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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第五部 カズハ・アックスプラントと古の亡霊(前編)
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026 勝てなくても立ち向かう姿勢が仲間の信頼を集めます。

「か、カズハ様……! 大変です! ミネアの大渦が……!!!」


 船室から廊下に出た途端、大慌てで俺の名を呼ぶグラハムに出会いました。

 あー、なんか嫌な予感が的中したっぽい……。

 確かに大渦に近付くにつれて膨大な魔力をビンビン感じるし……。


「とりあえずユウリがいる操舵室に向かおう。グラハムはルーメリアを探しておいて」


「は、はい! 畏まりました!」


 そのまま廊下を走り抜け、グラハムはルーメリアを探しに向かった。

 たぶん下にあるラウンジで軽い酒でも飲みに行ってるんじゃないかな。

 自棄酒になってなければ良いんだけど……。


 俺は頭の後ろに手を組んだまま操舵室へと向かった。





「ああ、カズハか。今ちょうど君を呼びに向かおうと思っていた所なんだ」


 操舵室の扉を開け中に入ると、豪華なソファに腰を下ろしたまま、ユウリが俺に声を掛けてきた。

 部屋にはハーブのほのかな香りが漂っている。

 あれ、これって確かミミリが栽培してたお茶の香りだよなぁ。

 マジで旨すぎて、商品化したら売れるんじゃね? とか本気で考えているんだけど。


「君も飲むかい? 淹れ立てだから美味しいよ」


「うん。もらう」


 そう答えた俺はソファに腰を下ろす。

 ミミリのお茶も旨いんだけど、タオやレイさんが作ってくれるお茶菓子も旨いんだよなぁ。

 誰か一人くらい連れてくれば良かったかな。

 女っ気がルーメリアしかいないと、細かい所に目が届く奴がいなくて困るし……。


 ……あ。ユウリは元女で、今は俺が女なのか。

 なんか相変わらず面倒くせぇ世界だな、ここ……。


「ちょっと! あれ、一体何なのよ……!!」


 バン、と大きな音を上げ操舵室の扉を開いたルーメリア。

 その後ろにはグラハムの姿も見える。


「お、ちょうどみんな揃ったじゃん。今ユウリに茶を淹れてもらってるんだけど、お前らも飲むだろ?」


 淹れ立てのハーブティを口に運び、ニコリと微笑んだ俺はルーメリアとグラハムにそう言った。

 いやー、マジで旨い。この鼻に抜ける香りが最高なんだよね。

 俺もいつか魔王城の庭園で自家栽培とかしてみたいなぁ。

 今度、城に帰ったらミミリに作り方を教えてもらおう。


「ななな何をそんなに悠長にしているのよ!! 目の前に見えているでしょうが!! 超でっかい、黒光りした竜の……ばばば化物が……!!!」


 慌てふためくルーメリアは、青い顔をしたまま叫んでいる。

 それを後ろにいるグラハムが宥めているんだけど、奴も同じように青い顔で額に汗を流しているし。


「二人とも、少し落ち着いたらどうだい? 確かに僕らは今、絶体絶命のピンチかもしれない。恐らくあの竜は『神獣』――。かつてカズトが倒したブラックレヴィアタンだと推察できる。そうだろう、カズト?」


「絶対絶命のピンチだったら、それ相応のリアクションをしてよ! どうしてお茶を飲んでいられるのよ!!」


 もう泣きじゃくっているルーメリアはユウリに詰め寄り叫び出しました。

 こいつ意外に泣き虫なんだな……。

 そういうのはタオとかエアリーとかの役回りだったから、今まで気付かなかったけど……。


「カズハ様……! ルーメリア殿の言うとおりですぞ! もしもユウリ殿の仰る通り、あの化物が神獣ブラックレヴィアタンだったとしたら、今現在、魔剣を持たぬ我々には倒すことができぬということでは……?」


 グラハムの言葉でユウリとルーメリアまでもが同時に俺を振り向いた。

 ハーブティを飲み干した俺は、カップをテーブルに置き、胸を張って三人にこう言ってやりました。


「その通り! 魔剣は持ってきてない! よって倒せない!」


 俺が自信満々にそう答えると、ついにルーメリアはその場に崩れてしまいました。

 だって仕方ないじゃん。

 一本は魔王城にいるアルゼインに預けたままだし、もう一本は帝国にいるセレンが持っているし。

 普段、そんなに出番がない魔剣をこのタイミングで俺が持っているわけがないだろうが。

 だから俺は悪くないもん!


「ど、どうなさるのですか……? 以前の戦いでは、魔剣を持ったアルゼイン殿とセレン殿ですら、二人がかりで戦っても勝ち目が無かったと聞いておりますぞ……! 奴の持つ驚異的な蘇生能力を上回る攻撃ができる者など、カズハ様以外にはおらぬのでは……?」


「うん。まあ、ゲイルだったらギリギリ倒せるかも知れないかな。それとユウリでも魔剣の二刀流で挑めば、時間は掛かるけど倒せると思う。でも問題はたぶん・・・・・・そこじゃない・・・・・・


「……? それはどういう意味でしょうか?」


 俺の言葉の意味が分からないのか。

 首を捻ったまま硬直してしまったグラハム。


「ほら、よく見てごらんよ。あの化物の九つある頭のひとつに、何かが埋め込まれているのが見えるだろう? あれに見覚えは無いかい?」


「頭……?」


 ユウリの言葉を聞き、操舵室の窓に視線を向けたグラハム。

 そして竜の頭のひとつに複雑な形をした機械のようなものが埋め込まれているのを発見する。


「あれは……まさか……」


「そう。恐らく、僕らがこれから向かおうとしているゲヒルロハネス連邦国の技術の結晶。エアリーがエルフィンランドの首都にいたときにも繋がれていた『魔導増幅装置アヴェンジャー』だろう」


 その名称を聞き、さらに顔を青くしたグラハム。

 もうここまで聞けば、誰からの刺客・・・・・・なのかは明白だ。


魔導増幅装置アヴェンジャーって、まさか……ユーフェリウス卿が?」


「そういうこと。つまりあの神獣は偽物・・だ。本物はとっくに俺が倒したし、再び奴が復活することなんてあり得ない。んで、魔導増幅装置アヴェンジャーが頭に埋め込まれているってことは、きっと敵さんの誰かに神獣の新生物キメラ因子とやらを注入したんじゃねぇかな」


 そこまで答えて、後はユウリにパスを出します。

 この辺はお前やルーメリアのほうが専門家なんだから、詳しく知っているだろう。


「カズトの言う通りだよ。ユーフェリウス卿は恐らく、議会を通じてミネアの大渦を調査させていたんだろう。そこでカズトの倒した神獣ブラックレヴィアタンの死骸の一部――例えば鱗などを入手した。そこから遺伝情報を抜き出し、いわば神獣の『設計図』を手に入れたんだ。それを新生物キメラ因子として抽出することに成功し、兵士の誰かに注入した」


「注入……!」


 何故かユウリの『注入』という単語に反応したグラハム。

 ……お前はいつもブレていなくて、ある意味尊敬するよ。

 馬鹿だけど。


「ちょ、ちょっと待って……! 神獣の新生物キメラ因子を兵士に注入させて、神獣の複製コピーを作ったっていうのは理解できるけど、そこに魔導増幅装置アヴェンジャーが加わったらもっとヤバいってことじゃないの……?」


「うん。ヤバい。さっきも言ったろ? 『倒せない』って」


「だから!! じゃあ、どうしてそんなに落ち着いていられるのって、私はさっきから言っているのよ!!! ……ああもう、頭が痛くなってきた……」


 ルーメリアにものすごい怒鳴られて、俺は一瞬だけ心が折れそうになりました……。

 そんな大声で目の前で怒られたら、俺が泣いちゃうだろ!

 前に紅魔族がいる監獄での一件でトラウマになってるんだからやめて!


ゴゴゴゴゴ…………!


「か、カズハ様! 津波が押し寄せてきますぞ……!」


 グラハムの言葉で全員が窓の外に視線を向けた。

 神獣は俺らを船ごと海底に沈める気みたいだ。

 うーん、どうしよう。

 というか、最初から結論は出ているんだけど……。


「よし、逃げよう。ユウリ、俺が囮になるから、その間に船を津波から回避させて大渦を抜けられるか?」


「ああ、君がそう言うのを待っていたよ。君が操舵室に到着する前に、準備は済ませてある」


 カップをテーブルに置いたユウリは、船の操縦に戻る。

 それを呆気にとられた顔で見ているルーメリアとグラハム。

 俺は大きく伸びをして、全身のストレッチを始めた。


「お、囮って……。倒せないのが分かっていて、それでも戦うっていうの?」


「うん。まあ倒せないって言っても、黒剣は持ってるし、一応この剣は魔剣の上位互換みたいなモンだろ? ……いや、下位互換かもしれないけど。万が一、まったくダメージが通らなくても逃げるための時間稼ぎくらいはできるし。たぶん」


 自信は、ある。

 俺は海を泳ぐのも得意だから、上手く船を逃がしたら泳いで追い付けば良いし。

 問題は、黒剣を抜くタイミングなんだけど……。

 鞘を奪われたらジ・エンド。

 ヤバい。ちょっとドキドキしてきた……!


「……忘れていたわ。貴女がドМだったってことを」


「誰がドМだよ! それはグラハムだろうが! そんな目で俺を見るんじゃない!!」


 蔑んだ目で俺を見つめるルーメリア。

 それを横で羨ましそうな顔で指を咥えて見ているグラハム。

 いやいや、違うから!

 せっかく俺が身体を張ってお前らを逃がそうとしてるってのに、なにその目は!

 一気にやる気が無くなったんですけど!


「時間が無い。上手く逃げることができたら、魔法便で連絡を入れるよ。合流場所はその時に伝えるとしよう」


「はーい、了解。ちょっとやる気無くしたけど、頑張ってきまーす」



 そのまま操舵室を出た俺は、甲板へと向かいました。




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