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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第五部 カズハ・アックスプラントと古の亡霊(前編)
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033 サービスしたんだから黒剣を探すの手伝ってください。

「ん……。むにゃむにゃ……。……あれ? ここ、どこ?」


 目を覚まし、周囲を見回します。

 まだなんだか頭がぼーっとしてて、視野が定まりません。

 ……あれ? なんか両手を鎖みたいなので繋がれてて、ベッドの上にでも寝かされてるのかな……。

 うーむ。これはきっとアレだ。

 拉致ってやつだ。


「お目覚めかな、お嬢さん。……しかしまあ、目覚めないほうが・・・・・・・・幸せだったかも知れないがね」


「…………はい?」


 声がしたほうに視線を向けると、古びた椅子に座った見知らぬおっさんがこちらを向いているのが確認できました。

 ……誰?


「ああ、自己紹介がまだだったか。私の名はフェイ。しがない古物商さ。それにしてもお嬢さんは不運だねぇ。どうしてこんな貧困層しか住まないような危険な集落に、たった一人で、しかもそんな浴衣姿で来たんだい? そんな格好じゃ『襲ってくれ』と言っているようなものだろう。それとも、そういうの・・・・・が趣味なのかな?」


 椅子から立ち上がらず、おっさんは腕を組んだまま淡々と話します。

 あー、そういえば温泉宿のおばちゃんに貰った浴衣を着たままだったっけ……。

 髪もこの前、アゼルライムスの美容院でバッサリと切ってセミショートにしたばかりだし、もしかして俺が魔王だって誰も気付いていない感じなのかな。

 あれだけ手配書が出回ってるっつうのに……。


「……ん? ていうか『フェイ』……? おっさん、もしかして、俺の黒剣を持ってる……?」


 立ち上がろうとするも、まだ頭がぼーっとして身動きがとれません。

 なんか昔よりもさらに状態異常魔法に弱くなった気がする……。

 やっぱこれも得意属性の消失が原因なんだろうか。

 早いとこ火と陰の属性を復活させないと、あのクソジェイドには勝てないかも……。


「黒剣? はて、何のことか分からんが、それよりも自分の身を案じたほうが良いのではないかね。この辺鄙な集落に若い女がいるというだけで、野蛮な男共がぞろぞろと店に集まってきているのだよ。さっさと終わらせて・・・・・もらわないと・・・・・・、商売にならないのだが」


 おっさんがそう言った直後、店の奥の扉が開きました。

 そして確かにぞろぞろと男共が俺の周囲に集まって来ます。

 ……うん。

 『終わらせる』って…………何を?


「――ていうか、ここにも黒剣が無いのかよ!! マジでどこに行っちゃったの!? 俺の剣!!」


 どうしよう。ヤバい。本格的にヤバい。

 一本どころか二本とも無くしたなんて言ったら、確実に干される。仲間達に。

 世界が滅亡するよりも、そっちのほうが怖い。

 なんかお腹痛くなってきた。泣きそう。泣いていい?


「はは、この女、泣いてやがる! 今更怯えたところで、どうにもならねぇよ!」

「おら! その浴衣、剥いでやるよ!」

「うっひょう! そそるなぁ……! 女の白い肌、久しぶりに拝ませてもらうぜ……!!」


 俺を取り囲んだ男共の歓声が上がる。

 なんか色々と全身を触られているけど、俺の意識は仲間への恐怖に降り注がれています。

 どうしたら、奴らなかまに俺の失態を知られずに、事を大きくせずに、事態を収束することができるのか――。

 考えろ、考えるのだ、カズハ。

 おっぱいを触られようが、尻を撫でられようが、頬にちゅっちゅされようが知ったことか。

 泣いてないもん。負けないもん。

 歯を食いしばってでも、黒剣を探し当てて見せるもん……!


「はぁ、はぁ……! その表情、たまんねぇ……!!」

「お、俺、もう我慢できねぇ!!」

「おい! てめぇキタねぇぞ! 俺が先にヤる! お前にだけは譲らねぇぞ!!」


 一斉に飛びかかってきた男共。

 絶体絶命。俺の『女』としての貞操は、ここで脆くも崩れ去る――。

 ――ん? あ、そうか。 

 こいつら確か、瑠燕リュウヤンの手下って言ってたよな。

 闇ブローカーだったら、探し物とか得意だろ。たぶん。

 古物商のフェイって奴も目利きくらいできるだろうし。


「……よし」


 はだけた浴衣を気にもせず、気合を入れた俺は大きく息を吸った。

 そして両腕に力を込めて、一気に魔力を放出する。


「おらああああああああああ!」


「「うぎゃああああああ!?」」


 バキィンという音と共に鎖が千切れ、ついでに飛び掛かってきた男共が店の外まで吹き飛ばされていった。


「……え? あれ? …………はい?」


 目を瞬かせている古物商のおっさん。

 俺はゆっくりとベッドから降り、軽く肩の骨を鳴らす。

 そして奴に背を向けて浴衣を直し、丁寧に帯を巻いた。


「決めた。おい、そこの古物商のおっさん。それと今、俺にぶん殴られなかった残りの闇ブローカー共。俺の黒剣を集めるのを手伝え」


「…………」


 さっきまでの威勢は何処へ行ったのやら。

 闇ブローカー達は全員縮み上がり、呆然と立ち尽くしている。

 何が起きたのかさっぱり理解できていない様子です。

 うーん、ここで俺が魔王だとバラしても良いんだけど、せっかく気付いていないんだから内緒にしておこうかな。


「聞こえた? お前ら今、ちょっとだけいい思いをしただろ? だから手伝ってよ。本当に困ってるの。お願いします。助けてください。助けなさい」


「…………」


 返事がない。どうしよう。殴ればいいかな。

 恐怖を植え付ければ言うことを聞くのだろうか。

 今までちゃんと部下に命令をしたことがないから、どうしたら良いのか分かんない。


「……は、はは、はははは! これは傑作だ……! その力、どうやって手に入れたのかは分からんが、あの男共を一撃で気絶させるとは……!」


 今まで黙っていた古物商のおっさんが、急に豪快に笑い椅子から立ち上がりました。

 でもちょっと声が震えているので、俺にビビっているみたいです。


「黒剣を探していると言ったか。い、いいだろう。お嬢さんに協力しよう。それはどのような剣だ?」


 そう質問した古物商のおっさんは、闇ブローカー達に視線を泳がせました。

 あー、これアレだね。合図だね。

 また俺のケツに針みたいなのを刺して、気を失わせようとかしてるんだろ。

 そんなに何度も刺されたらたまったもんじゃない。ケツが荒れる。

 俺は瞬時に動き、古物商のおっさんの背後に回った。


「なっ……!?」


「おっさん。こいつらに命令しろ。伝説の鍛冶職人『ゼギウス・バハムート』の銘が刻まれた黒剣だ。この街のどこかにあるから、見つけてこいって」


「痛い痛い痛い痛いっ! 耳……! 耳が千切れる……!! ひいぃぃ!!」


 後ろから両耳を引っ張り、おっさんを脅します。

 やっぱ暴力で命令しないと駄目だよね。相手は悪い奴なんだし。

 ほーら、耳が千切れちゃうぞー。


「わ、分かった! すぐに探させる! お、お前ら、ぼうっと見ていないでさっさと行け! 全力で探せ! 黒い剣を見つけたら、私のところに持ってくるのだー!!」


「……く、黒い剣だな! おい、行くぞお前ら!」


 慌てて店から飛び出していく闇ブローカー達。

 よしよし。これで安心だ。

 あとはあいつらに任せて、俺はゆっくり骨董品でも眺めていよう。



 俺は古物商のおっさんの耳を引っ張りながら、ほっと溜息を吐きました。




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