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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第六部 カズハ・アックスプラントと古の亡霊(後編)
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042 なんちゃらリンカーンさんがマジでキモくて嫌です。

 ――グランザイム城、城門前。


 城の周囲を取り囲む新生物キメラの大軍。

 ユウリ達の善戦も空しく、全兵力の九割が未だ余力を残していた。

 そして同じく新生物キメラ化された政府指定危険魔獣の三体はその図体とは裏腹に大人しく主の命を待つ。


「ふはは……! ふはははは! どうだ、見たか魔王軍よ! これが世界の神となるジェイド様の御力だ! 聞こえているのだろう? アルゼインよ! 今ならまだ間に合うぞ……! もう一度魔王軍を裏切り、今度こそ俺の物となれ! ジェイド様は寛大なお方だ! 精霊の娘を差し出せば、お前を新生妖竜兵団の隊長として、再び迎え入れて下さると約束された!」


 城門の前で声高らかに叫ぶ屈強な男――『重剣』レイヴン・リンカーン。

 しばらく彼は返事を待つが、城内からは応答が無い。


「籠城など時間の無駄とは思わぬか! 確かに強力な結界ではあるが、ジェイド様の持つ『破理の剣』を知らぬわけではあるまい! ご到着される前に潔く降伏せよ……!」


 レイヴンはそう叫び、重剣とは別の漆黒の剣を天に翳した。

 それはアルゼインが魔王より授かりし魔剣、咎人の断首剣クリミナルダークネスである。

 すでに先の戦闘によりジェイドから能力を奪われたアルゼインは、魔力共々命の次に大事な魔剣まで奪われたことになる。


「ああ、この感じ……。くくく、お前の血と汗が滲んだ魔剣から確かに伝わってくるぞ……。お前の能力はすでに俺の物……。やはりジェイド様は俺の望みを全て叶えて下さる神……! くくく、くはははは……!」


 ほぼ全ての魔王軍幹部はジェイドから能力を奪われ。

 そしてそれらは配下に分け与えられた。

 アルゼインの全てを欲していたレイヴンは掲げた魔剣を見つめ、猟奇的な笑みを浮かべ笑い続けている。


「……レイヴン様。あまり敵を追い詰めるような言動は慎み下さい。奴らもこれまで幾度となく我々を苦しめて参りました。この籠城も恐らく、ユウリ・ハクシャナスの策の一つかと」


 レイヴンの背後より現れたのは『双剣』マルピーギ・ゾルロットである。

 彼は先のユウリらとの戦闘で勝利し、同じくジェイドの力によりその能力を分け与えられた。

 背に負うはセレンより奪ったもう一本の魔剣。

 そしてレイより奪った勇者の剣、聖者の罪裁剣エンジェルスブレイマーである。


「はっ、この期に及んでまだ策があると? どうせの到着を待っているだけなのだろう? くく、それがジェイド様の目論見通りとは知らずにな……!」


「そうとも限りませぬぞ、レイヴン様。先ほどガレイドから魔法便が届きました。どうやらユウリ・ハクシャナスは体の魔術禁書の件で、ドベルラクトスと密かに協定を結ぼうと画策していた模様で御座います。もしもこの情報が事実であれば、奴は魔王を呼び戻すことなどせず、かの国の族長と会わせるでしょう」


 マルピーギの横に立つ『十手』スパンダム・グラッチが手に持つ密書をレイヴンに渡す。

 訝しげな表情でそれに目を通したレイヴンはそれを破り捨て、小声で悪態を吐く。


「ちっ、ドベルラクトスにはリーングランドがあったな。そこにガゼットの研究資料が残されていれば確かに厄介ではある。万が一にもジェイド様の無の禁術を無効にするような魔法遺伝子でも発見されれば、あの偏屈ジジイ・・・・・・・は抵抗するだろうな」


「『ラドッカ・ドドラコス』――。ジェイド様やガゼットとはまた違った視点で長年、魔法遺伝子を研究している変わり者のドワーフ族の長、ですな。噂ではゼギウス・バハムートとも面識があるようですが、その記録は残されてはおりませぬ。魔王軍が帝国、エルフィンランドと協定を結んだ際にも、かの国に協定要請を蹴られたのは有名な話であります。体の魔術禁書の一件もガレイドが上手くやったはずなのですが、恐らくユウリ・ハクシャナスがラドッカに入れ知恵でもしたのでしょう。油断ならぬ男ですぞ、奴は」


 マルピーギの言葉に同調するスパンダム。

 実際に剣を交えたからこそ、彼はユウリ・ハクシャナスという男の底知れぬ計略に舌を巻いていた。


「魔王とラドッカが会えば計画に遅れを来す、か……。どちらにせよ、この結界はジェイド様の御力でしか破壊できぬだろう。ふん、老婆だからと見逃してやったがあの魔女……。次に会ったらその首、刎ねて晒し者にしてやろうぞ……! マルピーギ! スパンダム! ジェイド様の到着までここは任せたぞ! 俺はこのままドベルラクトスに向かう!」


 踵を返したレイヴンは二人に命令し、一際大きなフェアリードラゴンに跨ろうとする。

 しかし彼はすぐに姿勢を正し、その場に膝を突いた。

 それを見た兵士らは一斉に同じく膝を突く。


「必要ありません。魔王は必ずここに来ます。ふふ、あの女が仲間を見捨てられるはずもない」


 黒いフードを被った魔道士は不敵な笑みを浮かべそう言った。

 『四皇』ジェイド・ユーフェリウス――。

 彼の持つ妖精剣フェアリュストスは黒一色の新生物キメラの大軍には似つかわしくないほどに神々しい光を集めている。

 それを抜き、城門の前へと歩み寄る。

 切っ先が結界に触れた途端、時空が歪み、それらは粉々に破壊されてしまった。

 『破理の剣』の前では、魔女メビウスが作った結界すらいとも簡単に消滅させてしまう。


「さあ、これで我らを阻む壁は無くなりました。思う存分奪いなさい。精霊の娘以外は犯すも殺すもお前達の自由です」


『キキキキキ……!!』

『ゲハアアアアァァァ……!!!』


 ジェイドの命により城門がこじ開けられ、怒涛の如く城内に侵入していく新生物キメラの大軍。

 それらを不敵な笑みを浮かべ眺めていたジェイドだったが、ふと空を見て首を傾げた。


「……? どうされましたか、ジェイド様?」


「ふむ……。どうやら魔王が到着したようですね。それに精霊の娘も。……ふふ、これは都合が良い。どこに隠れていたかと思えば、あちらからわざわざ来て下さるとは……ふふ、ふははは! これは傑作!」


 黒いマントを翻し、声高らかに笑うジェイド。

 そして妖精剣を天に掲げ、こう宣言した。


「さあ……! 最後の戦いと行こうではありませんか! 魔王カズハ・アックスプラント……!! 貴女の力、我が物にしてみせましょう! ふふふ…………ふはははは!!!」



 ――再び対峙するカズハとジェイド。


 この戦いを制した者が、世界を制す。




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