三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず話を聞くことでした。
「えええぇ!? この魔剣を作ったのが爺さん!?」
二杯目のお茶を危うく噴き出すところでした。
いや、だってそうでしょう。
俺の秘密の暴露を未然に防げてほっと一息入れようかと思ったところで、いきなり爺さんがさらっと言うもんだから……。
「おや、おぬしに伝えていなかったかのぅ。いやはや、ワシも歳をとったものじゃて。ふぉっふぉっふぉ」
「笑ってる場合じゃないだろ! こんな危なっかしい剣を作っておいて、それを魔王に授けて? それでどうして爺さんは何事も無かったようにエーテルクランに住んでんだよ! ここ人間の土地だぞ!」
勇者の剣と唯一対抗できる魔族の切り札。
それがこの魔剣、『咎人の断首剣』だ。
そんなヤバい剣をドワーフ族の鍛冶師が作って魔王に授けたなんて世間に知られたら、ドワーフの国は人間族に滅ぼされちゃうんじゃないでしょうか……。
ていうか精魔戦争時代はドワーフは精霊軍に味方してたんじゃなかったけ?
それがどうして敵であるはずの魔族に魔剣を提供するんですか……!
「カズハ。話せば長くなるので今は省略するが、これは我がゼギウスに頼んで作ってもらったのだ。もう半世紀も前の話になる」
「省略すんのかよ! ていうか俺が知らないくらいだから、相当ヤバい情報だよねこれ!」
これ知られたら大変なことになるぞ……。
……うん?
あ、でもちょうどいいや。
ゼギウスにも俺の秘密を知られちゃったから、お互いに秘密を共有するってことでなんとかなりそう……?
「……もしかして俺を信頼してくれたから話してくれたのか、爺さん?」
「ふぉっふぉっふぉ。まあ、そう受け取ってもらえるとワシも助かるかのぅ。どれ、茶を淹れ直すかの」
「あ、お願いします」
席を立ったゼギウスはもう一度湯を沸かしてくれた。
いやー、でもビックリしたー。
でもこれで色々と謎が解けました。
この三周目の世界で最初に爺さんに会ったときもそうだったよね。
俺の持っている剣を見て、一瞬で『魔剣』だって分かったし。
魔剣なんてなかなかお目にかかれる物じゃないから、普通分からないもんね。
「じゃが、どうするのじゃ? グランザイムから魔剣を奪えなかったとなればアルゼインとの取引は成立せんぞ」
「うん。この前も『魔剣ください』って言ったら速攻で断られました」
お茶のおかわりを貰いつつ、俺はセレンをジト目で睨みます。
まったく……。俺の眷属という割には全然俺のことをリスペクトしてくれないし……。
「それはそうじゃろう。渡そうと思っても渡せんからのぅ」
「……はい?」
爺さんの言っている意味がまったく分かりません。
えー? もしかしてまだ俺に内緒にしてる仕掛けとかあるの……?
「魔剣とはすなわち、『呪われた剣』なのだ。ゼギウスの作る武具には必ずといっていいほど何かしらのギミックが仕掛けられている」
「うん。まあそれはさすがに俺も知ってるけど……。爺さん、変人だからな」
俺が爺さんに作ってもらった大剣もそういう類のものだからね。
……うん?
ということは『呪われた剣』って、もしかして――。
「カズハも呪いの武具やアイテムは知っておろう。一度装備してしまうと、自らの意志でそれらを外すことは困難じゃ。ワシはそれを剣の強化に応用した」
ゼギウスの説明によると、こういうことみたいです。
魔剣を作る際に呪われた素材を世界中から集めました。
そしてその中で魔力を切れ味に変換できる素材に絞って鍛冶をしました。
で、出来上がったのが『使い手の魔力を常に吸収し続ける剣』。
これが魔剣の強さでもあり、呪われた剣といわれる所以だそうです。
魔族の王ともなれば、無限に魔力が湧いてくるからね。
まさに魔王にしか使えない、魔王のための剣らしいです。
「つまり我から魔剣を奪うためには『盗む』以外に方法が無いというわけだ。タオがカズハらと共に我の城に向かったのも、それが理由であろう?」
「うん。まあ最初はそう思ってたけど、ちょっとタオが可哀想になってきたから止めたけどね」
「その結果がグランザイムごと持ち帰る、という飛んでもない発想に繋がったというわけじゃな」
爺さんがそういうので俺は親指を立ててニッコリと笑いました。
それを見て二人とも溜息を吐いちゃったけど。
「……あれ? でも俺の持っている魔剣は別に呪われていないけど……どういうこと?」
俺の呟きに爺さんが反応し、耳を貸せというジェスチャーをしてくれました。
どうやらセレンさんに聞かれたらマズい話みたいです。
「(おぬしが手にしている魔剣は、一周目の世界で魔王を倒し、運良く手にした物じゃ。その時点で呪いの効果は消失しておるのじゃろうな)」
「(ふーん、そうなんだ。でもそれだったら本来の魔剣の強さが発揮できないんじゃね? でもこの剣、めっちゃ切れ味が良いんですけど……。何でなの?)」
「(そんなことワシが分かるわけが無いじゃろう。おぬしは色々と規格外なのじゃから)」
ペシっと爺さんにお尻を叩かれました。
俺、いちおう今は女なんだから尻とか勝手に触るんじゃない!
そして一部始終を見て首を傾げているセレンさん。
お前にだけは絶対に教えられない話です……。
「まあいいや。どっちにせよ、アルゼインには俺の魔剣を譲るしかないわけだし。理由が分かっただけでもここに来た甲斐があったよ」
そう言って俺は席を立ちました。
アルゼインも呪われた剣なんて貰ったって嬉しくないだろうし。
あいつにだったら俺の魔剣を譲ってやっても、別に惜しくない。
だって準優勝したんだもんな、あいつ。
きっとこの魔剣も使いこなせるはずだ。
ていうか、誰なんだろう。優勝した奴って……。
あのアルゼインに勝てそうな猛者なんて、他にいたっけ……?




