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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第五部 カズハ・アックスプラントと古の亡霊(前編)
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029 新しく生まれ変わった俺は例のアレでした。

あけおめです!

新年一発目はウ〇コになったカズハちゃんです!

 青い空。白い雲。

 ついさっきまで雷雲に覆われていた空も、今は快晴です。

 なんかよく分からないけど外に出られたし、もうそろそろ退散しようかと思うんですけど……。


「……ん? あれ? ていうか俺、どこから出てきたんだ……?」


 宙に放り出されつつ、眼下に広がる蛇の巨体を眺めます。

 うーん、口からじゃなさそうだね。

 ……。

 たぶん、あの背中の上のほうについている、ちっちゃな穴から出てきたっぽい。

 なんだろう……毛穴?

 でも俺、たしか奴の胃液みたいなのに流されたよね。

 ……。

 …………。


「あれ絶対、ケツの穴だろっ!!! うわ、きったね!!! マジか! 最悪だあああああ!!!」


 叫び散らした俺は、そのまま海のど真ん中に落下。

 ああもう、なんか臭いし! ベトベトが取れないし!

 俺はウンコじゃねぇっつうの!!


『許さん……許さんゾ、魔王……! 一度ならズ、二度までもこの俺をコケにしやがっテ……!!』


 再び全身に防護魔法を纏った神獣は海底深くに潜り、俺を追いかけてきます。

 いやいや、それは俺の台詞だろうが!

 黒剣奪われて全身の服を溶かされた挙句、ウンコとしてこの世に生まれてきたんだぞ!

 これ以上惨めな人生があってたまるか!!


「追いかけてくんなよ! もう逃げるの! お前とは戦わないの!」


 どれだけ海中で逃げ回っても、執拗に追いかけてくる神獣。

 いったい俺に何の恨みがあるっていうの?

 人様に迷惑をかけるような子じゃないはずなんだけど、俺。


 それよりも、早く連邦国に向かわないとヤバい。

 いつ、どんなタイミングで鞘から黒剣を抜かれるか分からないし……。

 そんなんじゃ不安で夜も眠れないよ!


『逃げられるとでも思っているのカ……!』


「うわっ!」


 間一髪、大きく口を開けた蛇の頭を避けた俺。

 駄目だ。逃げきれない。

 どうしよう。また食べられちゃうのかな……。


「これ無理ゲーだろ! 外からじゃ魔剣じゃないとダメージが通らないし、体内から攻撃したって蘇生能力の方が上だろうし、どうしたらいいの!」


 あの防護魔法だってリリィが使うくらいの強力な魔法だろうし……。

 そんなにカタくして、どうすんねん!

 必要ないだろ! 防護魔法!


「……ん? 必要、ない……?」


 そういえば、どうしてあいつは防護魔法なんて使うんだろう。

 最初は魔剣対策だと思ってたけど、俺が魔剣を持っていないのはとっくに知っているはずだよね。

 うーん……?


『ふははは! もう降参カ! ならばお望み通り喰い殺しテやるわ……!!』


 九つの首が大きく口を開け、俺の周囲を取り囲みました。

 俺はひとつずつその首を確認し、ぽんっと手を叩きました。


「あ、そういうことか」


『? 何を今更――』


 奴が言い終わる前に、俺は黒剣を海面に叩きつけ上空に飛びます。

 あんまり抜きたくないんだけど、文句ばかりは言ってられない。

 鞘に手をかけ目を閉じ、意識を集中します。

 

「一刀流――《霞剣ヘイズソード》!」


 ガキィィン、というけたたましい音が周囲に木霊する。

 暴走した魔力は黒剣の刃と共に奴の周囲を覆う防護結界と衝突した。


『まさか……貴様!!』


「うおりゃああああああぁぁぁ!!!」


 渾身の力を込めて黒剣を振り抜く。

 直後、バリンという音と共に防護魔法が消滅した。


『しまっ――』


 俺はそのまま宙を翻り、目的の首・・・・に目掛けて黒剣を投げつけた。

 ――そう。九つの首のひとつ、額に埋め込まれている魔導増幅装置アヴェンジャーに向けて。


『グ…………グワアアアアアァァァァァ!!!』


 額に黒剣が突き刺さり、悶絶する神獣。

 魔剣以外はダメージを受けないはずの奴が、全身に防護結界を張る理由。

 それは九つある首の一つに埋め込まれている魔導増幅装置アヴェンジャーを守るための措置だったというわけだ。

 わざわざ全身を結界で覆ったのは、フェイクというわけ。

 ……。

 …………。


「……じゃないだろ! 黒剣投げたらアカンやろ! あっ、力が抜ける……!」


 慌てて悶絶している神獣に飛び乗り、額に刺さっている剣を抜きます。

 あっぶねぇ……。

 危うく二本目まで奪われる所だった……。


魔導増幅装置アヴェンジャーが……! まだ試作段階の弐号機が……!!』


 相変わらず神獣本体にはまったくダメージは無さそうだけれど、心のダメージは負ったみたいです。

 あの厄介な機械が無ければ、こいつはただの神獣だ。

 もう用も無いし、俺は帰るね。


「……ああ、そうそう。最後にお前の名前、聞いといてやるよ」


 振り返りざまにうな垂れたままの神獣に声を掛けます。

 そういえば何回か自己紹介をしてもらった気もするんだけど、どうも覚えられないんだよなぁ……。


『ぐっ……! 俺は英雄の息子、レイヴン・リンカーンだと何度モ言っているだろうが……!!』


「…………うん」


 微妙な笑みを浮かべた俺は、そのまま何も言わずにその場を泳いで去りました。

 まだなにか後ろでギャーギャー騒いでいるけど、人違いでウンコにされた俺の気持ちも考えて欲しいです。


「あー、向こうに泳ぎ着いたらすぐに風呂に入って、新しい服も買わなきゃなぁ」


 そんな俺の呟きが神獣の叫び声にかき消されていきました。




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