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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第六部 カズハ・アックスプラントと古の亡霊(後編)
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048 久しぶりに俺の手に勇者の剣が戻ってきました。

「うーん……。じゃあ、まず手始めに――《ファイアーボール》」


 無詠唱でウインドウ操作により下級火魔法を選択します。

 直後、俺の目の前に巨大な炎の塊が出現し変態隻眼男に向かってすっ飛んでいきます。


「そんなもの、この俺様には効かぬ!! 『エニグマ』よ、この俺に絶対防御の力を――!!」


 絶盾を掲げた変態隻眼男の全身を薄紫色のオーラが包み込みます。

 そして盾に刻まれた古代文字がパズルのように交差し、直撃した炎の塊を分散させました。


「お、すげぇ。やっぱ絶壁――コホン、セシリアに返してやらないとなぁ、その盾は。じゃあ次行くね。《ファイアーバースト》」


 再びウインドウを操作。次はファイアーボールの上位版の火魔法です。

 俺の目の前にさっきの数倍はあろうかという巨大な炎の塊が出現。

 ……うん。炎の風圧で綺麗にまとめた俺の髪がボッサボサになってるし……。


「ぐっ……! 何という大きさ……! しかぁし! それすらも俺は凌駕するっ!! 『エニグマ』よ! 我が底知れぬ魔力を抽出するが良い……!!」


 変態隻眼男を覆っていた薄紫色のオーラが赤黒く変色していきます。

 うわぁ、何か変な汚い魔力がエニグマに刻まれた文字に吸い込まれていくし……。

 やめてよー。それ後で回収するんだからー。


 先ほどと同じく、奴の盾に直撃した炎は分散しちゃいました。

 ふむふむ……。今の俺の魔力で放たれた上級魔法のファイアーバーストでも防いじゃうとなると、そら勝てないね。俺の仲間達だと。

 簡単に説明すると、通常の火の禁術と今のファイアーバーストが同じくらいの威力だからね。

 つまり精霊王を倒したときの最強魔法が、変態隻眼男に防がれちゃうという現実。

 ……うん。すごく嫌だ……。


「……ふ、ふはは! くはははははは! どうだ! 見たか魔王カズハ・アックスプラントよ……!! これが今の俺の力――ジェイド様より与えられし、世界の覇王たる力!! こんな茶番は終わりにして、その黒剣をさっさと抜くが――」


「《ファイアグランジェスト》」


「…………へ?」


 再びウインドウ操作。具体的な操作は以下参照。


 ※『火魔法』→『ファイアーボール』(長押し)→『ファイアーバースト』(長押しスライド選択)』→『ファイアグランジェスト』


 うん。まあ、隠し上位魔法のファイアーバーストから、さらに上の最上位魔法を選択したわけです。

 なんかね、ついこの前たまたま見つけたんだよね。

 たぶん俺の魔力による影響とかなんだろうけど。


「ちょ、ちょっと待て……! それは……一体……!?」


 明らかに狼狽している変態隻眼男。

 でも仕方ないよね。

 俺の目の前に出現したのは――もはや『太陽』と言っても良いくらいデカい炎の塊だったんだから。


「発射」


「!!――――」


 音が消える。

 まるでスローモーションのようにゆっくりと変態隻眼男に向かって行く太陽。

 奴が何かを叫んでいるけど何も聞こえない。

 俺はゆっくりと後ろを振り返り、爆風に巻き込まれないようにちょこっとだけ離れます。

 前髪焦げると嫌だからね。


 直後、爆風――。





「う……ぐ……があぁぁぁ!!」


 瓦礫の下から這い上がってきたのは変態隻眼男でした。

 全身ボロボロで今にも死にそうな風貌ですね。


「お、すげぇ。生きてた。さすがは変態隻眼男」


 奴の手にはエニグマがしっかりと握られています。

 それに被せるように重剣も構えています。

 あー、そういうことか。

 『絶盾』と『重剣』のダブル防御に、ついでに奴らお得意の無魔法でシールドを張ったって感じか。

 なんつったっけ……? ラジアンなんちゃら、みたいな?

 上手く炎を分散させて直撃だけは防いだって感じかな。


「あー、思い出した。お前、闇の神獣の魔法遺伝子を注入されてたよな。あんときの防護結界も硬かったし……結構面倒臭そうな予感」


「く、そが……! それを知っておきながら、何故すぐに追撃して来ない……? 我が再生能力はジェイド様の御力と魔導増幅装置アヴェンジャーにより、もはや無限の領域まで到達している……! すぐに回復し貴様の首はおろか、貴様が最も大切にしている仲間の命や貞操すら奪い尽くすぞ……!!」


 奴の身体が再び赤黒く光り、全身の火傷が治癒されていきます。

 でも俺はそれを観察するだけ。

 いつもなら仲間のことを言われると激高する俺ですが、そう何度も敵の術中には嵌りません。

 ……これまで数えきれないくらい嵌められたけどね。


「…………一個、質問してもいい?」


「あ? 何を今更――」


「ジェイド、どっかで隠れて見てるだろ」


「!!」


 ――ビンゴ。

 最初から感じてた違和感の正体はこれですね。

 鹿蜘蛛男の時は俺らが奴らを先に発見したから奇襲が成功したけど、今回は違う。

 俺が奴を倒した直後に、この変態隻眼男が現れたのはジェイドの作戦――。

 無限回復と硬さ抜群のこいつを俺と戦わせて、俺を兆発して激高させて、黒剣を抜かせる。

 ――その目的は?

 ジェイドの無の禁術には『発動条件』がある。

 それは、相手に触れなければ奪えないという点。

 でも俺の考えでは、きっともう一つ・・・・条件がある・・・・・――。


「……まあ、答えなくてもいいや。もう回復した? じゃあ第二ラウンド行こうか。魔法戦の次は、当然スキル戦だよね」


「ちっ……! 舐めやがってぇぇぇぇぇ!!」


 飛び上がった変態隻眼男はエニグマと重剣を腰に掛け、背にある二本の魔剣を抜き構えました。


『――《亡者の共鳴ブラッディスクリーム》――!』


「うわきた!」


 真紅に目を染めた変態隻眼男はセレンとアルゼインの魔剣による最強の協力技を繰り出します。

 深紫色の霧に奴自身の赤黒いオーラが加わり、そこに魔導増幅装置アヴェンジャーで数十倍に強化された魔力が加わり――。

 ……うん。もう馬鹿だよね、魔力のインフレ。


『《混沌と怨念の斬撃デスクリプション》×《血と臓腑の咎人剣オフェンダーキラー》!!!』


 セレンとアルゼインの奥義を同時に発動。

 交差する斬撃は正確に俺の首を狙い――。


「これでも抜かぬか!」


「抜かない。だってそこに一本あるじゃん。良い剣が」


「なっ――」


 瞬時に俺は右腕を伸ばし、奴が腰に差したままの勇者の剣を引っこ抜きました。

 それをそのまま振り上げ、二刀の魔剣を奥義ごと弾き返します。


「いいねぇ。やっぱ聖者の罪裁剣エンジェルスブレイマーは手に馴染むわ」


 あれだけの猛攻を弾き返しても、まったく刃こぼれすらしない最強の勇者の剣。

 最近『四宝』とか『黒剣』とかで存在が霞んじゃってるけど、俺はお前のことが一番好きだよ。


「小賢しい真似を……! 《ライトニングスピア》! 《ダークサーヴァント》!!」


 背後に飛び退いた変態隻眼男は続けざまにアルゼインとセレンが得意とした各々の魔法を連発してきます。

 俺の頭上に光と闇を纏ったの刃が集約し降り注いできます。


「『スキル戦だ』っつってるのに魔法使うんじゃねぇよ」


 それを勇者の剣で全て弾き返し、地面を蹴ります。


「貴様のルールに従って戦うとは言っておらぬ……! このデタラメ魔王が……!!」


 二刀の魔剣を背中に仕舞った変態隻眼男は再びエニグマを取り出し、俺の剣の突きを弾きます。

 そして一回転した後、重剣を俺の腹に向かって振り抜きました。

 それを勇者の剣で弾き返し――の応酬の連続です。


「やっぱ俺も二刀流じゃないと調子出ないなぁ。……ミミリ!」


「は、はい! これですね……!」


 俺の意図がすぐに伝わったのか、扉の奥に隠れていたミミリが炎剣を俺に向かって投げ渡してくれた。

 空中で身体を翻した俺はそれを左手に逆手で受け取る。

 聖者の罪裁剣エンジェルスブレイマーと炎剣ドグマの二刀流。

 まあ、これはこれでアリな組み合わせですね。


「そのような三流の剣で我が攻撃に耐えられると思っているのか……! 舐めくさりやがってぇぇぇ!!」


「三流? ゼギウスの爺さんが作った剣は超一級品以外ねぇっつうの」


 軽くそう答えた俺は二刀流スキルを発動。


「《炎十字》」


 二刀を身体の前で十字に構え、自身の火属性を大幅に強化。

 これで炎剣自体がかなり強くなりました。

 ついでに勇者の剣に炎属性も付与されたし。


「火属性……? 俺も舐められたものだな……! 同じ攻撃をそう易々と何度も――」


「《ブルファイトアタック》!!」


 二刀を構え身体の後ろに大きく逸らした後に突進。

 それと同時に俺の全身が炎に包まれ炎の斬撃を奴に繰り出す。

 慌ててエニグマで防御するも、奴の全身も炎に包まれていく。


「《ツインブレイド》! 《ダブルインサート》! 《エクセル・スラッシュ》!!」


「ぐっ……!」


 隙の無い連続攻撃を盾で防ぐしかない変態隻眼男。

 うーん、硬い。そろそろ手が疲れてきた。

 最後の一撃を喰らわせ、後方に飛び退く。


「やっぱキリがないなぁ。その盾と重剣、邪魔だよね」


 一旦腕を組み、考え込みます。

 でもすぐに閃きました。

 ――やられたことは、やりかえす。

 ジェイド達が俺の仲間に・・・・・したことと・・・・・同じこと・・・・を仕返しすればええやん。


 俺は後ろを振り向き、扉の隙間からこちらを見ているタオに目で合図を送りました。

 最初は首を捻っていたタオだったけど、俺の意図が伝わったのか、必死で両手を大袈裟に振って拒否の意志を示します。

 使えん奴め。お前は元盗賊やろ!

 本番前・・・にちょっとくらい練習しなさい!

 ……でも練習したら完全に俺らの作戦が敵にバレちゃうんだけど。


「はぁ……。まあいいや。じゃあ第三ラウンド開始ね」


「? 一体何を言って――」


 俺が何を企んでいるのか気付かない変態隻眼男は警戒心を露わにします。

 だから俺は胸を張って、こう言ってやったんだよ。



「――お前の『重剣』、邪魔だから貰っちゃうもん!!」


 

 そう叫んだ瞬間、辺りは静寂に包まれたのは言うまでも無く――。




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