031 カズハちゃん最強伝説再びで場内は騒然です。
「カズハ様ぁ……!!」
「おっぶ!」
遥か彼方にギガントキマイラをぶっ飛ばした後、エルフ犬――もといエアリーが俺に向かって全速力で走ってきてジャンプで顔面に抱きついてきました。
うん。思いっきり鼻が潰れた……。
「あの魔導増幅装置で強化された危険度S級のギガントキマイラを素手でぶっ飛ばしやがった……。おい! 一体どうなってやがんだよ、この筋肉馬鹿!」
「あ! また馬鹿って言った! お前が犯人かデボルグ! よーし、歯ぁ食いしばれ。今の俺に逆らうとどういう目に遭うか身をもって知ろ!」
エアリーをひっぺ剥がした俺は首の骨を鳴らしてデボルグに近付きます。
今まで散々馬鹿にされてきたからね! ちょっとは痛い目に遭ってもらわないと!
「ちょっと、そこの馬鹿! デボルグのことは良いから、ちゃんと説明しなさい!」
「だから何度も馬鹿って言わないで! 立ち直れなくなるから!」
後ろからルーメリアに声を掛けられ、というか馬鹿と言われ、俺は拳を降ろします。
もう良いもん。どうせみんな俺のこと馬鹿だと思ってるのは知ってるもん。
心の傷がこれ以上深くなる前にちゃんと説明してあげようかな。うん、それが良い。
「ユウリから聞いているのは、お前が『神獣と契約をした』っつう話だけだ。それだけでも意味が分からねぇ上に、お前のその力――。以前に俺と戦った時以上じゃねぇか。一体どういうカラクリなんだ?」
刀を仕舞ったゲイルはその場に胡坐を掻いて座りました。
あ、ちなみに敵兵はみんな俺がギガントキマイラを一撃でぶっ飛ばしたのを見て、泡を吹いて逃げ帰って行っちゃいました。
逃げ足だけは早いよなぁ。あいつらって……。
「うーん、カラクリとか言われても俺もあんまり理解してないんだけど……。あ、でも俺がそう言うと思ったのか、ユウリがお前らに分かるように箇条書きでメモを寄越してくれたから、これを読んで各自俺の強さの秘密を知り、そして敬い、今後一切馬鹿とか言わないと誓うように。誓いなさい。誓って」
俺は四人が見えるように奴らの真ん中にメモを差し出しました。
以下、ユウリが書いてくれた『俺の強さの秘密メモ』です。
……俺はこれを読んでもまったく意味が分からなかったけど。
1.偽の黒剣をジェイドに奪われ、その刀身が抜かれたことによりカズハの魔力が最低値まで枯渇、及び復活したばかりの属性魔法乱発による境界値の突破
2.属性復活手術により投与した無の媒体、火と陰の魔術禁書より抽出した魔法元素、各々に対応した抗神獣遺伝子核の変性及び変異
3.治療が成功した魔法核及び魔法脈流に多大な負荷が掛かり、一時的に『第三の属性』が開花
4.抑制されていた魔法元素が活動を再開。火の神獣フェニクス、陰の神獣ジルがカズハの体内で現界
5.残り寿命と引き換えに彼らと契約。火と陰の禁術の無限解放。陰の禁術、制限解除の再発動によりカズハに掛けられていた陽の禁術、法則復元が消滅。レベル制限が再び撤廃されレベルが2689に
【総括】
・火魔法、陰魔法の復活
・レベル制限撤廃
・禁術の使用制限撤廃
・血塗られた黒双剣の使用によるリスク撤廃
・無限魔力、無限体力、無限攻撃力、無限防御力、無限敏捷力、その他
「「「………………」」」
「おい。黙るな。つまり『カズハちゃん最強伝説再び!』ってことだ」
メモを仕舞った俺は腰に手を当ててうんうんと頷きます。
これだけ魔力に溢れてたら、きっと風邪もひかないかな! それが一番嬉しい!
「なんだかユウリ様のメモの最初のほうは難しくてよく分からなかったですけど……。これを知ったらアルゼインさんも喜びますよぅ……!」
「あー、まぁ確かにそうだわな。あいつ、陽の禁術をカズハに使っちまったのを未だに気にしてやがるからな。しかし、レベルが2689とは……」
「うん。すげぇだろ。あ、ちなみに剛盾のおっさんと、血槍の変態女。それにさっきのギガントキマイラも倒したから……お! ちょうどレベルが3000になってる! ラッキー!」
俺の頭上に表示させたレベルはぴったり3000を示しています。
うーむ、一体どこまで強くなるのやら……。
「……『第三の属性』が一時的に開花して、体内に神獣が現界? 魔法元素が活動再開なんてしちゃったら、普通の人間だったらその瞬間に内側から焼かれて消滅するはずなのに……!」
「マジで!? え、超怖い……!! どういうこと!? なんで俺生きてるの!?」
「そんなの私に分かるわけないじゃないの! ……でもそれが本当だったら凄い発見だわ。魔法遺伝子の研究が飛躍的に進むかもしれない。この戦争が終わったらすぐにでもお父さんに報告しなきゃ」
そう言ったルーメリアは遠慮なく俺の全身をベタベタと触ってきます。
お前、絶対に俺のこと実験体にしか見てないだろ……。
「はぁ……。まあ事情は分かった。つまり、カズハがいる限り『四皇』に勝ち目は無くなったわけだ。となると、奴らの狙いはただ一つ」
「ああ。今逃げ帰った兵士達の報告を聞いたら、さすがにジェイドも焦るだろうな。すぐに全戦力を侵攻させてルルを奪いに向かうはずだ」
ゲイルの言葉に同調するデボルグ。
まあ、最初から奴らはルルを狙ってたから結局何も変わらないんだけどね。
「ま、そういうわけだからお前らは魔王城に向ってくれ。もうレイさんとセシリアは捕虜の血槍を連れて向かってるから」
「カズハ様はどうされるのですか……?」
俺の言葉を聞いて首を傾げたエアリー。
「俺は瑠燕の馬鹿を殴りに行く。本当は奴の船に向かうつもりだったからな。あいつには散々恨みがあるし、ついでに体の魔術禁書も奪ってくる」
「ならば俺らは魔王城に籠城し、全力でルルを保護すれば良いわけだ。あそこならデモンズブリッジを封鎖しちまえば、空から急襲するしか手は無い。こっちには元妖竜兵団の隊長様と紅魔族の面々がいるからな。それに血槍を捕えたのも大きい。もっとも危惧するべき新生妖竜兵団は隊長不在で解体したようなもんだからな」
「そゆこと。ユウリ達にはもう伝えてあるから、お前達は良い子にお留守番してて下さい。後は俺がなんとかするから。ていうか今までの鬱憤を最大限まで晴らしてくるから」
ゲイルに返答した俺は腰に差した黒剣を二本とも抜き、刀身を舌なめずりしました。
うふふふ……。今まで散々、俺をコケにしてくれたよね……。
百万倍にして返してあげるから……。ふふ、うふふふふ…………。
「か、カズハ様が怖い顔をしていますぅ……」
「はぁ……。とりあえず、ここはカズハに任せるしかないわね。不死の四皇に対抗できるのは他にいないんだし。カズハ以外の全魔王軍が魔王城に籠城すれば、さすがに落とせないでしょう」
溜息交じりにそう言ったルーメリアさん。
全魔王軍――四宝の使い手四人に、元魔王、元妖竜兵団の隊長。
帝国一の竜槍の使い手、大魔道士、絶盾、剣姫、イケメン双魔剣士に紅魔族……。
そこに火と陰を除いた七冊の魔術禁書があれば、俺でも城を落とすのに苦労しそうです……。
「……あれ? てことは残りの魔術禁書は瑠燕が持ってるっつう木の魔術禁書一冊か。いやー、集めたなぁ」
火と陰はこの前手術で使ったし、陽はアルゼイン、光はセシリアが使用したから全十二ある魔術禁書の内、残りは八冊。
そういえば無の魔術禁書ってこの世に存在するのでしょうか……。
「まあいいや。とにかくお前らはさっさと魔王城に戻るように。この戦争が終わったら、俺はしばらくニートになるから。もう疲れたし、家庭菜園やって魔王城で静かに暮らすの。戦いはもうコリゴリです」
俺は遠くにある船団に視線を向け、クンクンと鼻を鳴らします。
瑠燕っぽい匂い……。あそこら辺の船が怪しい!
「じゃ、行ってきまーす」
俺は敬礼のポーズをした後に地面を蹴り宙に舞います。
そしてあっという間に東の海岸から見えなくなりました。
「……あいつはもはや人間じゃねぇな」
「……ええ。私もそう思うわ」
――俺の去った後にデボルグとルーメリアの深い溜息が聞こえた気がするのは幻聴かも知れません。
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