三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず報告することでした。
最果ての街を出た俺達はデビルロードを抜け、精霊の丘の先の絶壁をひぃひぃ言いながら降りていきました。
俺はルルをおんぶしてたし、セレンは軽々と岩山を飛び降りていったんだけど……。
タオはもう半泣きしながら俺達に付いてきていました。
いい加減にここ、道を作ってくださいよマジで。
で、数日かけて無事にエーテルクランに到着しました。良かった良かった。
「おい! そこのお前達! 止まれ!」
街の入り口に立つ警備兵に呼び止められました。
相変わらず無駄に長い槍を互いに交差させて職務を全うしています。
「すでに闘技大会は一昨日に終了したぞ! なのに今更この街に何用か! 怪しい奴らめ!」
警備兵のひとりがセレンに槍の切っ先を向けました。
……まあ、確かに怪しく見えるかもしれない。
おもにセレンの恰好が。
「着いた早々、何アルか……。別に街に入るくらい良いじゃないアルか」
俺とセレンの後ろでぐったりしているタオが文句を言う。
それを聞いた警備兵はさらに眼光を光らせました。
「貴様ら……この国の今の状況を知らんとは、さては密入国者だな!」
「ちょ、ちょっと待つアル! どうしていきなりそんな話になるアルか!」
セレンに向けていた槍を後ろにいるタオに向けた警備兵。
この国の今の状況……?
俺達が魔王城に行っている間に何かあったのかな……。
「おい、待て。この怪しい女の横にいる子……。もしかしてカズハちゃんじゃないか?」
「へ?」
もう一人の警備兵が俺の顔をガン見してそう呟きました。
いきなり『カズハちゃん』とか言われても、別に俺はお前のこととか知らないんだけど……。
「んん……? あ、本当だ! あの準優勝のアルゼインさんと互角に戦ってた、貧乳を晒しちゃった子……!」
「……おいこら。今、貧乳っつったか」
腕の骨をポキポキ鳴らし警備兵に近づく俺。
でもすぐに後ろからタオに押さえつけられました。
殴らせて! こいつら殴らせて!
「貧乳を晒した、ということは、カズハはこの街でストリップか何かをしていたということでしょうか」
「幼女がさらっとストリップとか言ったらアカン! 違うから!」
ホントこの幼女は爆弾発言が多いな……!
一体俺を何だと思っていやがるんだ……!
「何だか知らんが、通さぬと言うのであれば我の闇魔法で貴様らを血祭りに――」
「ああもう! いきなり問題を起こそうとしたら駄目アルよ! ルルちゃんも二人を止めるアル!」
「私は別にこの街に用はありませんし、魔王がここで暴れて本物の勇者が現れてくれれば一石二鳥だと思っています」
「もうこのパーティ嫌アル……! やっぱり最果ての街に帰りたいアルー!!」
ついにタオが泣き出しちゃいました。
マジで誰だよ! こんなパーティ組んだ奴!
もうこうなったら仕方がない。
俺が全ての罪を背負うから、こいつらを瞬殺して遺体はどこか海にでも流して――。
「失礼致しました。『カズハ・アックスプラント』様ですね。闘技大会参加者ならば問題ございません。お通りください。お仲間の方々もどうぞ」
そう答えた警備兵は槍を戻し門を開けてくれた。
何だよ……。最初から名乗ってれば簡単に通してくれたんじゃん……。
危うく罪人になるところだったよ。
……。
うん。もうとっくに罪人かも知れないけど……。
◇
久しぶりのエーテルクランの街。
もう闘技大会は終わっただけあって以前よりだいぶ人が少ない。
ていうか大会中が人が多すぎるだけなんだけど。
「もうヘトヘトアルよ……。今日はもう宿でゆっくりしたいアル……」
「あー、そうだよな。じゃあお前らは先に宿をとっておいてくれよ。俺はじいさんの所に寄ってから行くから」
アルゼインもどこにいるか分からないし、とりあえずゼギウス爺さんに会って報告くらいはしておかないとね。
「……ゼギウスか。我も同行させてもらっても良いか?」
「あ、そうか。お前、ゼギウスのこと知ってるんだっけ。じゃあ一緒に行くか」
というわけで二手に分かれることにしました。
「おーい、じいさんー。いるかー?」
ヒュンッ!
「おっと」
鍛冶屋の扉を開いた瞬間にクナイが飛んできました。
もういい加減に止めなさいよこれ……。
「……誰じゃ? おお、カズハか。いつ戻ったのじゃ?」
「うん。今さっきね」
受け止めたクナイをテーブルに放り投げ、俺は勝手に椅子に座ります。
相変わらず埃っぽいなぁ。この小屋は。
少しは爺さんも外に出たほうが良いんじゃないの?
「邪魔するぞ、ゼギウス」
「何じゃ。今日は連れがおるのか。……? お、おぬしはグランザイム!?」
いきなり椅子から立ち上がり叫んだ爺さん。
やっぱり二人とも知り合いだったか。
ていうかそんなに急に大声だしたら心臓止まっちゃうんじゃないの。
歳を考えなさい爺さん。
「久しいなゼギウスよ。半世紀ぶりといったところか」
「へ?」
今、なんと言いましたか?
俺の耳がおかしくなった……?
「そうじゃな。もうそれくらいになるか。……しかし驚いたわい。グランザイムと対峙するとは聞いていたが、まさか本人を連れ帰ってくるとは……」
いや、そんな話はどうでもいいから。
爺さんは歳とってるのは見たらわかるけど、セレンは一体何歳やねん。
え? もしかしておばちゃんなの?
コスプレおばちゃん?
「……カズハ。お前が何を考えているのか、我も少しずつ分かってきたぞ。だがそういう目を我に向けるのは止めて欲しい」
「あ、はい。すいません」
セレンが微妙な顔をしていたので素直に謝りました。
まあ魔族って寿命が長いらしいから、そんなもんなのかも知れないな。
ルルだって見た目は幼女だけど実年齢は不明だし……。
「何があったのか聞かせてもらえるかの。……まあ大体想像はつくのじゃが」
そう言って立ち上がった爺さんは急須に水を入れて沸かし始めました。
俺はその間にこれまでの経緯をかいつまんで話します。
「……なるほど。魔剣が奪えなかった代わりに、グランザイムごと手に入れたと。ふぉっふぉっふぉ、流石はカズハじゃのう」
「だろ? やっぱ俺ってすげぇだろ?」
爺さんに褒めてもらえてご満悦です。
お茶も旨いし、やっぱここに来て良かった!
「ゼギウスよ。もしも知っているのであれば教えてくれ。こやつの強さの秘密は、何だ?」
「あ! おいセレン! お前、もしかしてそれをゼギウスに聞くために付いてきたのかよ! キタねぇぞ!」
……。
…………あ。
今、自分でバラしちゃった……。
ゼギウスが俺の秘密を知っているってことを……。
俺、馬鹿じゃん!
「確かに知っておるが……。それを聞いてどうするつもりじゃ? おぬしはもうカズハの眷属になったのじゃろうて」
やめて! 言わないで爺さん!
俺が過去に二回も魔王をぶっ倒した元勇者だってことを言わないで!
二周目なんて、鼻をほじりながら倒したなんて、絶対に言わないで!
「……ふっ、確かにそうだな。カズハの秘密を知ったところで、我に変わりは無い。聞くだけ野暮というわけか」
どうやら引いてくれた様子の魔王さん。
危ない危ない……。
いや絶対これ知られたら、半殺しじゃ済まないと思います……。
爺さん、ナイス。
「あ、セレンさん。お茶、淹れますね」
「? あ、ああ……。すまんな」
俺は低姿勢でセレンの湯飲みにお茶を入れます。
これからは魔王様を大事にしよう。
うん。これこそ仲間愛だね。
俺たちはズッ友だよ。これからもよろしくね!
 




