手帳を奪い取って詳細を確かめています。

 ちょっとそれ、メイドの秘密手帳なんだけど! 勝手に読むんじゃないっつうの!


「ふむふむ……。ドベルラクトスにおける猫科最弱のモンスターというのが少し難点だが、まあいいだろう! おいカズト! ここにも十歳までに行う儀式だと書いてあるのだから、お爺様が外出するのを見届けたらローラ達に見付からないようにこっそりと宮殿を抜け出して、スーマラ洞窟に向かうぞ!」


「いやいやちょっと待って! 勝手に宮殿を抜け出したらまた俺が怒られるだろうが! ていうか俺の付けているイヤリングには呪いが掛けられてて、勝手に首都を抜け出したら耳が千切れちゃうの! 脳に損傷を受けちゃうの!」


「呪いのイヤリング……? そんなもの解呪すれば良いだけの話だろう?」


 溜息交じりにそう答えたクルルは机の引き出しを開け、小さな機械のようなものを取り出しました。


「どうせローラに怒られてそんなイヤリングを付けられたんだろう? 僕だって毎日嫌々魔工学を学ばされているだけじゃないんだ。それくらいの呪い、簡単に解けるぞ。ほら、耳を貸せ」


「マジで!」


 慣れた手つきで機械を弄ったクルルは、俺の耳にそれを当てる。

 そしてイヤリングの留め具の部分に魔力を当て、呪いを解除してくれた。


「破壊しても良かったんだが、それが無いとローラに怪しまれるんだろう? 呪いだけを無効化させておいたから、これで何も問題は無いだろう?」


「う……」


 クルルに借りが出来てしまった手前、もう後戻りが出来なくなりました……。

 確かスーマラ洞窟は首都の南西に向かって100ULウムラウトほど歩けば到着するくらい近かったと思います。

 うーん、さすがに今は盗賊ギルドの連中が密入国とかしてないと思うから、新生物キメラ化モンスターだけに気を付けていれば大丈夫だとは思うんだけど……。

 いかんせん俺の魔力はまったく戻っていないから、万が一政府指定危険魔獣級のモンスターとかに出くわしたら、さすがに敵わないと思うんだけど……どうしよう。


「頼む! カズトしか頼めるメイドはいないんだ! 早く僕は一人前になりたいんだ!」


 少年の目は決意の色を示しています。

 はぁ……。どうしていつもこういう展開になるのでしょうか。


 俺はただ、平和な世界をのんびり暮らしていたいだけだっつうのに……。




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