049 メンタルがボロボロな俺はもう貝になりたいです。
「あ、あの馬鹿はこんな時にまた何を言っているアルか……!!」
「タオさん! 落ち着いて下さい……! ちゃんと隠れていないと危ないです……!」
「こうなったら私もドラゴンに変身して参戦を……!」
「る、ルルさんは出て行ったら駄目ですぅ……!!」
……うん。
なんか後ろのほうでガヤガヤ聞こえるけど、そこはミミリたんに任せておくとして。
「……は。ははは、くはははは! 今、なんと言ったか魔王よ……! この俺の『重剣』を奪うと聞こえたが?」
「うん。そう言った。だってお前らさぁ、ここんとこ、ずーっとズルしてるじゃん? いやズルっていうかチート? 魔導増幅装置やら不死魔法やら妖精剣やら無の禁断魔法やらさぁ。そういうのさぁ。物語的に俺だけで良いんだよね」
「…………」
口をあんぐりと開いたまま停止しちゃった変態隻眼男。
よし。今のうちに重剣を奪っちゃおう。
「……させるわけがなかろう!」
「あいた! お前、エニグマで殴るのは反則やろ! しかも角で!」
そーっと伸ばした腕を払い除け、あろうことか俺の頭にエニグマの端っこの尖ってる部分を突き刺した変態隻眼男。
俺じゃなかったら即死してるぞコノヤロウ!
「さっきから訳の分からんことをゴチャゴチャと……! 貴様とて世界を滅ぼせるほどの力を得ているではないか! それに数々の罪状……! この世に魔王として君臨している以上、貴様は世界の敵、世界ギルド連合の敵なのだ!」
「それを言ったら終わりだろ! 俺だってなりたくて魔王になったんじゃないもん! こう、なんていうか、場当たり的に行動してたらいつの間にかそうなっちゃったんだから、ある意味俺だって被害者だもん! なあ、ルル、タオ、ミミリ! お前らだってそう思うだろ!」
「…………」
「…………」
「…………」
…………ええ、はい。
同意が得られないことは聞くまでも無く分かっておりました……。
「貴様を倒し、精霊の娘を手に入れたら世界ギルド連合は生まれ変わるのだ……! ジェイド様による『完全統治』……! 全ての生命体は新生物遺伝子により、その名の通り新たな世界の生物として進化を果たす! 争いは無くなり、世界は平和となる! 不老不死の王の下、終わることなき繁栄が我らを待っているのだ……! 彼こそ救世主! 彼こそが神!!」
落ち込んで蹲り、のの字を書いている俺を無視し、変態隻眼男は恍惚の笑みを浮かべて何やら演説みたいなことをしています。
もうさ、この世界って面倒臭い奴しかいないんじゃないかと今更ながらに思うんですが……。
「落ち込んでいないで、今のうちにさっさとそいつの重剣を奪うアルよ!」
いても立っても居られなくなったご様子のタオさんは扉から身を乗り出して俺に喝を入れてきます。
でもさぁ、相手の武器を盗むとかさぁ。人としてそういうことはやったら駄目なんじゃないかな。
ほら。俺って元々勇者じゃん?
一応最初は世界の平和ってやつのために頑張って魔物倒して、コツコツとレベル上げとかしてたし……。
「カズハ! どうせまた変なことを考えているのでしょうけれど、今更何をしても貴女の悪名が人々に忘れ去られることはありませんから、いつものとおり、堂々と、相手が嫌がる戦法で戦うのです!!」
…………ええ、はい。
幼女の心無い一言で俺のメンタルはあっけなく崩れ去りました……。
「ああもうっ! どうせ俺は嫌われ者やもん! やってやるさ……! 極悪非道の魔王カズハ・アックスプラントを思い知るが良い……! わーっはっはっは!!」
半泣き状態で笑い声を上げた俺はウインドウを出現させます。
もう怒った。よし、もう怒った。よーし、もう許さない。みんな嫌い。大嫌い。
※以下、ウインドウ操作によるスキル・魔法の連打です(半ギレ)
【フリースキル】→『フリート・ブラスト』、『フリート・ブラスト』
【陰魔法】→『迅速』→『大迅速』、『大迅速』、『大迅速』
【陰魔法】→『神速』→『大神速』、『大神速』、『大神速』、『大神速』
敏捷力強化(微)、敏捷力強化(微)、敏捷力強化(小)、敏捷力強化(大)、敏捷力強化(大)、敏捷力強化(大)、敏捷力強化(中)、敏捷力強化(極大)、敏捷力強化(極大)、敏捷力強化(極大)、敏捷力強化(極大)。
「ついでに隠れる! 《大隠密》!」
陰魔法の『隠密』の隠し上位魔法を詠唱。
通常だと六十秒しか姿を消せないけど、『大隠密』は六百秒。
これで『速くて』『見えない』カズハちゃんの出来上がりです!
「何故、抗う……? それほどまでに世界に混沌をまき散らしたいか……!」
『うるさいな! もうお前黙れよ!』
「そこか!」
「いでっ!!」
……つい返事をしてしまい、今度はすねを思いっ切り蹴り飛ばされました。
駄目だ。集中しなきゃ。相手のペースに嵌ったらアカン。
俺は魔王。世界の平和なんて知ったこっちゃない極悪非道の魔王。
人から嫌われたって気にしない。お友達なんていなくたって凹まない。
「ちぃっ……! 『重剣』の効果も貴様にはあまり意味がないか……! しかし……《凝視》!!」
「あ! てめぇ陽属性が得意属性かよ! ズルじゃん! 俺との相性ズルじゃん!」
隠密効果を破られた俺は、蹴り飛ばされたすねを擦っている姿をめっちゃ見られて恥ずかしいし……。
ああもう! ホントやりづらい!
「《大鎖錠》!」
「《解錠》!」
「だああぁ! だから! 《大奈落》!!」
「ふはははは! 無駄だ! 《浮遊》!!」
俺の陰魔法がことごとく防がれ、もうなんかやる気なくなってきたかも……。
火魔法で丸焦げにしてもすぐに回復しやがるし、スキル連打してもあの重剣と絶盾で硬いし……。
「タオ! 盗めないんだけど! 『盗む』ってどうやってやるの!」
「そんなことも知らずに重剣を盗もうとしていたアルか!! お前は本当に馬鹿アルな!!」
…………ええ、うん、もう私は貝になりたい。
何も見たくない。何も聞きたくない。誰とも話したくない…………。
「くはははは! 勝負あったな! 魔王とて、所詮は女……! 黒剣を抜かせてジェイド様の御目に映さなくとも、俺の力で魔王をねじ伏せてや――」
「あれ? お前今、なんつった?」
「――あ?」
「…………」
「…………」
俺達の間に微妙な空気が流れます。
『黒剣を抜かせて』? 『ジェイドの目に映す』……?
「…………」
「…………」
……うん。変態隻眼男がめっちゃ目を逸らしてます。
なんか額に冷や汗みたいなのが見える気が……。
「……黒剣を、抜いて?」
「…………」
「……ジェイドの目に映すと?」
「…………」
――沈黙。
あれだけ喋ってたのに、変態隻眼男は口を真一文字に結んで挙動不審に辺りを見回しています。
だから、俺はあえて大きい声で続きをこう言ってやりました。
「無の禁術の発動条件が揃って俺の魔力を奪えるってことかあああぁぁぁぁ!!!」
「ジェイド様申し訳ございませぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
――次回へ続く。




