001 ニート生活も一ヶ月が過ぎると段々飽きてきちゃいます。
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『 ドベルラクトス国、首都ルシュタールより北におよそ3000UL。
世界三大山脈のうちの一つ、ラクトス山脈が広がる広大な土地に暮らす民族がいる。
彼らはドワーフ族の中でも特に知能が高く、魔法遺伝子研究において連邦国にも引けを取らないことでも有名である。
しかし先の第二次精魔戦争の影響で、魔法遺伝子の研究はガゼット・オルダイン博士を中心とした医療分野の発展のみに許可されることが議会により全会一致で可決され、研究施設は一時閉鎖されることとなった。
議会での採決にはドベルラクトス国の族長であるラドッカ・ドドラコスも出席し、世界再建のためには主要六カ国の協調と努力が必要であると発言し、世界中の識者を驚かせたことは記憶に新しい。
主要六カ国のうち、共和国、連邦国、公国の首長選挙まであと僅か。
すでに新たな代表を決めたエルフィンランド国に続き、帝国とドベルラクトス国はその発言力を以てマクダイン議長と共に新たな世界の創生に躍起だ。
宗教問題、奴隷制度問題、戦後賠償や新生物化による副作用救済措置など解決しなければならない課題は山積みだが、世界は確実に平和への再建に向かいつつある。
近々、閉鎖された最北部の研究施設へ議会より立ち入り検査が開始されるとの噂だが、本当の目的は長年対立を続けてきたドベルラクトス国と公国との国交正常化に向けた話し合いが持たれるとの見方が一般的だ。
第一次精魔戦争が終結し五百年後に誕生したと言われる人間族は、宗教の力を借り爆発的な成長を遂げた。
魔族が支配する土地を次々と奪還し、一時はユーフラテス公国が覇権を握っていた時代が存在する。
当時のドベルラクトスは国として存在しておらず、公国の植民地として支配されていたことは歴史上明らかであり、その後の和解により独立国として認められるもドワーフ民族は鎖国の道を選んだ。
時代は変われど、種族間の溝はそう簡単には埋まらない。
だが、今回の戦争終結を機にその溝を埋めようという動きが活発化している。
ドベルラクトス国と公国。
この二つの国が手を取り合えば、世界平和への道はさらに加速度を増していくことだろう。』
――議会公報第十七号より。
「――だってさ。なんかもう毎回こんな感じの公報が送られてくるのは良いんだけどさぁ、どうして俺が読まなきゃいけないの? こういうのユウリの仕事なんじゃないの?」
俺は公報を放り投げ、ソファに身を沈めます。
……あ、どうも。お久しぶりです。カズハって言います。みんな、覚えてるかな?
そうなんです。戦争が終結してそろそろ一ヶ月くらいが経つのかな……。
俺の魔力もまーーったく戻る気配が無いし、しかもこんな最北の田舎の、極寒の地に軟禁状態だし……。
「……あんたねぇ、自分の立場ってものが未だに分かっていないのかい?」
俺の向かいの席で俺が今さっき投げ飛ばした公報を拾い上げた色黒の姉ちゃん――もといアルゼイン・ナイトハルトは熱々の徳利を傾けて優雅に酒を飲んでいます。
……まだ、お昼にすらなっていないんですけど。大丈夫ですか、この酒乱。
「カズハ様は世界を平和に導いた魔王なのですから、こういう世界情勢にはきちんと耳を傾けておかないと駄目なのですよぅ」
俺の横の席でクッションを抱っこしつつゴロゴロしているエルフ犬――もといエアリー・ウッドロックは寝癖も直さずにパジャマ姿のままだらしなく過ごす毎日です。
……お前も女王という肩書を忘れていないか。大丈夫ですか、この駄犬。
「だーかーら、『世界を平和に導いた魔王』とか言われても、導きたくて導いたわけでもないし、そもそも魔王になりたくて魔王になったわけでもないし、ていうか魔王が世界平和を語るとか意味不明だし、俺もう隠居するって宣言したし」
そうなんです。全ては成り行きでそうなってるだけなんです。
戦争が終結した直後、俺は世界征服を宣言せず(だって興味ないし)、捕えていた赤髪のふたなり姉ちゃんをマクダイン議長に返しました。
終戦宣言はガロン帝王とユウリにしてもらったし、その後は一切民衆の前に姿を見せずにこうやって隠れて生活をしています。
まあ世間ではジェイドとの戦いで死んだとか噂されてるみたいだけど……。
「『隠居』――。良い響きですねぇ。何だかんだで私達もカズハ様と似たような状況ですし、あまりカズハ様を責めてもブーメランになっちゃいそうですぅ」
「まあ、それはあるねぇ。レベッカ姉さんのおかげであたいもこうやって隠居生活を送れるようになったし、酒を買う金さえ稼げればそれで満足だからねぇ」
色黒姉ちゃんとエルフ犬は恍惚の笑みを浮かべて宙に視線を這わせています。
あー、こいつらすぐにボケそう……。
ていうかここ一ヶ月くらい毎日こんな感じだから、すでにヤバいかもしれん……。
「よーし、ニートども! 毎日毎日、こんな堕落した生活を送ってたら人間が駄目になっちゃうぞ! ちょっと俺と一緒にそこいらの残党新生物を狩りに行こうぜ!」
「駄目です」
「駄目だろ」
「なんで!」
速攻で否定。もう毎日、同じことの繰り返し。
そうなんです。俺は終戦後、以下の三つを守るように誓約書を書かされたんです。
【誓約書】
カズハ・アックスプラントは今後一切、
1.騒がず
2.暴れず
3.迷惑を掛けず
を誓うことを宣言します。
尚この誓約を破った場合は、一生メイドして働くことに同意します。
「あんた、自分でそう宣言したんだろう? なのにどうだい? もうすでに百回は誓約を破っているじゃないか」
「うっ……。それは……」
アルゼインに誓約書を突き付けられ、俺は黙るしかありません。
言わなきゃよかった、こんなこと……。
でもこうでもしなきゃ、また世間様に迷惑を掛けてしまうんじゃないかと、自分のことが全く信じられなくて……。
いや、そうじゃない! マイナスに考えるんじゃない!
有言実行することが格好良いんじゃないか!
確かに百回くらい破ってるけど、そういうことを気にしたら負けなんじゃないかな!
「とりあえず明日はラドッカ族長が議会より帰国されますから、それから今後のことを話し合いましょう。こうやってただ匿っていただくだけでは申し訳ないですし」
「だね。働かざる者食うべからず、だ。あたいら三人の身元は隠されたままだし、こんなド田舎であたいらの顔を知っている者もほとんどいないだろうさ。雑用でもなんでもやって、酒代を稼がないとねぇ」
「お前は少しは酒から離れろよ……。ていうか、レイさん遅くね? 結構吹雪いてきたし、薪を集めるだけで時間が掛かりすぎじゃ――」
ここまで言って、俺はふと考えます。
朝早くから薪集めに出掛けたレイさん。
俺達三人はこの小さな小屋で留守番で、そろそろお昼になる時間です。
これだけ寒いと薪で火を焚かないと死んじゃうし、お腹も空いてきたから何か食べたいし。
レイさんのことだから万が一っていうことは無いんだけど、それにしても遅い。
今までのケースから考えると、彼女は絶対に何か良からぬことを考えているに違いない――。
「……帰りが遅いと心配する俺。仲間想いの俺が次に起こす行動は、レイさんを捜しに行くこと。でもここでエアリーとアルゼインに引き留められ、代わりに二人がレイさんを捜しに小屋を出る。つまり、この小屋に俺は一人になる――――はっ!」
俺の第六感が働き、小屋の外窓に人影が写り込んでいることに気付きました。
しかしその影はまるで忍者のようにすっと消え、そこにはまったく痕跡を残しません。
…………。
……………………。
「どうしましたかぁ?」
「エアリー! アルゼイン! 絶対に、絶対に、俺を小屋に一人にしたら駄目だ!」
「はぁ?」
これは頭脳戦だ。消耗戦と言い換えても良い。
敵は必ず俺が一人になる瞬間を狙う。
今の俺には敵の猛攻を防ぐ手段が無い。
つまり一人になったら、その瞬間に負けが決まる。
そして世にも恐ろしいディナーショーが開幕する――。
つまり、捕食――。
「震えていますねぇ、カズハ様ぁ。もっと薪を入れましょうか?」
「酒を飲め、酒を。温まるぞ」
何も気付かない二人を尻目に、俺は全身全霊を込めて周囲を警戒する。
そしてユウリを心底恨む。
「なにが護衛の騎士だよ!! 完全に人選間違えてるじゃねぇか!! 馬鹿ーーーー!!!」
――俺の叫びは吹雪の中に消えていきました。
「へくしっ! ……うーん。なかなか一人になりませんわね、カズハ様……。どうしたらあのお二人の目を盗んで、カズハ様と二人きりになってあんなことやこんなことが出来るのでしょうか……。もうこうなったら、街で騒ぎを起こして――いや、それは駄目ですわ。さすがの私も面倒を見ていただいている国に恩を仇で返す真似などできませんもの。ならばいっそのこと、全裸にバラの花束を着飾って正面突破して――いや、それも危険ですわ。だって私の綺麗な柔肌にバラの棘が刺さってしまいますもの。そしてその傷口から赤い、真紅の血が流れ出して――それをカズハ様に舐めとって頂きますの。……嗚呼、カズハ様の舌が私の全身をまるで生き物のように這い回って私は唇を噛み締めながらそれでもカズハ様の頭を強く抑えて――!!」
「やかましいわ!!! 早く薪持ってきて!!!」




