028 さすがの神獣も俺の色気には敵わなかったみたいです。
あ、どうも。カズハです。
ええと、今、おっきい蛇に喰われて、腹の中を彷徨っています。
もうなんかね、迷路みたい。ここ。
さっそく迷っちゃって、どうしようか悩んでる最中です。
「もう服はビチャビチャのベトベトのネバネバだし、黒剣どこ行ったか分かんないし……。ていうか、足元シュワシュワいってて、暑いなこの場所……」
なんか不安定な足元で水たまりみたいなのが延々と周囲に行き渡っています。
あー、たぶんアレだ。胃の中だから胃液とか、そんなのだ。
普通の人間だったらたちまち溶かされて死んじゃうんだろうね。
「さっさと黒剣探して脱出しよう。ここならさすがに誰もいないし、服は脱いじゃおう。暑いし」
溶かされかけた上半身の服を脱ぎ捨て、ブラジャーだけになります。
さすがに下は穿いてないと恥ずかしいから、足の部分だけ破いてミニパンツみたいにして、と。
靴はいいや。もうほとんど溶けてるし、俺のレベルだったら裸足でも胃液より強いから大丈夫!
「問題は奪われちゃった黒剣の鞘を抜かれたらヤバいってことなんだけど……。たぶんこの蛇、あたま悪そうだから気付いてないよね。お願いだから気付かないでね」
とりあえず胸の前で手を組み、神に願います。
俺の黒剣を飲み込んだのは、額に魔導増幅装置が埋め込まれている奴だったよね。
じゃあ、そいつの喉とかに引っかかってるのかなぁ。
俺を飲み込んだ蛇は別の奴だったし、九匹いる蛇の腹は全部繋がっているのかどうかも分からんし……。
「あー、もう面倒クセェ! 残りの八匹も誰が誰だか分かるように額に番号でも付けときゃいいのに!」
とにかく、この無駄に広い胃の中を探し回ってもキリがない。
こういうときにリリィとかルーメリアとか、魔法に特化した仲間がいれば楽に探せるだろうになぁ。
なんであの黒剣は俺の魔力を勝手に吸収するくせに、持ち主である俺に居場所を知らせるとか出来ないのか……。
――そんなの、簡単だ。
あの偏屈ジジイが作った、奇剣だからだよ!
『ククク……。惨メダナ、魔王』
あれ?
なんか胃の中で声が響いてる。
でも周囲を見回しても誰もいません。
『俺ノ胃液に耐えられるトハ流石だが、黒剣を探そうとしているのであれバ無駄だぞ。すでに転移装置を使って、ゲヒルロハネスに転送済みダ』
「…………へ?」
転移、装置……?
なにそのチート!?
え? じゃあ胃の中を探したって、もう意味がないってこと?
「ちょちょちょ、ちょっと待って……。ええと、大きな蛇さん。あなた黒剣のこと、どこまでご存じなのでしょうか……?」
ここは一旦、下から攻めよう。
場合によっては色気も使って情報を聞き出して、教えてもらったらボコって、逃げる。どうせ倒せないし。
『クク、焦っているナ、魔王。心配するナ。俺は何モ知らない。ジェイド様からは、黒剣を奪えとの命令を受けているだけダ』
ちょっとだけブラの肩ひもをずらそうかと考えていたところで、馬鹿な蛇さんはすぐに情報を教えてくれました。
黒剣を奪えとの命令――。
つまりユウリの読みは当たっていたというわけだ。
連中は魔導増幅装置を大量生産するために、魔力源を探している。
俺の黒剣を奪えば、俺が死ぬまで延々と俺の魔力を吸い続けることが可能だ。
「ええと、もう一個質問です。さっき俺のことを犯すとか、殺すとか言ってたけど、あれって本気ですか?」
そのままの姿勢でちょっとウインクとかしてみました。
顔が見えないので目線が合っているのかは疑問なんですけど……。
『クク、クハハハハ! もう命乞いカ! 当たり前だろウ! 憎き貴様を生かしておく理由など無いワ!!』
胃の中で蛇さんの高笑いが響き渡りました。
あー、なるほどー。
これでこの蛇さんは、本当に何も聞かされていないことが判明しました。
だって俺を殺しちゃったら、魔力を吸収できないじゃん。
どこかに俺を監禁して、黒剣を抜いて魔力を吸収し続けて、得るものを得た後に殺すんなら分かるけど。
明らかに今、俺を犯して殺そうとしている雰囲気がビンビンしてますし。
「はい、ありがとうございました。よく分かりましたー」
俺は行儀良くお礼を言って、その場を去ろうとします。
もうここには用が無いもんね。
俺が胃の中を彷徨っている間に、ユウリ達はとっくに逃げ出せただろうし。
後はここから脱出して、泳いでゲヒルロハネスまで行けば問題なし。
まだ力が抜けていないところをみると、転送した黒剣はまだジェイドの手に渡っていない可能性が高いと思います。
恐らく、ゲヒルロハネスの研究所かどこかに転送してるんじゃないかな。
その辺もユウリやルーメリアが詳しいだろうから、さっさと合流するに限ります。
『……おい、待テ。俺の話を聞いていたノカ? このままやすやすと逃がす訳が――』
「《スライドカッター》!!」
『グハァ……!? き、貴様……! この状況で俺に勝てるとでも――』
「《スピンスラッシュ》!!」
立て続けに二回、片手剣スキルを発動しました。
当然黒剣の鞘は被せたまま。抜くの怖いし。
「おらおら! 早く俺を吐かないと、胃の中をボコボコにすっぞ! 胃潰瘍になるぞ!」
『グググ……! この……!!』
ふーん、どうやら少しはダメージを与えられているみたいです。
体内には防護魔法の効果が現れないってことかな。
まあ魔剣じゃないから倒せないし、すぐに蘇生して回復しちゃうんだろうけど。
でも連続で攻撃を与え続けられたら、さすがに痛いだろうね。
「えい! えいえい! 誰だか知らないけど、俺を飲み込んだのが間違いだったな!」
ありったけの力を込めて、胃の壁を黒剣で殴り続けます。
ほら、本当に穴が開いちゃうよ。
その穴から外に逃げるっていう手もあるし、我慢するならそれでもいいけどさ。
『が、ガハ……!! ち、調子に……乗るナアアアァァァァァ!!』
「おっとっと。…………はい?」
急に足元がグラついたかと思ったら、遠くの方から地鳴りが聞こえてきました。
うーん……うーーーん……?
なんか来ますね。
あれは――。
ザブーン!!
「めっちゃ津波きたーーー!! 胃液まみれになるーーー!! ……ブクブクブク」
慌ててその場から退散するも、あっという間に波に飲まれました。
そしてそのまま上も下も分からないまま流されていきます。
……アカン。酔ってきた。
眩暈がしてきた。気持ち悪い。吐きそう。
……あれ? でもなんか光が見えてきました。
もしかして、外に出られる……?
「ぷはっ! お、外じゃん! またもや結果オーライ! ラッキー!」
というわけで、無事に外に出られました。




