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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第六部 カズハ・アックスプラントと古の亡霊(後編)
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029 世界最強魔王の俺もくすぐりにだけは弱いです。

「少しだけ本気を出してあげるわ。私が『血槍』と言われる所以――。貴女はすぐに知ることになるでしょう。……あは、あははは! そして貴女は心底恐怖に震え、私に跪き、私の魅力に気付き、自ずとその身を私に差し出したくなる――」


「なあ、やっぱパンツ見えてるかなこれ。短すぎるよねこのスカート」


「――っ!! ちゃんと聞きなさい! 人の話を!!」


 ……いきなり怒鳴られました。

 いや、だって気になるじゃん。

 俺はお前ら(注:レイさんやゲイル、グラハムその他)変態とは違うんだし。

 帝都を出発するときにまともな服に着替えてくるべきだったかな……。


「……こほん。良いわ、それが貴女の戦略であることに私が気付いていないとでも思っているのかしら。さっさと終わらせましょう。さあ、抜きなさい。その二本の黒剣が本物の血塗られた黒双剣ブラッディ・スパーディオンであるのか、貴女が本物の魔王カズハ・アックスプラントであるのか――。それを今から私が見極めて差し上げましょう」


「え? 別に抜く必要ないじゃん。俺はその辺に落ちてる小枝で良いよ」


「…………今、なんと言ったのかしら?」


 赤髪の姉ちゃんの眉がピクリと動いた気がするけど、俺は気にせずに地面に落ちている小枝を拾ってそれを構えました。

 うん、良い感じの枝だね。

 こう先が二股になってて、槍を受け止めるのに十分な機能が備わっているっぽい。


「……は。あはは、あははは! 良いわ、良いわよ貴女……! ここまで私を侮辱した奴は初めてだわ……! もう泣いても喚いても許してあげないから、ボロボロのグチャグチャにして、最後には私の玩具おもちゃにしてあげる……! まずはそのふざけた枝ごと貴女の両腕を斬り落とすわ!!」


 大槍を構えた赤髪の姉ちゃんは俺に向かって突進してきます。

 確かに速い。スピードは魔王軍最速のレイさんを上回ってる感じかな。


「あははは! 私の動きを目で追うことも出来ないのでしょう! ほら、もう貴女の目の前に――」


 大槍が俺が構えた枝ごと両腕を斬り落とすかと思った瞬間、彼女は槍の軌道を変化させました。

 枝を捉えずに俺の左足を斬り落とそうとしてるみたい。

 悪いこと考えるなぁ。まあそうでもないと敵将なんてやってられないんだろうけど。


 ――ガキィン!


「…………へ?」


 俺の左足は槍に斬り裂かれて真っ二つに……は当然ならず。

 足の親指と人差し指で器用に槍を掴んでやりました。

 まあ靴とソックスはさすがに切れちゃったけど。


「ちっ、でもこの槍に触れた時点で貴女の負けよ! ふふ、驚くが良いわ……! これが『血槍』の力……!!」


「……お? おおおお?」


 槍に触れた左足の先からどんどん魔力が吸われていきます。

 おー、なるほど。この槍にもゼギウスの爺さんが作った黒剣みたいな機能が備わっているんだね。

 なんかそんな感じのことをユウリも言ってたっけ。

 赤髪の姉ちゃんの能力は『相手の魔力を奪って自身の力に変換する』とか。


「吸い尽くしてやるわ……! 貴女の魔力を、空っぽになるまで……!! あは、あはははは!!!」


 見る見るうちに赤髪の姉ちゃんの目までもが赤く染まっていきます。

 吸血族って血を吸うだけじゃなくて、魔力まで吸っちゃうんだね。勉強になりました。


「ほうら、今どんな気持ちかしら……! 貴女の魔力がどんどん私に吸われていく、この感覚……! これまでの侮辱を謝るのであれば今のうちよ! そうこうしているうちに貴女の魔力は私に吸い尽くされて枯渇して……枯渇……して……?」


「…………」


 なんか立ってるのも疲れてきたので、俺はその場で左足を上げつつその場に腰を下ろしました。

 赤髪の姉ちゃんを捕えて、帝都に持ち帰った後は、帝国領土に押し寄せて来ている敵兵達の一掃をして。

 瑠燕リュウヤンをぶん殴って、あいつが持っているっていう魔術禁書も奪わないと駄目だよね。

 で、新生物キメラの奴らも全員ぶっ飛ばして、最後に『四皇』と。

 うーん、やることまだいっぱいあるなぁ。面倒クセェ……。


「…………どうして枯渇しないのよ!!! この、このっ……!! 一体どれだけ魔力を蓄えてるの、貴女は!!!」


「ちょwwwやめろ! くすぐったいだろ! 槍を足の指の間でグリグリすんじゃねぇっつうの!」


 予想外の攻撃に俺は身悶えてしまいます。

 でもここで槍を離すと俺が負けっぽくなっちゃうから意地でも離さない。

 そんなこんなを数分繰り返した後――。


「………………げふっ」


「あー、マジくすぐったかったぁ。死ぬかと思った」


 魔力を吸い過ぎてげっぷをしている赤髪の姉ちゃん。

 もうお腹いっぱいみたいです。

 俺は起き上がってスカートに付いた埃を払いました。


「な、何なのよ……貴女は……。これだけ……魔力を吸っても、全然……平気な顔をして……」


「魔王カズハ・アックスプラントだ。これで信じただろう? 大人しく俺に捕まりなさい。悪いようにはしないから」


 俺は満面の笑みを浮かべて赤髪の姉ちゃんに右手を差し出しました。

 戦争が終わるまでは城の地下牢にでも入れておいて、終わったらマクダイン議長に返す予定だし。

 その時は保釈金をたんまりもらってやろうかな。ふっふっふ……。


「…………魔王。本物の、魔王カズハ・アックスプラント……」


「ああ、そうだ。ジェイドの呪いはもう解いた。そしてカズハちゃん覚醒。勝負はとっくについてんだよ。第二次精魔戦争はもうすぐ終わる。お前らの野望は俺に打ち砕かれる」


「…………」


 少しだけ考え込んだ赤髪の姉ちゃん。

 でもしばらくして俺の差し出した右手におずおずと手を伸ばしてきました。

 うんうん、ようやく理解してくれたか。話の分かる奴は大好きです。たとえ変態でも。


「……覚醒した魔王。ジェイド様の脅威。世界の敵。ならば私も、命を懸けるまで――」


「へ?」


 急に俺の腕を掴んだ赤髪の姉ちゃんはそのまま上空に俺を投げ飛ばしました。

 うーん、まだ抵抗するかぁ。どんだけ嫌われているんですかね、俺って……。


「《ラディウスの箱》よ! あの者を異空の狭間に閉じ込めなさい!」


 俺の周囲に無属性魔法で作られた鋼鉄の板が出現し、四方を塞ぎ閉じ込める。

 コンコンってノックをしてみたけど、俺から吸い取った魔力で強化されているのか、かなり硬いです。


「貴女から奪った魔力――。私の命の炎・・・と共に、綺麗さっぱり返してあげるわ。……ああ、私の愛しきジェイド様。貴方様のためならば、私はいつだってこの命、差し出す覚悟ができております――。

『……௧ஊ௩௪௫ ௯௰௱கஅ உஔகட ணதநன ௩௪௫௬௭

ஆஇஈஉ ஊஎஏ கஙசஜ ஞதநன ப௭௮க ஙசஜரலள……』

『……ணதநன ௩௪௫௬௭௧ஊ௩௪௫ ௯௰௱கஅ உஔகட

நனணதநன ௩௪௫௬௭ ப௭௮க ஙசஜரலள……』」


 ……あれ?

 これって禁断魔法の詠唱じゃね?

 しかも二つ同時……?


「おい、ちょっと待て! それってお前が持っている・・・・・・・・水と風の魔術禁書を・・・・・・・・・今ここで使う・・・・・・ってことか・・・・・!? 二種類の禁断魔法を同時に詠唱って、お前マジで死ぬぞ! 俺の魔力を吸った状態でそんなモン発動したら、お前の身体ごと周囲の島もろとも吹き飛んじゃうんですけど!!」


 そんなことになったら、新生妖竜兵団ごと、どこかで隠れてるレイさんやセシリアまでもあの世行きじゃん!

 やめなさい! そんな馬鹿なことをするのは!


「…………あは、あはは、あはははは!! ジェイド様、万歳……! お父様、貴方の娘は世界に名を残しますわ……!! 魔王カズハ・アックスプラントぉぉ……! 貴女の命、確かにこの私が頂きまし――」


 ヒュン――。


「え――」


 まさしく今、二つの禁断魔法が発動しようとした瞬間。

 俺の抜いた黒剣が俺を閉じ込めていた鋼鉄を砕き、赤髪姉ちゃんの鳩尾にめり込みました。

 禁断魔法の発動は中断。彼女の全身を覆っていた膨大な魔力は収束していきます。


「大丈夫、峰打ちだから。ちょっとだけ力を入れちゃったけど、俺の魔力を吸ってたんだから骨が砕かれたりとかもしてないだろ」


「…………うっ…………ジェイド、様…………」


 そのまま気を失ってしまった赤髪の姉ちゃん。

 俺は彼女を抱え、彼女の胸倉をまさぐります。

 あ、別にセクハラしようっていうわけじゃないです。

 俺この姉ちゃん、なんか苦手だし……。


「よーし、魔術禁書確保。敵将、『血槍』シャーリー・マクダイン、捕縛!」


 俺がそう叫ぶと、周囲にいた新生妖竜兵団たちが次々と武器を投げ捨て降伏の意志を示しました。

 それらを確認したのか、レイさんとセシリアも俺が掛けた陰魔法を解き俺の前に現れます。


「…………はっ、カズハ様? 『血槍』は? 甘美で魅惑的で情熱的な私の恥辱は……?」


 タイミング良く目を覚ましたレイさん。

 俺は彼女の戯言を無視し、セシリアに声を掛けます。


「悪りぃ、セシリア。お前、この赤髪の姉ちゃんに用があったんだよな。気絶させちまった。ホントごめん」


「いえ、そんなことは御座いません。特に何かを話し合いたいとか、そういうわけではありませんでしたので……」


 セシリアはレイさんをその場に立たせ、気絶している赤髪の姉ちゃんに近付きました。

 俺は彼女を地面に寝かせ、後はセシリアに任せることにします。


「……綺麗な寝顔。今さっきまで死闘を繰り広げていたとは思えないですね」


 彼女は微笑み、赤髪姉ちゃんの頬を優しく撫でた。

 前にセシリアはトラウマの話をしていたけど、もうそれは克服できたのかな?


「…………」


 セシリアはそのまま無言でじっと赤髪の姉ちゃんの顔を見つめ続けました。

 そして何を思ったのか、そのまま彼女に自身の顔を近付けて――。


「!? な、なんと!? き、ききき、キッス!? カズハ様……! 容姿端麗な女性同士が、公衆の面前で堂々と、ききき、キッスを!!!」


「……落ち着いてレイさん。唾、飛んでるから。俺の顔に。そしてどさくさに紛れて俺にキスをしようとしないで。身体をくっつけないで。俺のケツを勝手に触らないで。離れて。即刻離れて」


 興奮するレイさんをひっぺ剥がし、俺はその場を離れました。

 きっとセシリアは赤髪の姉ちゃんのことが好きだったんだろうね。

 でも何となくそんな予測はしてた。『初恋』ってやつなのかな?

 セシリアも恋愛経験値とか少なそうだし、士官学校時代に意気投合した赤髪の姉ちゃんにそういう感情を抱いたとしても別に不思議じゃないよね。

 彼女の言うトラウマとは、恐らくその辺りのことなんだろうと推察します。

 まあ、あまり深追いしないであげよう。当人同士で解決する問題だろうし。


 さあ、『血槍』も撃破したし、次に行きましょうかね!




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