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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第七部 カズハ・アックスプラントの隠居生活
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004 メイドの研修が厳しすぎてさっそく逃げ出したいです。

「昨日はお恥ずかしいところをお見せして申し訳ありませんでしたわ。私はローラ。メイド長を任されております。貴女方三人を半月で一人前のメイドにするよう、主より言い渡されておりますので、そのおつもりで」


 宮殿にあるメイド室に呼ばれた俺とエアリーとアルゼインは、昨日俺達を案内してくれたメイド長さんに専属のメイド服を渡されます。

 肩の部分にドドラコス家の紋章が刺繍された、緑を基調としたスカートの裾の長いドレスみたいな感じです。

 俺が今まで着させられたフリフリとかスケスケとかエロエロとか、そういうアホなメイド服じゃないのでまずは一安心。


「おい、メイド長。これじゃあたいの胸がはち切れちまうよ」


 さっそく着替え始めた俺達だけど、どうやらアルゼインは服のサイズが合わないみたいです。

 ていうかそれ、お前が爆乳なだけでメイド服が悪いわけでは無い気が……。

 いや、それ以前にアルゼインがメイド服って……どうみても、そういうお店で働いているエロい人にしか見えません。


「確かに……分かりましたわ。特注の物を用意させますので、アルさんはこのままティアラと共に街の洋裁店に出かけて下さい。ティアラ」


「はい。それではアルさん、向いましょう」


 ティアラと呼ばれたもう一人のメイドはアルゼインを連れてメイド室を出て行きます。

 くそ、あいつラッキーだなぁ……。

 なんでも昨日レイさんから聞いた話だと、ドドラコス家のメイドの研修ってめっちゃ厳しいらしいし……。

 さっき何人かメイドさん達とすれ違ったけど、俺らめちゃくちゃ睨まれてたし……。


「カズトさんとエアリーさんはどうでしょうか?」


「はい~、私はサイズがピッタリですぅ。というか、このメイド服、凄く可愛いですねぇ!」


「……貴女はまず、その話し方から直していきましょうか。返事はしっかりと。語尾は伸ばさずに」


「あぅ~……」


 出鼻を挫かれたエアリーは犬耳を垂らして落ち込んじゃいました。

 ……アカン。この調子じゃアルゼインも洋裁店に行くまでにボコボコにされてるだろうし、俺とかどう考えてもお局達のいい餌食になりそうだし、今から冷や汗が止まりません!


「カズトさん。貴女は……それなりに着こなしているようですね。もしかしてメイドの経験がおありなのですか?」


「ほえ……? あ、はい! 何度か(フリフリとかエロエロとかのメイド服を無理矢理着させられた)経験がありますので、自信があります!」


「自信が……ある?」


 ……アカン。つい大ボラを吹いてしまった……!

 だってこのメイド長、ちょっと目が吊り上がってて怖いんだもん!


「……まあ良いでしょう。着替えが終わったようですので、このまま研修を始めますよ。アルさんは特注のメイド服が出来次第、別メニューで進めていきます。とにかく、私達メイドの業務は多岐にわたりますので時間が惜しいのです。まずは言葉使いから指導していきます。……お返事は?」


「はいですぅ~!」

「がってんだい!」


「…………」


 メイド長の無言の眼差しがモロに刺さって痛い……。





 あっという間に午前中が終り、ようやくお昼休憩に入りました。

 アルゼインはまだ帰って来ないし、俺とエアリーだけ猛特訓に付き合わされて、ホントマジ俺の隠居生活はどこに行ったんだって感じなんですけど……。


「あうぅ……。もう頭がこんがらがって眩暈がしますぅ…………パタリ」


 エアリーは昼ご飯も食べず、宮殿の中庭にあるメイド用の休憩広場のベンチに倒れ込みました。

 ていうか俺も死にそう。疲れすぎてまったく食欲が湧かないです。

 俺はエアリーの横に腰を掛け、メイド長から渡された研修資料をベンチに広げます。

 以下、ドドラコス家における一般的なメイド業務だそうです。


 【社外秘】ドドラコス家専属メイド業務マニュアル一覧【研修用簡易版】

 〇午前 全体朝礼/発声練習/宮殿内清掃/昼食準備/来賓確認・案内/洗濯/警備確認/公務諸経費算出

  ――――――――――昼休憩――――――――――

 〇午後 全体昼礼/宮殿外・中庭清掃/夕食準備/保管庫確認/警備確認/鍛錬/皇家御曹司家庭教師

 〇夕方 全体夕礼/翌日来賓確認/全体清掃/警備確認/魔法便案内/諸外国通知/流通確認

  ――――――――――夕休憩――――――――――

 〇深夜 全体終礼/朝食準備/宮殿外警備/安全確認

  ――――――――――就寝―――――――――――


「どうしてメイドが公費の算出とか広い宮殿内の警備とかまでしなくちゃいけないんですかぁ……」


 とうとうエルフ犬は泣き言を言い始めました。

 まあ警備とかは俺ら向きって感じがするけど、公費の計算とかまったくチンプンカンプンだよな……。

 エアリーなんて分からなすぎて頭から湯気が出てたし……。


「午後はまた集まって昼礼やって、外の掃除と夕食の準備と、保管庫、警備、鍛錬? 家庭教師って……あのクソ生意気な王子に勉強とか教えるってことか?」


「え~? 私達まだ今日からメイドを始めたばかりなんですから、こっちが家庭教師して欲しいくらいですよぅ。ぐすっ……」


 あ、泣き言だけじゃなく本当に泣き出しちゃった。

 どうしよう。俺も泣きそう。帰りたい。おうち帰りたい。ニートに戻りたい。


「カズトさん、エアリーさん! もうお昼休憩は終わってますよ! さっさと昼礼に参加しなさい!」


「は、はい~!」

「すぐ行きます!」


 メイド長の怒鳴り声が聞こえ、俺達は慌てて立ち上がりメイド室に戻ります。

 ああ、クソ! アルゼイン早く戻って来ないかな……!

 あいつにも同じ地獄を味あわせてやりたい……!

 というか、逃げ出したい! 今すぐ、おうちに帰りたい!


「……あ! カズトさん! メイド室はそっちじゃないですよぅ!」


 長い廊下を走る途中、俺はくるりと方向を変えエアリーに親指を突き出してその場を去って行きます。


「ず、ずるいですぅ! 自分一人だけ逃げ出すつもりですねぇ! メイド長さぁん! 脱獄者ですぅ! 捕まえて下さいぃ!」


「おい馬鹿! 俺を売る気か、エアリー!」


「辛いのは私も一緒なのに、自分だけ逃げようとするからですよぅ! あ、こっちですぅ! あそこに脱獄者がいますぅ!」


 エアリーの声を聞きつけ、メイド長以外にもわらわらと執事やらドワーフ警備兵やらが俺を追ってきました。

 ……あれ、何だろう。久しく忘れていた、この感覚。

 心の底から湧き上がる熱い感情。

 俺が求めていたものは、刺激――?


「捕まえろ! 研修初日、しかも午前の部だけで音を上げる軟弱者だ! 捕まえて十分に仕置きをせねばならぬ!」


 ええ、そうだとも! 俺は軟弱者だとも!

 でもね! 辛いときは辛いって言ってもいいの! 逃げてもいいの!

 それが俺の生き様だ! 文句があるなら受けて立ってやる……!!!



 ――その後。


 俺はあっけなく捕まり、数時間説教をされた挙句、エアリーとは別枠で特別研修を受けさせられる羽目になったのは言うまでもなく。




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