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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第六部 カズハ・アックスプラントと古の亡霊(後編)
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005 難しいことはよく分からないからスルーの方向で。

 ゲヒルロハネス連邦国、魔法都市アークランド。

 港町ガイトを出発した俺は無事にこの街まで到着することができました。

 ユウリ達との落ち合い場所は、あのセクハラ爺がいる研究施設だ。


「よーし、深呼吸、深呼吸。俺の演技は完璧。俺は女優。きっと奴らを騙せるはず」


 道中で何度もそう自身に言い聞かせてきました。

 こんなにそっくりな黒剣があったなんて、俺の大殺界はもう終了したに違いない。

 これならば絶対にユウリ達を騙せる。うん、大丈夫。

 問題なのは神獣に奪われた本物の黒剣のほうなんだけど――。


「まあいきなりジェイドに届けられちゃうなんてことは無いでしょ。うんうん、無い無い。そんなこと」


 きっとこの国の何処かに転移されているはずだ。と思う。

 ユウリ達と合流して、あのセクハラ爺さんに得意属性を復活させてもらえば、俺はもう水を得た魚だ。

 ガンガン魔法を使いまくって奴らの目を欺き、すぐにでも黒剣を取り戻してみせるもん……!


「……ふふ、うふふふふふ。キテる。今の俺、絶対にキテる」


 研究施設の前まで辿り着いた俺は、もう一度深呼吸をします。

 でもどうしてもニヤニヤが止まりません。

 だって俺、今まで散々みんなに騙されてきたから、今度は俺が騙す番だと思うと嬉しくて嬉しくて――。


「……なにしてんの、カズハ。人の研究所の前で気持ち悪い笑みを浮かべてブツブツブツブツ」


「誰が気持ち悪い――あっ! ルーメリアさんですか!」


 急に扉が開き、中から現れたのは怪訝な表情をしたルーメリアでした。

 ……つい意表を突かれてルーメリアを『さん』付けして呼んじゃった。

 落ち着け、落ち着くんだカズハ。俺は女優。演技派女優なんだ。


「それにその格好。どうして浴衣なんて着ているのよ……。貴女、あの神獣と戦ってたんでしょう?」


「う……。そ、それは海よりも深い事情が御座いまして……」


 ルーメリアの鋭い突っ込みに俺の目は泳ぎまくります。

 アカン。いきなりピンチだ。冷や汗が止まらない。

 落ち着け、落ち着くんだカズハ。俺は役者。大根役者なんだ。

 …………誰が大根役者だ!!


「ゆ、ユウリ先生とグラハムの馬鹿は? 中にいるの?」


「いないわよ。これから迎えに行くところ。お父さんがもう中で待っているから、貴女は先に検査室で準備をしてて」


 それだけ言い残したルーメリアは、さっさと俺の横を通り過ぎて街の中央のほうに行っちゃいました。

 ……なんか、すごく機嫌が悪い気がする。どうしたんだろう。反抗期かな。

 いや、それとも俺の黒剣の偽装に気付いたとか……?


「…………」


 ゴクリと唾を飲み込んだ俺は、とりあえず言われるがまま研究所に足を踏み入れました。





「やあ、いらっしゃい。君がカズハ君だね。初めまして――というわけでは無いようだがね」


 扉を開くと、そこには見慣れた顔の初老の紳士が俺を出迎えてくれました。

 魔法遺伝子研究の権威、ガゼット・オルダイン博士。

 あのジェイドとは同じ研究所で働いていた同志というわけだ。


「……一応、一通りはユウリから話を聞いたって顔をしてるな、おっさん」


 俺は軽く溜息を吐き、研究施設の中へと入って行きます。

 このおっさんとは過去世界で一度……いや二度ほど会っているんだけど、あんまり良い思い出がないような気がします……。


「さあ、早速で悪いが検査をしよう。そんなところで突っ立っていないで、こちらに来たまえ」


「あっ……」


 腕を掴まれ、強制的に廊下を歩かされます。

 うん。なんかめっちゃ嫌な予感がするんだけど……。


「ここが検査室だ。君の過去の記憶に残っているこの研究所がどんなものかは知らんが、以前にも検査はしたのだろう?」


「……はい」


 廊下を歩き先に進むと、突き当りにある部屋の扉が自動で開きました。

 あー、なんか見た覚えのある機器がいっぱい並んでる……。


「じゃあ、この診察台に寝そべりなさい。それと、その浴衣は全部脱いで、そこの籠に置くんだ」


「……」


「聞こえなかったのかい? 衣服を着ていると検査ができないから、全部、脱ぎなさい」


 …………うん。

 やっぱこういう展開になりますよね。

 俺は言われるがまま浴衣を脱ぎ、籠に服を置きます。

 その間、ガゼットのおっさんはガン見だったけど……。

 過去の世界でもう十分慣れたからいいや。無視。


 診察台に寝そべり、色々な機械から生えているコードを繋がれます。

 そしてゴーグルを装着されて診察がスタート。


「……やはり君はユウリ君の言っていたとおり属性消失者エラーなのだな。そして過去世界の私・・・・・・は君にこう伝えた――。『対応する魔術禁書があれば、消失した属性を復活させられる』、と」


「ああ、確かにそう言ってた。メビウスの婆さんもそんな感じのことを言ってたしな」


 ……そういえばメビウスはちゃんと帝都で大人しくしているのだろうか。

 あいつ神出鬼没だから、いつも何処にいるのかまったく分からないんですけど……。


「失われた属性を復活させるには、私が長年研究してきた『無の媒体ゼロ・メディウム』と呼ばれる因子が必要だ。……まあ、一言で言えば娘のルーメリアに注入した無毒化された無属性因子のことなのだがね」


無の媒体ゼロ・メディウム……?」


 ……うん。

 難しい話になりそうだし、その辺はあとでユウリに分かりやすく説明してもらうから遠慮しておこう。

 それよりも検査が終わったんだったら早く服を着させてください。

 一応俺、女の子なんですけど。


無の媒体ゼロ・メディウムを投与すれば、君にもその魔導識別器具ディスクリミナル越しに見えている色を失った楕円形の魔法核と、ユウリ君が所持している火と陰の魔術禁書を細分化して得られる魔法元素オールエレメントが融合を開始するはずだ。つまりは『媒体』――。私の研究は医療の分野に特化しているので、こういった使い方が世界中にある魔法遺伝子研究所に広まれば、不治の病によりその尊い命を失う者が限りなく減り――」


「…………Zzz」


「…………寝とる、のか?」


 …………はっ!

 いけない、いけない。

 素っ裸のまま寝ちゃうところだった。

 おっさんの話は長いし難しいし退屈だし、子守唄にしか聞こえないんですけど……。


「ま、まあ良い。検査はこれで終了だ。そのうちルーメリアがユウリ君達を連れてくるだろう。属性復活手術までは好きにしているといい」


 それだけ答えたガゼットは俺に手を振り、検査室を出て行きました。

 ……あー、なんか疲れた。

 ここに来るまでに色々あったし、旅の疲れもあるのかなぁ。

 すっごい肩が重いし、なんか魔力が抜けていってるような錯覚すら覚えるんだけど……。


「……」


 ……だ、大丈夫。気のせい気のせい。

 俺はただ疲れているだけ。

 ちょっと仮眠して、美味しいものを腹いっぱい食べればまた元気になるはず。

 


 ――大きく伸びをした俺は浴衣を羽織り、そのまま診察台で仮眠をとることにしました。




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