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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第六部 カズハ・アックスプラントと古の亡霊(後編)
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047 親の七光りのリンカーンさんは相変わらずキモイです。

「ひ、ひいぃぃぃ! グラッチ兵士長が魔王にやられたぞ……!」

「ぐっ……! ここは一旦引くしかあるまい……! 総員、このエリアから退避だ!」


 敵の副将らしき新生物キメラ兵士がそう叫ぶと、一斉に化物共は後ろを振り向き逃げ帰ろうとします。

 まあ逃げるんだったらそれでも構わないんだけど、こっちの情報をジェイドに渡されても面白くないわけで。


「カズハ……!」

「このまま逃がしても良いアルか……?」


 後ろに隠れていたルル、タオ、ミミリたんの三人が俺の元に駆け寄ってきます。

 うーん、確かにもう負けることは許されないから、念には念を入れておきますか。

 

「ええと、ウインドウ出して、また陰魔法を選択。で、これを長押しして……」


「な、何をされているのですか……? もしや、あの残りの軍勢を取り押さえる方法が……?」


「ミミリたん正解」


 陰魔法の『平包』。

 本来この魔法は風呂敷のようなものを出現させて身を守る防護魔法の一種なんだけど――。


「《大平包》」


 『平包』の隠された上位魔法、まあ俺専用のいつものチート魔法を選択。

 そしたら、あーら不思議。

 超特大の風呂敷が出現して逃げ惑う敵軍をいっぺんに包み込みます。


『な、なんだこれは……!』

『身動きがとれん……! くそ、一体どういうことだ……!』

『何も見えない! 何も聞こえない……! 魔王め、我らをどうするつもりだ……!!』


「でー、《大鎖錠》も選択して巾着みたいにして鎖で縛っておけばオーケー。あとは《大奈落》で、ぽい」


『『ギャアアアァァァァーーーーーー!!!!』』


 巨大な穴に落ちていく、巨大な巾着袋。

 これでしばらくは大丈夫でしょう。どうせ化物だから死にもしないだろうし。


「き、鬼畜アル……」

「鬼畜、ですね……」

「はい……」


「ミミリたんまで!? どうして三人して俺をそんな目で見るの! 仕方ないだろ! こっちの手の内を知られたらマズいんだから!」


 ジェイドはもとより、残りの不死野郎どもも同じ手を使って封じるしかないからね。

 特にあのアルゼイン大好き男とか、放っておいたら下半身だけになっても俺の仲間を襲ってくるかも知れないし……。


「よーし、次行こう、次。グラッチの持ってた四宝も回収して、と……。ていうか、あの鹿蜘蛛を倒したからデボルグ達の能力とか元に戻ってるんかな」


「うーん、それはどうアルかねぇ……。能力を奪ったのはジェイドが持っている無の魔術禁書の力アルから……」


「恐らくジェイド自身を倒さない限りは元に戻らないでしょうね。つまり、この先も我々だけで奴らに立ち向かわなければならないということです」


 うーむ、じゃあ尚更慎重にいくしかないわけですね……。

 ふざけるのは封印しよう。ていうかふざけてないし。いつも真剣だし。


「四宝は私のほうでお預かり致しますね。カズハ様は次の戦いに集中なさって下さいませ」


 ミミリたんは俺から四宝を預かり、丁寧に袋に仕舞っていきます。

 さすがデキるメイドは違いますね。

 料理と胸の大きさくらいしか取り柄の無いどっかのチャイナ娘とは大違いだね。


「……何アルか、その目は」


「いや、タオさん。そのバニーガール姿、凄く似合ってるなって」


「嘘吐くなアル! 今絶対頭の中で私のことを馬鹿にしていたアル!」


「痛って……! ケツを蹴るな! しかも本気のローキック……!」


「……はぁ。カズハが合流した途端、緊張感が欠片もなくなりました……」


 溜息を吐く幼女。

 ……いや、助けろよ。魔王のケツはサンドバックじゃないんだけど。


『ククク……。相変わらず良い尻をしているな、魔王よ……』


「え? なに!? 急にキモイ声が木霊してきた……! うわ、ついでに鳥肌も立ってきた……!」


 辺りの雰囲気が一瞬にして変化する。

 空気が重くなり、まるで全身の重力が倍に膨れたような錯覚に陥る。


「これは……! アルゼイン様やレイ様が苦戦されたときの……!」


「『重剣』アル! カズハ! 連戦アルよ……! ふざけている場合じゃないアル!」


 タオが叫んだ瞬間、横の壁が破壊されどこかで見た顔の奴が現れました。

 ……ええと、誰だっけ? なんとかカーンさん……。うーん、忘れた。


「……その顔はまた俺の名を忘れてやがる顔だな。最初から、最後まで……この俺を愚弄しやがって……」


 たった一人で登場した隻眼の大男は下を向き、わなわなと肩を震わせています。

 ……いや、愚弄っていうよりも本当に覚えていないの。興味ないから。特に男は。


「『重剣』レイヴン・リンカーンです! 気を付けて下さいカズハ様……! 彼の持つ重剣アルギメテスは妖精剣フェアリュストスと並ぶ、エルフ族に伝わる二大秘剣と呼ばれる剣です!」


「それに彼がジェイドから授かった力はアルゼインやセレン、それにレイやセシリアが持つ力と武器……。それに、まさか、あの盾・・・は……!」


 ミミリに続いた幼女は震える指を隻眼の男に向けます。

 ……うん。なんか見覚えのある大盾も構えてますね。


「ククク……くはははははは! そうだ! 公国の盾『エニグマ』……! ライグルのジジィが隠居した今、『絶盾』の力を与えられた俺が持つに相応しい、最強の盾……! ククク、どうだ魔王よ……! かつて貴様が破壊した剣と盾が、再びこうして俺の元に蘇る……! 素晴らしいことだと思わんか!」


 怒ってると思ったら、今度はまた笑い出すキモイ隻眼男。

 レイヴン……? ……あー、あいつか。エルフを代表するリンカーン家の馬鹿息子。

 ふーん、『重剣』と『絶盾』で防御面は世界最強レベル。

 ついでに背中に魔剣二本と腰に勇者の剣まで準備してて、お前は一体何刀流の剣士やねんって感じ?


「あの『重剣』を奴が持っている限り、ずっとこの身体の重さは続くアル……。ユウリはあの剣に埋め込まれている小型の魔導増幅装置アヴェンジャーによる影響なんじゃないかって言っていたアルけど……」


 また来た。魔導増幅装置アヴェンジャー

 もうほとんど破壊したと思ったら、今度は小型化ですか。

 ホントしつこい。そういうチート大嫌い。


「お前一人か? ジェイドと残りの雑魚はどこにいる?」


 とりあえず気持ちを取り直して質問してみます。

 こいつがエサの可能性もあるし、どこからジェイドの攻撃が飛んでくるかも分からんし。


「クク、教えるわけが無かろう? それに貴様は今、ここで、この俺に殺されるのだから知る必要すら無い。さあ、その黒剣を抜け。お前の全力を見せてみろ……!」


「来るアル……! カズハ! 私達は隠れているアルから、後はよろしく頼むアルよ……!」


 そう言い残したタオは幼女を抱き上げ、ミミリと共に背後の扉の奥に隠れました。

 うん。まあお前らいると気が散るから、そうしてくれると助かります。

 でもさあ、こいつ馬鹿じゃね?

 俺との力の差は歴然だって前に痛いほど分かったはずなのに、こうやってタイマンを申し込むとか。

 ――つまり、どう考えても罠ですね、これ。


 さあ、どうしようか。黒剣を抜くか否か――。

 


 というわけで『重剣』さんとの最後の戦いが始まりました。




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