015 魔法が使えることの幸せを噛み締めています。
「クソッ! その素っ頓狂なツラ……! 何度見ても腹が立つ……!」
隻眼の大男が何やらぶつくさと文句を言っています。
うーむ。どこで恨みを買ったか全然記憶にないんだけど、どうしよう。
とりあえず謝っておいたほうがいいかな……。
俺ってよく勘違いされるんだよね。
決して相手のことを馬鹿になんてしていないのに、Vサインとかお尻振ったりとかしたら急に相手がキレるパターンがすごく多いし……。
「リンカーン隊長。それとゾルロット副隊長にグラッチ兵士長。いくら相手が魔王とはいえ、すでに魔力の大半を失ったただの人間族に過ぎません。お三方が相手をするまでもありません。ここは我々にお任せを」
そう答えたのは、残りの兵士の中で一番ガタイの良い全身フル装備の鎧を着た兵士だ。
他の兵士達も奴の言うことを聞き、それぞれ得物を構えて俺を取り囲んでいく。
頭が蛇になっている奴、腕がトゲトゲになっている奴、下半身がスライムみたいになっている奴……。
うーむ。これが噂の新生物化した兵士ってやつかぁ。
エアリーみたいな可愛い犬耳エルフっ子は見当たらないね。残念。
「くく、魔王カズハよ。今度は前回のようにはいかんぞ。見たところ神の爪も前魔王もおらぬようだし、我らがこのような姿になった恨みを貴様で晴らさせてもらうしかあるまい」
「グラッチの言うとおりだ。奇跡は二度も続かん。中級魔道士ごときの魔力に落ちた自身を恨むのだな。そして我らに捕えられ、永遠の苦しみを味わいながら世界の崩壊を指を咥えて見届けるがいい」
二本の長刀を背負った男がそう言うと、隻眼の大男以外の兵士らは高笑いをしました。
ただ一人、まったく笑わずに俺の様子をじっと見つめている隻眼の大男。
なんだろう。……一目惚れ?
でも俺、中身男だし結婚もしてるんですけど……。
「……油断はするな。必ず殺さずに生け捕りにしろ。これでジェイド様の指令を完遂し、最終段階に移行できる」
それだけ答え、数歩離れた場所で俺を監視することに決めた隻眼の大男。
背負った重剣を抜き地面に突き刺し、腕を組みながら傍らの二人の幹部に首だけで合図を送った。
ええと、つまり最初はこのザコ兵士と戦えってことかな。
数は十二。
まあ腕試しにはちょうど良い数なのな。
「じゃあ、いきますか。ちょっと久しぶりだから戦い方を忘れちゃってるかも知れないし」
俺は首の骨を軽く鳴らし、全身のストレッチを始めます。
「……『戦い方』? 一体何の戦い方だと言うのだ?」
訝しげな表情を浮かべ、そう答えた隻眼の大男。
だから俺は一言、こう言ってあげたのでした。
「魔法の戦い方」
「!!」
地面を蹴り、森の木々を切り倒し上空に急上昇。
それだけでちょっと頭がふらっとしたけど、問題なし。
俺は上空で空間をタップし、魔法のウインドウを出現させます。
うーん、やっぱ上位魔法はまだ使えない感じかぁ。
だとすると今までに覚えた通常魔法を組み合わせて戦わないと、奴らに勝つのは難しいよね。
……。
…………。
「…………ふふ、うふふふ。なんか久しぶりに縛りプレイ的なこの感じ……! 剣も無い、魔力は大幅減、使えるのは通常魔法と、ちょっとしか覚えてない格闘・フリースキルくらいか。ああもう、なんか興奮してきた! ビクンビクンしちゃう!」
「馬鹿め! 上空に逃げたところで、我らは新生物兵士! 羽の無い貴様に逃げ場など無いわ!」
俺の後を追いかけるように、三体の化物兵士らが猛烈な勢いで急上昇してきました。
うわー、空も飛べるんだー。なにそのチート。
あれ多分、フェアリードラゴンの新生物因子を注入したんだろうね。
んじゃ、その羽、燃やしちまおう。
「《フレイムガトリング》!!」
「なっ……!?」
そのままウインドウを操作し、ノーチャージで火魔法を発動。
まるで機関銃でも撃つかのごとく、火の弾丸が化物兵士らを襲う。
それらを紙一重で避けた兵士達。
「た、隊長……! 確か奴は魔法が使えないのでは……!?」
「おい、喋っている暇など無いぞ! 次の攻撃に備えろ!」
俺は続けざまに火魔法のウインドウに記載されている通常魔法をランダムに選択していきます。
ファイアーボール、ファイアランス、ファイア・イクスプロウド、ファイア・サーヴァント……。
ほーれ、燃えろ燃えろ。
火力は全然弱いけど、こんだけ連続で発動されたら避けるの大変だろ。
「ほう……? 魔術禁書による属性消失を克服したとなると、これは――」
「ちっ、ジェイド様の懸念の一つが悪いほうに当たってしまったというわけだ。オルダイン卿め……! やはり『無の媒体』の開発に成功していたか……!」
「成程。であれば、かの研究所を襲わせたのは功を奏したというわけだな。連邦国の正規兵に、わざわざ政府指定危険魔獣のギガントキマイラまで出動させたのだからな。サンプルの一つくらいであれば、無能な連邦国兵にでも持ち帰れよう」
……何だか下のほうでお偉いさんのお三方がごちゃごちゃ雑談していますが。
もしかして、俺が魔法を使えるようになったのを奴らに知られちゃったら、また俺、怒られる……?
でもさすがに魔法まで縛ったら戦いようが無いし、仕方ないよね。
うんうん、仕方ない。こうなったら全員、口封じをするしかない。
よーし、待っててね。次は陰魔法の出番だから。
ふふ、うふふふふ…………。
――そう考えていたときの俺の顔が、めっちゃ悪い顔になってたことは言うまでもなく。




