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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第六部 カズハ・アックスプラントと古の亡霊(後編)
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007 どうしていつもこうなっちゃうのか誰か教えて下さい。

 …………うん。

 どうしよう。みんな、今の話聞いた?

 なんで? どうしてバレちゃったの?

 俺の素敵作戦、一瞬で終了しちゃったんだけど……。


 いやさ、この検査室、あまりにも空調が利いてて気持ち良くてさ。

 ちょーっとだけ仮眠するつもりがマジ寝しちゃったんですよ。

 で、なんか室内がゴチャゴチャうるせーなーって思って、ちょーっとだけ薄目を開けたら皆で俺を取り囲んでいるじゃないですか。

 そんで俺の悪戯心が擽られて、このまま寝たふりして俺の悪口でも言わないか聞き耳立ててたら、これですよ。

 黒剣が奪われたのが一瞬でバレちゃっただけでもおしっこちびりそうになったってのに、何?

 『誰かがその黒剣を抜いたから、俺の魔力が漏れちゃってる』って?

 もうちびるどころじゃなくて漏れちゃいますよ。俺の魔力じゃなくておしっこのほうが。


「…………」


 どうしよう……。みんな深刻な顔をしてる……。

 たしか黒剣をジェイルに奪われたら、もう世界が終わっちゃうんだよね?

 ……あーやっちまった。俺の人生もここでジ・エンドみたい。

 このまま俺の魔力は底を突くまで吸われ続けて、俺はミイラになって惨めな死を迎えるのか。

 本当にごめんね。こんな終わり方で。

 でも悪いのは全部ゼギウスの爺さんだから。

 あんな使えない上に危なっかしい剣を作るからこういう結末を迎えちゃったわけで。

 俺は決して悪くないし、アゼレスト山脈が崩壊しちゃったのも最終的な責任者はゼギウスの爺さんなわけで。

 ……あ、いや別に言い訳をしているんじゃないよ? 事実を述べているだけだよ?

 良心の呵責にさいなまれて頭おかしくなっちゃったわけじゃないよ。俺は正常。至って正常。

 言い訳なんて男がするもんじゃないからね。


「……ふっ」


 ……あれ? 今、なんかユウリが俺を見て鼻で笑った気が……。

 いやいや、空気読もうよ金髪のイケメン。ここ笑うとこ違うから。

 みんな死んじゃうんだよ? 世界、滅んじゃうんだよ?

 それともユウリも頭おかしくなっちゃったか。

 もうこうなったら一緒に死んで幽霊になってゼギウスの爺さんでも呪ってやろうぜ。

 うん。それが良い。そうしよう。

 ユウリだって三周目の世界でゼギウスの孫設定とか、本当は嫌だっただろうし……。

 心中察します。


「ど、どうされるのですかユウリ殿! 本物の黒剣を奪われたということは、それはつまり――」


「うん。恐らくユーフェリウス卿の手に渡り、それが彼の手によって抜かれた、と考えるのが妥当だろうね」


 グラハムの問いにあっさりとそう答えたユウリ。

 いやいやいや、軽い! 軽すぎる!

 『うん。』じゃねぇよ! 爽やかすぎるよ! その笑顔いらないよ!


「……ユウリ君。その様子だと、君はこうなることを・・・・・・・あらかじめ・・・・・予測していた・・・・・・、という風に私の目には映るのだが、違うかね?」


 グラハムとユウリとの会話に口を挟むガゼット博士。

 ……あれ? なんか風向きが変わった……?

 『予測していた』……? 何を?


「ふふ、さすがは博士。その素晴らしい観察眼は世界が何度輪廻しても尚、健在なのですね」


 そう答え爽やかに笑ったユウリ。

 そして手に持ったままの偽の黒剣を皆に見えるように構え、その刀身を抜いた。


「ふぁっ……! …………」


 危うく声が出そうになり、慌てて喉の奥に飲み込みます。

 いやいやいや! 確かに一本は偽物だけど、もう一本は本物だから!

 もしも本物の方を抜かれたら、俺の魔力は二倍で駄々漏れになっちゃうから!

 殺す気か!! 俺をミイラにするのがお前の目的なのか!!


「……今、カズハ起きなかった?」


「え? いや、拙者は気付かなかったが……?」


 ルーメリアに睨まれ、俺は冷や汗を垂らしつつ寝たふりを再開します。

 危ない危ない……! ここで起きたら、ミイラになる前にルーメリアに血祭りにされちゃうよ!

 だって怒ると本気で怖いんだもん、この子!


「こっちの黒剣は刀身も鞘も偽物だね。……で、こちらの黒剣は――」


「…………!!!」


 明らかに俺の様子を見つつ、ユウリはもう一方の本物の黒剣も鞘から抜きました。

 途端に魔力が抜けていく感覚が俺の全身を襲います。

 何してんの!? 本当に殺す気なの!? それとも俺の反応を見て楽しんでるの!?


「ふふ、こっちは本物だね。つまり、奪われたのは二本の黒剣のうち・・・・・・・・一本だけ・・・・だということになる」


「ゆ、ユウリ殿……! もしもそちらの黒剣が本物なのだとしたら、鞘から抜いたらカズハ様の魔力がさらに放出されてしまうのでは……!」


 堪らずグラハムがユウリに詰め寄りました。

 いいぞ、グラハム……! もっと言ってやって!

 俺を虐めてそんなに楽しいのかって、言ってやって!


「もう、一体何を調べているのよユウリ! いい加減にどういうことなのか、私達にも分かるように教えてよ!」


 グラハムに続き、ルーメリアもユウリに詰め寄ります。

 いいぞ、ルーメリア……! もういっそのこと殴っても良いよ!

 イケメンをギャフンと言わせてやれ! 俺が許す!


「……そういうことか。黒剣――血塗られた黒双剣ブラッディ・スパーディオン。奇剣をこよなく愛するゼギウス・バハムートらしい仕掛け・・・というわけだね」


「? どういうこと? お父さん?」


 何かに気付いた様子のガゼット博士。

 『仕掛け』……? え? あの爺さん、まだなにか黒剣に仕掛けをしてたの……?


「簡単な推理だよ。ジェイドの手に渡ると非常に危険である黒剣――。それをカズハ君自身に持たせること自体が多大なリスクを背負うことになるのは承知の上のことなのだろう。私はカズハ君のことをよく知っているわけではないが、聞く話によると彼女は仲間を決して見捨てられない性格なのだとか。当然、敵はそこに付け込む可能性が高いし、それを熟知しているユウリ君やバハムート殿であれば対策を講じていてもなんら不思議ではないだろうからね」


 いとも簡単にそう言いのけたガゼット博士。

 いや、ちょっと待って!

 なんで俺が黒剣を持ってたら多大なリスクを背負うことになるの!

 だって持ってろって言ったのはゼギウスの爺さん――。

 …………あれ?

 でもどうして爺さんは俺に『持ってろ』って言ったんだろう。

 奪われたら俺は死んじゃうやら、世界は滅んじゃうやらのヤバい黒剣を……?


「ユウリ君。これは私の推測だが、黒剣の本来の力・・・・刀身ではなく・・・・・・鞘のほうに・・・・・あるのではないかね・・・・・・・・・?」


 ………………はい?


「御名答です、博士。あの魔王城の地下に眠っていた化物、真の魔王の持つ武器素材から作られた血塗られた黒双剣ブラッディ・スパーディオン――。ゼギウスはその素材のほぼ全て・・・・を刀身ではなく鞘に使用しました。仰るとおり、黒剣の持つ能力は刀身ではなく鞘に備わっているものです」


 ………………はい?


「刀身は余った素材で作っただけに過ぎない代物ですが、そこは名工ゼギウス・バハムート。彼の腕により魔剣や勇者の剣に劣らぬ切れ味を誇っているのは周知の事実ですね。ですが所詮は余った素材で作った剣。陽属性の付与魔法が施された特注の鞘で魔力を封印し、刀身を抜いた際に・・・・・・・・本物の鞘に・・・・・込められた魔力が・・・・・・・・解放する仕掛け・・・・・・・ですが、すでにゼギウスに魔法便で連絡し、その仕掛けを解除してもらっています」


 ………………はい?


「つ、つまり、どういうこと……? 黒剣を奪われたけど、世界は崩壊しないし、カズハは魔力を吸われてミイラにならないってことなの?」


「そういうことになるのかな。でも魔剣級である黒剣の刀身を奪われたことは、僕らにとって戦力減になることには変わらない。でもそれは想定の範囲内だし、それよりも僕はこれまで黒剣を使用してきたカズトがゼギウスの仕掛けに気付くんじゃないかと危惧していたのだけれど、まったく気付かなかったことが良い意味で誤算だったよ。神獣との戦いの後にカズトと連絡が途絶えた際にこの展開は想定していたから、すぐに対処できたことも大きかったかな」


「…………」


 ……鞘。黒剣の力の本物の部分・・・・・は、鞘――。

 しかもその鞘は帝都にあって、ゼギウスが管理してる――。

 そういえば、ゲイルの刀を黒剣の鞘で封印したことがあったよね。

 あのときはまだ本物の鞘で、俺達が帝都を出発する前にゼギウスが偽物にすり替えておいたってことになるのかな。

 ……うん。だからあんな平気な顔で俺に黒剣を託した、と。

 ジェイドに奪われることが想定済みで、神獣戦のあとに俺から連絡がなかなか来なかったから、先回りして鞘の能力を封印したと。

 見事な連携ですね。ユウリとゼギウス。魔王軍の宰相の二人。


――ゴゴゴゴ。


「な、なんでしょう……! 地震……?」


 怯えるグラハム。

 もうアカン。我慢限界。臨界点突破。

 俺は目を見開き、診察台の上に立ちあがる。


 そして、ユウリを指差して、こう叫びました。



「くぉの、くそイケメンがあああぁぁぁぁぁ!!! そういうことは、先に言っておいてよぉぉぉぉ!!!」



 ――俺の空しい叫び声が天を貫きました。




 しかし、後にルーメリアから散々非難されたことは言うまでもなく――。




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