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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第六部 カズハ・アックスプラントと古の亡霊(後編)
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043 ついにあの方の出番が回って来ました。

今年一発目です!

2019年も宜しくお願い致します!

 ――グランザイム城、最上階。

 空は黒く染まり、この世の絶望がそこに犇めき合っていた。


「……ふむ。儂の結界も破理には敵わぬか。魔族の領土デモンズ・テリトリアの全域に張ったものにはまだ気付いておらぬようじゃが、さて――」


 老婆は呟き、空を見上げる。

 一筋の光が闇を斬り裂き、そのまま城に落下してくるのを確認した彼女は口元を緩めた。


「来たか。おぬしの『答え』、しかと見届けさせてもらうぞ」


 それだけ言い残した老婆は、音も立てずにその場から消え去ってしまった。

 直後、ドオンという轟音が周囲に響き渡った。


「到着!! ……あれ? 今なんか皺くちゃの婆さんみたいなのが見えた気がするけど……気のせい?」


 黒のメイド服を着た少女は首を傾げ、辺りを見回している。

 その傍らには目を回した幼女が倒れ込んでいた。


「……う……うぅ……。どうして……いつも、貴女は……こういう無茶を、するんですか……」


「いいから早く起きろよルル。さっき空から城門前がちらっと見えたけど、めっちゃ奴らに蹴破られてたぞ。もう籠城の意味無いし、ユウリ達を探そうぜ」


 幼女を強制的に立たせたメイド服の少女は、次に空を仰ぎ見た。

 そこには幾千という数の翼を生やした異形の戦士が将の命を待っていた。


「あいつらに構っている暇はねぇな……。とにかく急ぐか」


「……え? あ、ちょっと……私、まだ――ひゃんっ!」


 再び幼女を肩に担いだメイド服の少女は城内へと続く階段を駆け下りて行く。





 ――グランザイム城、王の間。


「あ! やっぱここにいた! どうも、カズハです!」


 扉を蹴破った俺は見慣れた仲間の顔を見付けて、ほっと一息吐きました。

 俺の顔を見た仲間達は様々な表情をしてますね。

 満面の笑みで出迎えてくれた奴、苦笑いの奴。

 ……溜息を吐いてる奴もいれば、眉間に皺を寄せてらっしゃる方もいますけど。


「とりあえず点呼とります! 皆、元気よく返事をするように! エリーヌ! ユウリ! グラハム! リリィ! ゼギウス! アルゼイン! セレン! タオ! ルル……はここで気絶してるから、レイさん! ゲイル! エアリーにデボルグにルーメリア! それとミミリとセシリアとレベッカさんとガゼットのおっさん!」


 皆の顔をぐるりと見回し、大声で名前を呼びました。

 よーし、とりあえず全員います。

 見えない顔もチラホラいるけど、あの様子だとみんな無事みたい。


「…………」

「…………」


「…………いや返事しろよ!!! 点呼とってるんだから!! 寂しいだろ、俺一人だけ!!」


「か、かかか、かかかかか…………!!」


「…………へ?」


 ……なんかすごーく嫌な予感がする。

 若干一名、俯いたまま肩を震わせて――いや、全身をカタカタと奇妙に弾ませて?

 ……とにかく気持ち悪い動きをしている輩がおります。


「カ!! ズ!! ハ!! 様あああぁぁぁぁん!!」


「うおっ!?」


 全身を大きく広げ、飛び掛かってきたのは醜悪な新生物キメラ兵士――ではなく、レイさんでした。

 ……新生物キメラのほうがマシだったかも知れない。


「カズハ様カズバ様ガズバ様ああぁぁぁん!! もう放しません! もう放しませんわぁぁぁ!! ああ! カズハ様のこの香り! この香りが私を癒して下さいます! いや、癒しというレベルではありませんわっ! この香りはもう、私の生きる意味! そう! もはや人生ですわ! カズハ様は私の人生そのもの! んはぁ、んはぁ、んはぁあああ!!」


「…………レイさん」


「もういっそ溶けてしまいたいですわ! そう! 溶けてカズハ様の中に入って、一体化しますの! それが良いですわ! そうしたら二度と離れずに済みますもの! ねぇ、カズハ様! カズハ様もそう思いますよね? そう思うに決まっております! だからカズハ様! 私を妾に――ふぎゃん!」


「邪魔! うるさい! 暑苦しい!」


 抱きついて離れないレイさんを後ろのほうに放り投げた俺は、溜息を吐いて王座に座りました。

 まあ座っている場合じゃないんだけど、誰かさんのせいで一気に疲れちゃったから仕方ないよね。


「ふふ、カズト。やはり来てしまったんだね。君のことだから、僕の忠告など聞かずに城に戻って来ると思っていたよ」


「当たり前だろ。お前らがピンチだって知って、来ないわけないじゃん。あ、ミミリー。俺の着替え持ってきて。さすがに最終決戦でメイド服は嫌だから」


「あ……はい! すぐにご用意致します……!」


 王の間の奥にある部屋に向かい、俺の着替えを用意してくれたミミリたん。

 面倒臭いからそのまま皆の前で着替えた俺は、心機一転。

 黒衣を翻し状況の整理をすることにしました。


「ルルからある程度は聞いた。『破理の剣』と『無の魔術禁書』。これがジェイドの切り札ってわけだ。お前らの能力もあらかた奪われたんだってな」


 そう言い仲間の顔を見回すと、皆の表情が陰った。

 俺が到着したってのに、この暗い顔。

 うーん、予想はしてたけどかなりヤバい状況らしい。


「……で? まだ能力を奪われていないのって誰?」


「……前線で戦っていたメンバーは全てジェイドに能力を奪われちまったよ。奪われていないのはタオとミミリ、それにそこで気を失っているルルくらいだ」


「それに、私達の武器も全部奪われちゃったの。私の聖杖はもちろん、勇者の剣も魔剣も、『四宝』も全て……」


 デボルグとリリィの言葉を聞き、仲間達は更に深い溜息を吐いてしまった。

 うん。確かにこれはヤバい。

 魔王軍の主力がほぼ壊滅状態じゃ、確かに籠城するくらいしか方法が思い付かない。


「カズハよ、今からでも遅くはない。ジェイドと対峙する前にここを抜け出し、ドベルラクトスへと向かうのじゃ。ラドッカと連絡を取ろうにも、すでにジェイドにより魔法便の使用を封じられてしまっておる。『破理』の力はそこまで影響を及ぼすのじゃ。儂らにはもう、お主しかおらぬ」


「そうよ、カズハ。私達だけでも姫様と皇族の方々、それに貴女のお母さんも命に代えても守るから、ルルちゃんを連れてドベルラクトスに向かって。私達にはもう、それしか方法が無いの」


 ゼギウスとルーメリアがそれに続く。

 でも俺の答えはとっくに決まっています。

 だから俺は満面の笑みで、腰に手を当てて、仲間全員の顔を見回して、こう答えました。


「うん。嫌だ」


「…………」

「…………」


 あまりも、当然のようにそう答えた俺を見て、全員が目を見開き沈黙します。

 そう、これこれ、この表情!

 何度見ても飽きないね! でもきっと後でボコボコにされるけどね!


「……どうして分からないアルか! ジェイドと戦えば、カズハの能力だって奪われるアルよ? そしたらこの世界はどうなるアルか!」


「じゃあその『世界』っつうのを救ったら、お前らは死なずに済むのかよ。お前らを見殺しにして世界を救ったって、俺には何の意味も無いって何度も言ってるだろ」


「そんな子供じみたことを言ったって、どうにもならないんだよ、カズハ! どうしてそれが分からないかねぇ……!」


「だって俺、子供だもん。おっぱいは成長したけど」


 俺の言葉に顔を真っ赤にして反論する仲間達。

 こっちそこお前らが何を言っているのか意味が分からん。

 俺は最初から世界を救う気なんてこれーーーっぽっちも無いって言ってるじゃん。

 ……だから最終的に魔王になっちゃったわけなんですが。


「とにかく! 俺はジェイドをぶっ飛ばす! その方向で、『俺が奴に能力を奪われずに済む方法』をみんなで考えましょう!」


 バンと円卓のテーブルを叩いた俺は立ち上がり、もう一度皆の顔を見回します。

 ……うん。全員一致で、俺を睨んでるね。怖い。ちびりそう。


「くく、やっぱこいつは大馬鹿者だな。いいか? 教えてやる。ジェイドと戦ったら最後、奴の無の禁断魔法をその身に受けて、全ての能力が奪われる。戦闘能力は一般市民レベルまで落ち、それでジ・エンドだ。こんなに簡単な話がどうしてお前には分からない?」


「じゃあ、その無の禁断魔法を受けなきゃいいじゃん」


「だーかーら! あいつは『破理の剣』を持っているのよ! あの剣を受けたら、こっちが持ってる能力を無効化されちゃうの! その隙に無の禁断魔法を瞬時に発動されて、それで終わり! これをどうしろって言うのよ!」


「よし! じゃあその『破理の剣』を受けなきゃ良いじゃん! これで勝ちじゃん!」


「…………」

「…………」


 ……うん。みんな黙っちゃった……。

 というか『それが出来ればとっくにしとるわ!』みたいな顔で俺を睨んでるし……。

 奴の攻撃を全く受けずに戦うなんて、無理ゲーにも程があるんだろうけど……。


「……今のカズトの魔力ならば、ある程度はジェイドと戦えるかも知れない。一切彼に触れずに、魔法のみで戦う。もしくは黒剣から放つ斬撃で戦うか。だが、いずれにしても彼は『破理の剣』を持っているんだ。致命傷を与えるのは難しいだろうね」


「うーん、だよなぁ。じゃあ、盗んじまうか。その『破理の剣』を」


「はぁ!? 盗むって……どうやって盗むアルか? あのジェイドから……」


 俺の発言がまたしても意外だったのか。

 全員の視線が俺に集中した。


「いるじゃん。盗める奴」


「……誰、アルか?」


 タオの言葉を聞き、俺はとある人物を指差しました。

 ……ていうか、目の前にいる、タオを。


「…………私?」


「うん。お前、元盗賊だろ。ほら、覚えてるか? 初めて会った時、お前にセレンが持ってる魔王の剣を盗んでもらおうとした、アレ」


「…………」


 俺の発言を聞き、見る見るうちに青ざめていくタオさん。

 当時は結局、魔剣を盗むんじゃなくて、魔王そのものを持ち帰っちゃったんだけどね。

 今回はそういうわけにはいかないっていうか……ジェイドなんかいらんし、ちゃんと盗んでもらえばタオの面目躍如にも繋がるんじゃないかと、今思い付きました!


「……本気かい? カズト」


「うん。ていうか、それしか無くね? 『破理の剣』さえ盗めれば、あいつの持っている不死魔法エデンも消滅させられるんだろ? それに俺がその剣を使えば、あいつの無の禁術も防げるってことだよね?」


 俺の言葉に皆がハッとした表情に変化しました。

 ……あれ? もしかして今俺、凄いことを言った?


「……確かに、奴が『破理の剣』の捜索にこだわったのは、それ・・が最大の理由なのかも知れないな。つまり・・・奴にとって・・・・・最も脅威なのは・・・・・・・妖精剣・・・フェアリュストス・・・・・・・・だったわけだ・・・・・・。その脅威を手中に収めておけば、決して負けることはないと踏んでいた」


「……でも、カズハ様の魔力が覚醒してしまったため、奥の手・・・として自身がその剣を振るわねばならなくなったわけですね。余裕が無いのはこちらだけではなく、あちらも同じ――。だったら勝機があるのかも知れませんわ」


 ゲイルとレイさんの言葉を聞き、少しずつ皆の表情に光りが差してきました。

 つまり、妖精剣を盗むことに成功したら、俺らの勝ち。

 うん。ということは――。


「――来たな、タオ。ついにお前の時代が」


「ちょ、ちょちょちょ、待つアルよ……! え? 私……? 私でこの戦いの結末が決まるアルか?」


 完全にパニクっております、このチャイナ娘。

 魔王軍最弱にして、おっぱいの大きさと料理の上手さだけが取り柄の魔王軍所属料理長、タオ。

 ここにきて元盗賊という盗みに特化したスキル。

 そしてジェイドに戦力外と見なされて能力を奪われなかった幸運が重なり、出番が回って来ました。


「世界の運命は――お前に託した」


「いやいやいやいや! 煽るのは止めるアル! なにちょっと楽しそうに言っているアルかああぁぁぁ! き、緊張してきたアル……! でも、皆のため、ルルちゃんのために私だって、私だって……!!」


 あ、これ駄目なやつだ。完全に本番にやらかすパターンに陥ってる。

 とりあえずルル起こして『緊縛』解いて、すぐに作戦を立てるか。

 そろそろ敵兵も来る頃だろうし、まだ能力が奪われていないミミリにも手伝ってもらおう。


 ――というわけで、俺は気絶している幼女の頬を引っ張って強制的に起こしたわけでして。




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