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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第五部 カズハ・アックスプラントと古の亡霊(前編)
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030 悪いことって、どうしてこう続くんだろう。

 ゲヒルロハネス連邦国、港街ガイト。

 ミネアの大渦で神獣のケツから逃げ出した俺は、無事にここまで泳ぎ着きました。

 どうやら奴も追ってくる気配はしません。

 まあ魔導増幅装置アヴェンジャーを壊されてめっちゃ泣き喚いていたから、後できっとお偉いさんに怒られるんだろうね。


「お、おい……! 港に誰か流れ着いたみたいだぞ……!」

「ほ、本当だ! しかも全身の服がボロボロで、あられもない姿になっている若い女だ……!」


 海から上がると、何故か周りに人だかりが出来はじめました。

 あー、アカン。

 こんな男共にとったら魅惑の姿でカズハちゃんが登場したら、みんな前屈みになっちゃうよね。

 その辺で布でも借りて適当に身体に巻いたら、さっさと新しい服を新調しに行かなきゃ。


「どうもー。ごめんね、こんな姿で。さすがに恥ずかしいから、服屋の場所を教えてくれません?」


 胸を片手で隠し、軽くウインクをして町人に話しかけます。

 これぐらいサービスしても、バチは当たらないだろうし。


「く、臭い……! 臭うぞ、この子!」

「ああ、クサいな……! まるで巨大な化物にでも喰われて、排泄物として出されてきたばかりのような臭いだ……!」


「……」


 人だかりが、徐々に俺から離れていきます。

 俺はウインクをしたまま固まってます。


「服屋よりも、さっさと風呂に入ったほうがいいぞ、姉ちゃん……! そこの角を曲がって、商店街の先を行くと風呂屋があるから、全身綺麗に洗ってきな!」


「あ、はい」


 鼻に指を突っ込んだまま、おっさんの一人が俺に布を投げ渡してくれました。

 ……自分の首に巻いてあった、汚れて真っ黒になってる布だけど。

 でも何もないよりはマシか。贅沢は言っていられない。

 俺はそれを胸に巻き、おっさんに礼を言います。


「悪いな、おっさん。この布はあとで返す――」


「いいから、いいから! 臭いから、早くどこへでも行っちまいな!」


「あ……」


 親切なおっさんはそのまま逃げるように俺の元から去っていきました。

 ……クンクン。そんなに臭いかな……。

 なんかドラビンの背中の腐ったところに閉じ込められて以来、嗅覚がおかしくなった気がする……。


 それに、町人たちの視線が、痛い。

 もはや俺は突然海から現れたウンコ女だ。

 逃げよう。ここには、いられない……!


 涙を堪えた俺は、その場をダッシュで去っていきました。





「はぁ~~…………。生き返る…………」


 親切なおっさんに教えてもらった銭湯。

 まだ開店したばかりみたいで、客は俺以外に誰もいません。

 店員のおばちゃんにめっちゃ怪しまれたけど、とりあえず1000Gを渡したら満面の笑みで招き入れてくれたので助かりました。

 頭と身体を隅々まで三回洗って、ようやく湯船に浸かり落ち着いたところです。


「あのおばちゃん、俺のクサい服も全部捨ててくれるって言うし、店の浴衣もくれるって言うから助かっちゃったなぁ。やっぱ世の中、金だよね。ユウリからお小遣いを貰っておいて良かったー」


 ちょっと前までは12億Gとか持ってたんだけどね。

 全部エルフィンランドにあげちゃったし、またセコセコ金を稼がないといけないかな。

 そういえば、魔法都市アークランドにはルーメリアが働いていたショーパブがあったよね。

 あっちに到着したら、ちょっとだけ働かせてもらおうかな。

 俺だったら一気にスターになること、間違いなしだし!

 ……。

 …………。


「じゃなくて! 早くユウリ達と合流して、黒剣取られちゃったことを報告しなくちゃ!」


 ザバーンと音を立て、慌てて風呂から飛び出します。

 いかんいかん、観光に来たんじゃないんだから!

 俺の火と陰の属性も復活させないといけないし、やることいっぱいあるんだった!


「ええと……あれか。おばちゃん、サンキュー!」


 着替えを入れる籠に真新しい浴衣を発見した俺は、濡れた身体を拭いてすぐに着替えました。

 よし! もうこれでいいや!

 服屋はユウリ達と合流した後にアークランドで買えばいいし、とりあえず魔法便で奴らが今どこにいるのか聞いて――。


「……あれ? 黒剣は?」


 ウインドウを開き、魔法便で簡単な文を送ろうとした俺は、黒剣が無いことに気付きました。

 ええと、確かあの臭い服と一緒に置いておいたはずなんだけど……。


「……うん。え? ええ? まさか……えええ!?」


 一旦ウインドウを閉じ、慌てて店員のおばちゃんの元に駆けだします。

 俺の姿を確認したおばちゃんは、すぐにまたあの満面の笑みに変わりました。


「お湯加減は如何でしたか? その浴衣もサイズがぴったりでお似合いですねぇ」


「いやいや、そんなのいいから! おばちゃん、俺の服の隣に置いてあった剣はどうしたの!」


「剣……? ああ、あの黒く汚れた剣ですね。お客様の服にこびり付いた汚れ以上に汚く黒ずんでいたので、そのまま汚物回収業者に渡して処分してもらおうと思いましてね。つい先ほど回収して行きましたが……」


「……ああ……あああああ…………」


 その場で頭を抱えて蹲る俺。

 あれは汚れて黒いんじゃないの! 黒剣なの! ああいう色なの!!

 確かに黒剣もちょっと臭ってたから、気を利かせてついでに捨ててくれたんだろうけど……!

 ヤバい! もう完全にユウリ達にボコボコにされる!

 奴らに知られたら、俺の尊厳が崩壊する……!


「どこ! その汚物回収業者って、どこにいるの!」


「あ、ちょっと、お客様……! 落ち着いて、下さいませ……!」


 おばちゃんの服を掴み前後に揺らします。

 あ、ヤバい。おばちゃん気絶しそう。

 ここで情報が途絶えたら、それこそ黒剣を見失っちゃう。


「げほ、げほっ……。あの業者は委託ですから、燃える物と燃えない物に分けて、それぞれ処理をすると思います……! 回収された刀剣でしたら、鍛冶師に渡されて部品のみを再利用されるか、はたまた古物商に渡されて売られるか……。ですがアレは汚物として回収してもらいましたので、恐らく汚物処理場に――」


「汚物処理場……!」


 せっかく今、風呂に入って綺麗になったばかりだというのに、これから汚物処理場に行かなきゃいけないのか……!

 マジで! もう最悪なんですけど!


 でも我儘を言っていられない……!

 黒剣を一本ならず、二本とも無くしたなんてことになったら……ひいいぃぃ!!

 考えただけでも恐ろしい! 絶対に、フルボッコだ……!


 俺はおばちゃんから手を放し、汚物処理場の場所を聞いて猛ダッシュで向かいました。




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