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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第六部 カズハ・アックスプラントと古の亡霊(後編)
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055 三周目の異世界で思い付いたのはとりあえずぶっ飛ばすことでした。

「まずは奴の動きを止めるぞ! エアリー! リリィ!」


「は、はいぃ……! かしこまりですぅ!」

「分かったわ!」


 デボルグの合図でリリィとルーメリアが同時に魔法を詠唱し始めました。

 俺は痛む腹を抑えながらルルとタオ、ミミリと共に戦況を見守っている。


「光の龍よ……! 俺の拳に邪を滅する力を与えよ! 《光龍波》!!」


 デボルグの『爪』が光り輝き、光と気を宿した竜が出現。

 それが奴の周囲をぐるりと周回した後、ジェイドに向かって牙を剥き出し照射される。


「自然の敵は私の敵! 環境破壊は許しません! 《ウッディ・エッジトラスト》!!」

「あまねく無数の星空よ! 我が問いかけに答えなさい! 《スターライト・リストレイン》!!」


 同じく魔法詠唱が終了した二人から木魔法と水属性、気属性の同時魔法が照射。

 瞬く間にジェイドの巨体を覆い尽くし、奴の足を止めたかに見えた。

 が、しかし――。


『ゴミ共がぁぁ……!! 能力が戻った程度で調子に乗りおって……!!』


 額を抑えて苦しそうに喘ぐジェイドは、全身の拘束を軽々と解いてしまう。

 もはや今の奴にはどんな魔法もスキルも通じない。

 ユウリの持つ妖精剣フェアリュストスでなければ、俺から吸収した魔力に対抗できる術などないのだ。


「調子に乗ってるのはお前だ、ジェイド」


『!!』


 上空から声が聞こえ、そちらを振り向くジェイド。

 しかしもうそこには声の主はおらず、今度は奴の足元に異界の扉が開く。


「《次元刀》」


 異界の扉が開き、そこからゲイルが現れた。

 奴は『刀』を抜いて魔法の拘束が解けたばかりの足元にそれを喰らわせる。

 斬りつけられた巨大な足に大きな亀裂が走る。


「お前自身は斬れなくとも、この『刀』ならば時空が斬れる。その次元の・・・・・楔ならば・・・・、お前でも簡単に身動きはとれないだろう?」


『ちぃぃ……! 小癪な真似を……!!』


 巨体を揺さぶるジェイドだが、今度はそう簡単に拘束は解けない。

 そしてそのチャンスを、ユウリが逃すはずも無かった。


「ゲイル、ありがとう。感謝するよ」


「けっ、お前のためにやったわけじゃねぇ」


 いつの間にかゲイルの背後に隠れていたユウリは、奴の背を蹴り跳躍する。

 美しく宙を舞ったユウリの手にはしっかりと妖精剣が握られていた。


「この一撃に、僕の全てを賭ける……!」


『ゴミめゴミめゴミめゴミめぇぇぇ……!!! 貴様らはただ黙って神に従っていれば良いものの……!!』


 ジェイドは巨体を振るい、その両腕を強引に振り上げた。

 あれを喰らえばユウリの存在そのものが消滅してしまうかと思うほどの、驚異的な一撃。

 しかしそれを間一髪で潜り抜け、ついにユウリはその剣閃をジェイドの首に突き刺すことに成功する。


『ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


「やったか!?」


 苦しむジェイドは咆哮を上げ、奴の周囲には濃い紫の煙のようなものが舞い上がる。

 俺の仲間全員が固唾を呑んでそれを見守っている。


『ぐ…………あ…………。あ…………。ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


「ちょっと! どうして奴の膨張が止まらないのよ!」


 堪らず叫ぶルーメリア。

 確かに妖精剣は奴に破理の効果を与えたはずだ。

 現にジェイドからは大量の魔力が霧散している。

 このまま奴は自滅し、それでこの戦争は終結する――はずだった・・・・・


『………………ふは。ふはは。ふははは。ははははは、ふはははははは……! あはははははは!!!』


 不気味な声で笑うジェイド。

 全身が瓦解し崩壊し、すぐ先に死が見える男の笑いではない。


『破理……! ハリはり破理ハリはり破理ぃぃぃぃ!! あはは! あはははは!! 貴様らは・・・・自ら死を・・・・選んだのだ・・・・・…………!!』


「自ら死を……選んだ?」


 膨張を続けるジェイドは、最期に俺に視線を向けた。

 その目を見て、俺の全身は震えあがる。

 ――死を、覚悟した目。

 いや、違う。

 全ての生命を・・・・・・道連れにすると・・・・・・・確信した目・・・・・――。


そういう・・・・ことか・・・……。ジェイドはわざと、妖精剣を……『破理』をその身に受けるつもりで……」


 俺の能力を全て吸収し、無の媒体ゼロ・メディウムをも体内に取り込んでしまった時点で、奴はすでに自身に掛けられた不死魔法エデンが消滅したことを察したのだ。

 ならば残る道は、全ての生命――全世界に・・・・存在する・・・・全ての種族もろとも・・・・・・・・・この世界を・・・・・消滅させること・・・・・・・――。

 『破理』の効果はジェイドの魔力を無効化するものではなかった。

 それどころか、奴の体内に圧縮された魔力の器を崩壊させ、それを爆発させるスイッチとなってしまったのだ。


「嘘……。私達は最後のチャンスを……棒に振ったというの?」


 落胆し、その場に膝を突いてしまったリリィ。


「……いや、棒に振ったどころか、世界を破滅させる結果を自ら招いてしまったのかもしれない」


「ユウリ……」


 大きく肩を落とすユウリ。

 しかし誰も彼を責める者はいない。

 最後の最後で、ジェイドの自ら命を賭けた策略に嵌ってしまったのは、全て俺のせいだ。

 

 ――俺はまた、誰も守れないのか。

 あの時のように、苦しみ続けないといけない定めなのか。


「――いや、違う」


「カズハ……?」


 俺は幼女の肩から腕を離し、立ち上がる。

 傷口はリリィのおかげでどうにか塞がった。

 目はまだ霞むけど、歩ける。

 大丈夫、これなら戦える。


「駄目よ……もう、どうにもならないのよ、カズハ……」


 リリィが涙を流して俺に向かって何かを言っている。

 でも、あまり聞こえない。

 もう時間がない。あと少しで、世界が終わってしまう――。


「ユウリ。まだ方法が残ってるんだろ? あと一つ、最後の方法が」


 俺の様子に気付いたのか。ユウリがゆっくりと後ろを振り向いた。

 情けない。お前ともあろう男が、リリィみたいに目に涙を浮かべるんじゃない。


「カズト……。しかし、もうこの状況じゃ四宝を復活させても――」


 俺はユウリの傍に寄り、奴の肩に手を置く。

 そして満面の笑みを浮かべて、こう言ってやった。


「ばーか。最後まで諦めんなよ。俺はもう、とっくに『答え』を出したんだからさ」


「『答え』……?」


 俺の言っている意味が理解できないのか。

 しかしユウリはすぐに俺の腕を取り、自身の肩に掛け立ち上がった。


「……そうだったね。君はもう、『答え』を出した。そして僕らはその『答え』に従うと決めたんだ」


 ユウリは涙を拭き、俺に笑顔を向けた。

 ――もう、迷いはない。

 仲間と共に、この命を賭けてでも、ジェイドの暴走を止める。


 それは『世界』のためじゃない。

 俺のため。仲間のため。

 それが、俺の全てだから――。


『ふむ、お主の答え、しかと受け止めたぞ』


「うわ! なに!? え?」


 急に背後から声が聞こえて驚いて飛び上がりました。

 ……誰? この皺くちゃな婆さん……?


「…………ワシじゃよ。もう忘れたのかの? この魔女メビウスのことを」


「メビウス! お前どこ行ってたんだよ! ……ていうか、幼女の姿じゃないから俺以外誰も分からないだろうが!」


「いや、お主もワシの本当の姿を忘れていたようじゃったが……まあいい」


 小さく溜息を吐いたメビウス婆さんは杖をジェイドに向け、先を続ける。


「もう時間はほとんど残されておらぬから、手短に言うぞ。あそこまで膨張した奴の魔力では、伝説の魔女とまで言われたワシでも抑えきれぬ。時間を戻そうにも暴走した魔力のせいで時間軸が歪み、それも無理じゃ」


「マジで! いや、今このタイミングで登場したから、また時間を巻き戻してくれるのかと期待してたのに! 駄目じゃん! 婆さん使えないじゃん!」


 うっ……。叫んだらまた腹の傷が裂けそうになりました……。


「いいから聞け。時間がないと言うとろうが、まったく……。残る方法はただ一つ。そこの小僧も言っておった『四宝』を使うしかない。この世界に於ける、唯一無二の至玉――。お主もこれまでの人生で、何度も世話になっておろう?」


 …………うん。

 いや、世話になったというか、そいつのせいで繰り返しの人生をエンドレスに――って、もうそんな文句を言ってる時間もない!


「分かった! で、どうすんの! どうすれば勝てるの!」


「すでに奴の魔力は暴発を始めておる。そして破理を受けたが故に、防御面はほぼ皆無と言えるじゃろう。簡単なことじゃ。先ほど小僧が言うておったとおり、全ての力を奴に解き放つのじゃ。そして、最後にその剣で復活させた四宝の力を使い、暴発した・・・・魔力ごと・・・・奴を封印すれば良い」


「暴発した魔力ごと、ジェイドを封印って……」


 どうしよう。この婆さん、何を言っているのかまったく理解できません……。


「ほれ、時間が無いのじゃろう? やるのか、やらぬのか」


「いやいや、やるけど! でもホント間に合わないんじゃ……?」


「時間を巻き戻すことは出来ぬが、多少引き延ばすことは今のワシでも可能じゃて。それでも恐らく三十秒。それでケリを付けるのじゃ」


「三十秒!? ちょ、わ、分かった! おい、ちょっと皆さん! 集まって! 俺と一緒に最後の悪あがきを――」


 焦りまくる俺は周囲を見回して仲間を集めようとしました。

 でも、そんなのは全く必要なかったわけでして――。


「聞こえてんだよ、この馬鹿! こっちはもうとっくに準備出来てるぜ!」


「ほら、お馬鹿さん! みんなで一気に奴を叩くんでしょう?」


「おいこら! 誰だ俺を何度も馬鹿呼ばわりする奴――うわっふ!?」


 急に目の前に大きくてカタイモノが登場し、俺の顔面にぶち当たりました。

 ……ってこれ、剛剣ドルグ?


「あいにく、今残っている剣はそれしか無いの! 貴女は今、奴に魔力を奪われている状態だけど……。それでもやっぱり最後は――」


 リリィの言葉に全員が俺を振り向き、そして首を縦に振ります。

 俺はそれに応えるようにニヤリと笑みを浮かべて、こう言います。


「当たり前だろ! 俺が倒さずに、誰が倒すって言うんだよ!!」


 剛剣を受け取った俺はそれを高々と掲げます。

 そして――。


 ――それが最後の総攻撃の合図となりました。


「まずは拙者から! 最大火力で行きますぞ! 速! 攻! 迅! 雷! 《サンダリオン・ランス》!!」


「続くわ! 神の怒りは自然の怒り、大地の怒り! 数多の嘆きと共に全てを一掃せん! 《ランドスパウド》!!」


 その身に雷を纏ったグラハムが跳躍し、渾身の力で竜槍をジェイド目掛けて振り下ろし。

 それと同時に火と風の同時魔法を発動したリリィ。


『ぐあああぁぁぁぁぁぁ!!!』


「効いてるわ! でも残りの時間が――」


「ふん、問題ない」


「そりゃそうさ。あたい達が全員でかかれば、倒せない敵なんていないからねぇ」


 間髪入れずに二人の魔剣士が跳躍する。

 暗黒に輝く剣は共鳴し合い、最強の技を発動した。


「「《亡者の共鳴ブラッディスクリーム》」」


「デボルグ! エアリー! ルーメリア! ゲイル! 四宝をここに!」


 ユウリの指示により四人が一か所に集合する。

 そして彼らの差し出した『爪』、『弓』、『扇』、『刀』に妖精剣が掲げられた。


「この世のあらゆる怨念よ……! 我が体内に全ての憎悪を注ぎ込め……! 《混沌と怨念の斬撃デスクリプション》!!」」


「生者に仇なす悪霊共よ! 今こそその咎を清算する時なり……! 《血と臓腑の咎人剣オフェンダーキラー》!!」」


『う……ぐ…………ぐあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


 セレンとアルゼインの最強技が見事に決まり、ジェイドの両腕が切り落とされた。

 そこから噴出するのは血の雨ではなく、赤黒く染まった魔力の渦。


「セシリアさん! 行けますか!」


「ええ、もちろん!」


 勇者の剣を構えたレイは、エニグマを携えたセシリアと共に後に続く。


「人類に与えられし聖なる力……! ここに全てを解き放たん! 《聖者の罪裁斬エンジェルスブレイズン》!!」


「公国の盾よ! 悪しき者の魂をこの世から消し去りなさい! 《護国の光の牢獄ディファニカル》!!」


 光の一閃はジェイドの腹部を斬り裂く。

 そして傷口から溢れ出す魔力の渦を凝縮させ、光の牢獄に閉じ込められるジェイド。


「あと十秒……!」


『ぐぐぐ…………ぐぐぐぐぐうぐぐ………………!!!』


 尚も膨張を続けるジェイド。

 ユウリ達はまだ四宝の復活に時間が掛かるようだ。

 俺はメビウスの婆さんを振り返ったけど、婆さんは首を横に振るだけ。

 つまり、残りの時間内に四宝の復活を待つ以外に方法がないということ――。


「カズハ!」


 俺が剛剣を構えると、同時に幼女が叫びました。

 タオも、ミミリも俺に期待の眼差しを向けています。


「おおよ! どデカいのをお見舞いしてやんぜ! ユウリ! 間に合うか!」


「ああ! 残りの時間は任せたよカズト!」


 その言葉を聞き、俺は残る力を振り絞り地面を蹴りました。


『…………魔王…………マオウ…………憎き…………カズハ・アックスプラントぉぉぉぉぉ…………!!!』


 光の牢獄の中で蠢き、恐ろしい表情で俺を睨みつけるジェイド。

 奴はもうエルフでも人間でもない。

 世界を憎み、壊し、己が欲望を満たすことだけしか考えない新生物モンスターだ。


「もうさ、いいだろ。後はあの世で精霊王とでも勝手に語り合ってくれよ」


 スキルも、魔法も発動しない。

 魔力を失った俺には、この身体一つしかない。

 それでも――。


「――お前みたいなクズをぶっ飛ばすのには、これで十分だ」


 一撃。

 散々アルゼインを苦しめた分。

 二撃。

 散々エアリーを苦しめた分。

 三撃。

 散々ルルを苦しめた分。

 四撃。

 タオを傷付けた分。


『ぐあああああぁぁぁ!! がああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


 五撃、六撃、七撃、八撃。

 仲間を苦しめた分。

 九撃、十撃、十一、十二、十三撃。

 エアリーを、帝王を苦しめた分。お母さんを苦しめた分。


「残り五秒ですぅ……!」


 十四、十五、十六………………。

 五十、五十一、五十二、五十三………………。

 帝国を、魔女メビウスを、ありとあらゆる生物を苦しめた分。


「おいカズハ! 四宝が復活したぞ!」


 ――そして百撃。


「俺がお前をぶっ飛ばしたかった分だ!!!」


『ぐああああああああああああああ

 あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』


 横一線に剣閃が飛び、俺の剛剣はジェイドの胴体を両断した。

 それと同時に後方に跳躍する。


「残り、一秒――」


 世界が終焉を迎える、直前――。

 ユウリの突き出した腕に握られた四宝がジェイドの胴体に触れる。


 無音。

 時間は停止し、周囲は光に照らされた。

 

 そして――。




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