003 脱ニートが決まったけど夢の隠居生活はまだまだ程遠いみたいです。
「遠路遥々、ご苦労であった。それと……先ほどクルルが失礼な真似をしたそうだな。恥ずかしいところをお見せしてしまい申し訳なかった」
本殿に到着した俺達は族長のラドッカ・ドドラコスに招かれたのは良いんだけど……。
早々にさっきのガキンチョのことを族長から謝られ、さっきのメイドさんやその他何人かいる執事さんたちはあたふたして場内騒然って感じだし。
「ラドッカ様! このような旅の者に頭を下げられては、この国の威厳に関わります……!」
「よい。お前達はもう下がれ。我はこの者達と話がある」
「ですが……!」
俺ら四人はとりあえず騒ぎが収まるのをじっと待ちます。
あ、なんか宰相っぽい人が出てきた。そしてドワーフの警備兵みたいなのも登場してメイドさんと執事さんを強制的に本殿から連れ出してる。
なんでメイドを連れ出すだけで警備兵が出張ってくるんだろう……?
意味分からん。
「……お見苦しい所をお見せした。お主たちの件は議会でも最高機密となったことが閣議決定したのでな」
「ええ、存じておりますわ、ラドッカ族長。議会を中心とした主要六カ国協議でも全会一致で、我ら魔王軍の最高指導者、魔王カズハ・アックスプラント様及び元エルフィンランド王政の最高指導者、エリアル・ユーフェリウス女王や同じく元エルフィンランド民政の最高指導者、妖竜兵団初代隊長アルゼイン・ナイトハルト様のあらゆる情報は操作され、隠蔽されることが決定いたしましたもの」
俺達三人の前に一歩出たレイさんは片膝を地面に付けて族長と会話をします。
……なんか『最高指導者』とか言われるとケツの穴までむず痒くなってくるんですが。
「……先の第二次精魔戦争では多くの犠牲者を出した。そして未だに新生物因子の副作用で苦しんでいる者は世界中で数え切れぬほどいる。ガゼット博士の試算では恐らく世界人口の三十分の一ほどになるのではと言っておったほどだ。戦後一月が経過したが、重篤な症状が現れた者ほど治療が困難で時間も掛かる。世界は今後一丸となり、あの悪魔が残した病魔の治療に全力を注がねばならぬ」
険しい顔でそう言った族長は長い髭を撫で、深く溜息を吐きました。
あのクソジェイドがまき散らした新生物因子は思った以上に世界中に蔓延してた話はユウリからも聞いています。
だからまだ完全に平和な世の中ってわけじゃないんだよね。
新生物化してめっちゃ狂暴になったモンスターとかも世界各国にウジャウジャいるみたいだし……。
「……ああ、我としたことがすまぬな。今日お前達を呼んだのは、このような話をするためではない。実は先ほど、お前達に失礼があった我が孫、クルルの件で呼んだのだ」
「クルル? ……あー、『お爺様』ってそういうことか」
ぽんっと手を叩いて俺は納得します。
あの生意気そうなガキはこの国の次期族長――つまり王子様ってわけだ。
……うん? そのガキの件で俺達を呼んだってことは……。
…………。
めっちゃ嫌な予感しかしません。
「はい。ラドッカ様の御孫様――クルル・ドドラコス様の護衛兼専属メイドとしてこの宮殿に住まうこと。それと近く行われる公国の来賓との次世代に向けた交流会を成功させること、でしたわよね?」
「専属メイド!?」
ついビックリして大声を出してしまいます。
……いや、違う。これは仕組まれた罠だ。
その証拠に俺の横にいるレイさんの顔がにやけている。
「なるほどねぇ。『生活費の心配はしなくても大丈夫』って言ってたのは、こういうことかい」
「あ~、なるほどですぅ。私達もいつまでも旅行者としてこの国に匿ってもらうわけにはいきませんし、メイドさんとして職を与えてもらって、クルル君を護衛すれば一石二鳥ですしぃ」
「そういうことですわ。私達は当分の間、この二つのミッションを成功させるために身分を隠してこの宮殿に住まわせて頂きます。無論その間、私達はお互いの名前を先ほどのとおり偽名で呼び合います。私は護衛騎士としてドワーフ族の国家守護騎士団に仮配属されますが、お三人はメイドとしてクルル様の直接の護衛とお世話係になって頂きます。私達の身元はラドッカ様と宰相しか知らないトップシークレットですから、そこはくれぐれもご注意くださいね」
そこまで説明したレイさんは俺達三人に魔法で作られたカードのようなものを配った。
あー、新しい身分証明書みたいなものだね。
俺の顔写真と名前の欄には『カズト』って書いてるし、さすがレイさん準備が早いねー…………じゃなくて!!
「王子を直接護衛するくらいだから、あの警備兵に連れ出されたメイドや執事達も相当な手練れってわけだ。奴らからしたらこんな得体の知れないあたいら外国人に国の最高指導者が頭を下げたら、そりゃ慌てるし腹も立つさね」
「うーん、なんか自信ないですぅ……。メイド長さんとかに虐められたりしないですかねぇ」
「そんなことはどうでも良いの!! はい! 俺発言してもいいですか!!」
ピシッと肘を伸ばし手を上げます。
なんか勝手に話が進んでいるけど、俺の意見を聞いて下さい!
ていうか魔王がメイドとか意味分からないんですけど!
「どうぞ、カズトさん」
「どうして俺がガキンチョの専属メイドとかやらないといけないんですか先生!」
「これです」
俺の発言を予測していたのか、レイさんはコンマ二秒で一枚の紙を俺の前に提示します。
そこには、以下のように書いてありました。
【誓約書】
カズハ・アックスプラントは今後一切、
1.騒がず
2.暴れず
3.迷惑を掛けず
を誓うことを宣言します。
尚この誓約を破った場合は、一生メイドして働くことに同意します。
「…………うん」
「本来であればカズトさん御一人でも良かったのですが、再び違反する可能性が100%に近いというユウリ様の判断でアルさんとエアリーさんにも同行をお願いすることに決定いたしましたわ。何か異存は御座いますでしょうか?」
「…………いえ、ありません」
そのまま顔を伏せ、一歩後ろに下がります。
――そう。全ては計画通り。
俺は抗うことも出来ず、嫌いなガキンチョ相手にメイドをやらないといけないという地獄。
嗚呼、無情。諸行無常。
俺の『家庭菜園をしながら平和に暮らす』という夢の隠居生活は、いったい何処に――?
というわけでして。
一ヶ月のニート生活が終わり、俺は明日から宮殿でメイドとして働くことになりました。




