040 過去の自分を自分で認めてあげないと前に進めません。
「どぴゅっしっっ!!!」
――はい。どうも、カズハです。
なんか今、尋常じゃないレベルのくしゃみと共に鼻水が噴水みたいに噴き出しちゃいました。ごめんなさい。
「…………じゃなくて! 大変だったんだっつうの! ていうか、今も大変なの!!」
俺は誰もいない海で一人叫びます。
いやさ、海底火山の噴火って怖いよね。
あっという間に海が真っ赤に染まって、ホント死ぬかと思ったんだけど……。
『ゴアアアァァァ!!』
『キエエエェェェ!!!』
「なんか知らん巨大な深海生物やら海底火山の奥底に眠ってたっぽいモンスターが目覚めちゃってるんですけど! こんなんいたんだね! この異世界にも!!」
黒剣を抜き巨大モンスターの群れを一網打尽にするも、次から次へと湧いて出てきます……。
俺、こんなことしてる暇、全然無いんだけど!
とにかくしつこいの! こいつら!
――――グゴゴゴゴゴゴ。
「だああぁ! またあの火炎砲みたいなやつか! もうホントやだ! お家に帰りたい……!!」
口を大きく開いた巨大モンスターの全身が灼熱色に染まっていきます。
もう何回、黒コゲにされたか分かりません……。
これもう、政府指定危険魔獣に認定しなきゃアカンやろ!
誰だよ! こんな未知の生命体を蘇らせちゃった馬鹿は!!
……。
…………。
「…………俺! でした! 熱い! 焦げる! 海に逃げる!!」
火炎砲をどうにか避け、海底に避難します。
そして全力でバタ足して、少しでも魔王城に近付けるように努力します。
『ガアアアアァァァ!!!』
『ゴエエエエエェェェ!!!』
執拗に追ってくる巨大モンスターども。
振り返り、蹴散らし。またバタ足。それの繰り返し。
ピー、ピー。
「ああもう! さっきからうるさいな! 忙しいんだから、そう何度も何度も魔法便を送ってくるなっつうの! 見れるわけないだろ!」
もうかれこれ五回ほど、魔法便による通知が俺に届いています。
分かったから! 向うに到着したら、ちゃんと読むから!
「……だから今は、こいつらから逃げることに集中させて下さい!!」
◇
――アゼルライムス帝国、帝都アルルゼクトより東約250ULにある海岸にて。
「はぁぁぁ…………。あー、しんどかった…………。もう無理。死にそう。この異世界怖い。何が起こるかマジ分かんない……」
全身びしゃびしゃの俺は砂浜に頭から突っ込み、倒れ込みます。
ていうか俺、レベル3000くらいあるはずなのに、あの巨大な深海生物はどんだけ強いっつうんだよ……。
結構苦戦してたと思うぞ、あれは……。
無論、一匹残らずぶっ飛ばしてやったけど。
「……あ、そうだ。魔法便来てたんだっけ……。ええと、どれどれ」
【メッセージを消去しますか? →はい】
「あっ」
…………。
………………。
……………………うん。どうしよう。間違えて全部消しちゃった。
なんかユウリからのメッセージっぽかったけど、どんな内容だったんだろう……。
チラッとだけ『妖精』とか『不死』みたいな単語が見えたような見えなかったような……。
「……よし。落ち着け。落ち着くんだ俺。こういう状況の時、俺はいつもどうしていた? 思い出せ、過去の自分を――」
身を起こした俺は一旦深呼吸をして、その場で座禅を組みました。
過去に何度もピンチを迎えては、仲間と共に乗り越えてきたはずだろ、カズト。
そこに必ずヒントが隠されている。
ユウリが俺に伝えたかったこと――。
ここで『ごめん、ユウリ! 間違えてメッセージ消しちゃったみたい! だからもう一度送って!』なんて格好悪い真似をしなくても、大丈夫に決まっている。
だって俺は魔王カズハ・アックスプラントだもん。強いんだもん。皆のアイドルでもあるし。
「過去の自分…………。過去の自分………………」
『過去にやったことリスト』
①暇つぶしに精霊の少女(ルル)を拘束した
②暇つぶしに当時の魔王(セレン)を強制連行した
③暇つぶしに国を作った
④暇つぶしに魔術禁書集めた
結果:犯罪者になった
「………………」
…………うん。
いや、うん。ええと…………はい。
「違う違う! そういうんじゃなくて! ちょっと待って……! きっと良いこともしてるから!」
『過去にやったことリスト2』
①気に入らないラクシャディア共和国のハウエル宰相に喧嘩を売った
②気に入らないユーフラテス公国のエルザイム主教に喧嘩を売った
③気に入らないエルフィンランドのジェイド宰相(当時)に喧嘩を売った
④世界ギルド連合に向かって宣戦布告した
結果:戦争になった
「…………いやいやいや! え? これ全部、俺のせい……? 嘘……。こんなに頑張ってるのに……?」
あれ……? 涙が自然と溢れてきます。
どうしてなの? 俺はただ仲間と一緒にワイワイ楽しくやっていたいだけなのに……。
心が――苦しいの。押し潰されそうなの。
誰か、助けて――。
ピー、ピー。
「あっ」
絶望に打ちひしがれている俺に、救いの手を伸ばしてくれたのは、やはり――。
「ユウリ様!」
藁をも掴む思いで送られてきた魔法便を開きます。
今度は慌てて消さないように、慎重に……。
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再送。カズトへ。
時間がないから、用件だけ送る。
ジェイドとは戦っては駄目だ。奴は君の能力を奪おうとしている。
すでに魔王城周辺は敵軍に包囲されてしまった。
ここが落とされるのも時間の問題だろう。
もう一度、伝える。
ジェイドとは戦ってはいけない――。
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「…………」
ユウリからの伝言を確認した俺は、その画面をそっ閉じした。
そして起き上がり、首の骨を鳴らしボサボサの髪をゴム紐で後ろに縛る。
「――そうだった。うん、思い出した」
過去、俺がしてきたこと。
それらは全て、俺がしたいと思ったからしたことだ。
ジェイドがここにきて何を企んでいるのかは知らないが、ユウリにここまで言わせるほどヤバい案件なんだろうな。きっと。
でも――。
「戦うなって言われても、お前らはピンチなんじゃねぇか。俺は命令したぞ。『誰も死ぬな』って」
視線を北に向ける。
聳え立つは魔王の城グランザイム。
帝都周辺には敵の残党は残っていない。
つまり敵は全軍を上げて魔王城を取り囲んでいるわけだ。
俺は地面を蹴り、最速で魔王城に向かう。




